第13話 はじめての謁見



「タイガ、ようやく戻ったか」

「待たせて悪かったな。エリシャも」


 アニメとかでよく見る、だだっぴろい謁見の間ではありませんでした。


 いや、充分広いのだけど、ここは執務室って感じだろう。ということは、奥の椅子に座って小鳥遊くんに声をかけたのがやっぱり王様? 想像してたより10歳くらい若いんだけど。マジで同年代ではないだろうか。


「王を待たせて許されるのはお前くらいのものだ」


 別に怒ってはいないみたいだ。

 ていうか、こういう時って跪いたりしなくていいのかなあ。小鳥遊くんは堂々と立っているし、口調も普通。王様は小鳥遊くんの子孫だとか言ってたから当然かもしれない? だけど私はそうはいかないよね。ただのオマケだし、とりあえず小鳥遊くんの影に半分ほど隠れておこう。


「で、それが例の異世界人か」


 おっと。

 初対面から『それ』呼ばわりいただきました。でも確か小鳥遊くん、『流せ』って言ってたよね。王様からしてみたら勇者のオマケでついてきた小娘なんか眼中にないだろうし、このくらいのことはまあ、ギリ仕方ないか。


「こいつは佐藤、佐藤ハルカ。俺の友人だから、ぞんざいに扱うなよ」


 わーん、小鳥遊くん優しいじゃん! しかも友人にランクアップした?

 ていうか釘を刺さなきゃ小鳥遊くんのオマケでもぞんざいに扱われるんだね、ここの倫理観がわからーん。


「ふむ、そう言われては仕方ない。一応客人と認めよう」

「佐藤、こいつが国王のカシューだ」

「ミステア王国国王、カシュー・アスラ・ミステアである」


 不本意そうな声でそう名乗って、王様の意識がいよいよ私のほうを向いた。


「サトーとやら」

「はい」

「勇者タイガに免じて、この国に滞在することを許す。だが、タイガの邪魔をすることは許さん」

「しませんしません、全然」


 できれば滞在もしたくないし。

 ふるふると首を振ると、王様は怪訝そうな顔で顎を上げた。やっぱり歓迎されてる雰囲気ではない、というか、微かな敵意を感じるのはどうしてだ? 隣に控えているエリシャちゃんが見兼ねたのか、やんわりと声をかける。


「陛下、サトー様はタイガ様の邪魔など致しません。それどころか素晴らしい力で手助けをして下さっています」


 うわーん、エリシャちゃんのフォローも優しい。美少女なだけじゃなく優しいなんて完璧か? 私が男だったら絶対惚れてるね。

 しかしそのフォローも王様には効果が無かった。


「間抜けそうな顔には騙されんぞ。それもタイガを自分の世界に繋ぎとめるための策略だろう」


 はい?

 そんな意図は全然無い、っていうかどこの世界で生きるかなんて、タイガくんが決めることだ。あと、間抜けそうな顔って言ったのも聞き逃してないからね!


「佐藤はそこまで考えてない。巻き込まれて右往左往してるだけだ」


 右往左往は余計だけど、おおむねその通りなので何も言えない。

 だけど王様はかたくなだった。


「タイガは人がいいからそう思うのだ。お前のような最強の勇者、どこの世界だろうと誰であろうと、傍に置いておきたいに決まっている」

「俺が勇者なのはこの世界だけだっての。な?」


 私に話を振るのはやめなさい、絶対ややこしくなる。だけど王様の視線がざっくり刺さったのでしぶしぶ答えることにした。


「小鳥遊くんの言う通りです。そもそも私たちの世界では小鳥遊くんも普通の学生ですし」


 同じクラスだし。

 日直もやるし。

 猫の話を日誌に書いたりもする。

 少し変わっているところもあるけど、事情を知ったらだいぶ異常だけど、でも小鳥遊くんはやっぱり私のクラスメイトだ。


「だとしたら、お前たちはタイガの素晴らしさがわかっていない! 強いだけでなく、優しく聡明で凛々しい、完璧な勇者だぞ。正当な評価ができないとは愚か過ぎる」


 お、おう?

 なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。


「伝説の勇者カズヤ譲りの神剣を振るい、何度国を、兵を、民を救ってくれたことか。タイガがいなかったら、我が国は魔物に滅ぼされるところだったのだ」


 めっちゃ語るじゃん。

 隣を見ると、小鳥遊くんはうんざりした顔で明後日のほうを見ている。


「しかもタイガは王家の血を引いている。まさに我が国の守護神、救国の英雄だ」

「カシュー、いい加減にしろ」


 我慢の限界らしく、小鳥遊くんが王様の熱い勇者語りを遮った。そりゃあ目の前でこれだけ褒めちぎられたらいたたまれないだろう。王様ってどんな人かなと想像してたけど、まさかの勇者ガチ勢だったかあ。なるほどなー。


「今は倒すべき魔物の話だ」

「ああ、そうか……そうだったな」


 うんうんと頷いて、王様は咳ばらいをする。小鳥遊くんの言うことは素直に聞くあたり、心酔してるんだろうなあ。確かに小鳥遊くん、この世界ではめっちゃ強いし、普通に判断力はあるし、思い切りも良いもんね、頼りたくなる気持ちはわかる。


「エリシャ、魔物の情報を」

「はい、かしこまりました」


 胸に手を当てて軽く頭を下げると、エリシャちゃんがこちらへ向き直った。なるほど、二人並んでいるのを見ると王様とエリシャちゃんはよく似ている。従姉弟だという話だけれど金色の神と緑色の瞳はお揃いで、姉弟と言われても不思議ではない。


「数日前から、街道沿いで大きな鳥の魔物が目撃されています」

「ガラテアの方角から飛んでくるんだって?」

「はい。それも決まって夜ですわ」


 鳥って夜目が効かないって言うよね。それなのに夜飛んでくるっていうのはやっぱ普通の鳥ではないのだろう。


「それに伴い、民の間で様々な噂が流れているのですが」

「ロクな噂じゃなさそうだな」

「残念ながら、仰る通りですわ」


 エリシャちゃんが可愛い顔を曇らせる。


「鳥の魔物はいつも、ガラテアの方角から飛んできてガラテアのほうへ帰っていくと報告がありました」

「ガラテアって、魔法障壁でガチガチに鎖国してるんだろ?」

「はい。ですが、上空からなら出入りができるようなので」


 濁したエリシャちゃんの言葉を、王様がつなぐ。


「その鳥の魔物を、ガラテアが操っているのではないかという話が出ている」

「……なるほど」


 ガラテアって、仲の悪い隣の国でしょ?

 鳥の魔物は毎晩のようにやってきて家畜や獣をさらっていくとか、あの嫌味な兵士が言っていたっけ。でも、敵国にそんなまだるっこしいことするかな? 牛とか馬とか毎晩一頭ずつ盗まれたとして、せいぜい嫌がらせくらいにしかならない気がする。


「国同士のことはよくわかんねーけど」


 と、小鳥遊くんは首を振った。


「要はその魔物を倒せばいいんだろ」

「おお、さすがは私の勇者、期待しているぞ」


 どさくさに紛れて『私の勇者』ときたよこの王様! マジでガチで小鳥遊くんに心酔してるっていうか、ただのファンじゃない? まあ、若くして王様なんて大変だろうし、色々と苦労も多いのだろけど。


「お前の勇者じゃないけどな。まあ、魔物退治は任せとけ」


 あーあ。

 そんなこと言うと、王様がますます勇者ガチ勢になっちゃう。小鳥遊くんって、けっこう罪作りな男かもしれない。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る