【新技】


 東京都千代田区・水道橋アイガーデンテラス。

 またも不気味な化け物が出現し警備員を襲い、更にビルの入口を破壊するという凶行に及ぶも、突然姿を消してしまった。


 現場には既に警察が出動しており、現場検証が開始されている。

 事件が起きて一時間も経っていない状況であるため、周囲の混乱はいまだに続いている。

 野次馬が現場周辺に集まり、破壊されたビルの入口を遠目に見つめている。


 そんな場所に、司達はようやく辿り着いた。


「ここか」


「まさか同じ場所に二度も続けて現れるなんて」


「うわぁ……こんなに人が居たんじゃ、現場に近付くのも億劫ですね!」


「これじゃ私達も、野次馬と変わらないことになっちゃいますね」


 高輪、青葉台、金沢が至極尤もなことを呟く。

 恐らく現状では、自分達“XENO犯罪対策一課”のことも知れ渡っていないだろう。

 このまま無理矢理現場に割り込むのは得策ではないと考えた司は、ひとまず単独で現場検証の担当者に話を聞いてみようと考えた。


 だが、その時。


(――あれは?)


 黄色いテープを通り抜けようとした司は、人混みの中でふと見覚えのある顔を見た気がした。


(あいつ、まさか生きて――?!)


 司は慌てて、人混みの中に紛れ込む。

 しかし、もうその顔は何処にも見当たらない。


「おい、邪魔だよ何やってんだ」

「割り込むなよ!」


 周囲から罵詈雑言を浴びながらも、司は必死で捜す。

 とうとう人混みを通り抜けてしまった司は、上着の乱れを直しながら溜息をついた。


「気のせい、か?」


「司課長、どうなさったんですか?!」


 心配そうな顔で、高輪が駆け寄って来る。

 そんな彼女に「問題ない」というジェスチュアをすると、司は改めて周辺を見渡した。


「桐沢……いや、まさかな」


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第97話【新技】


 




「ハハハハ、さすが贋作! 一味違う間抜けさじゃん!」


 嘲りの言葉と共に、アンナソニックが二人へ突進してきた。


 一瞬視界から消えたかと思うと、すぐ目の前に実体化する。

 と同時に、アンナブレイザーの胸部に激しい打撃が打ち込まれた。

 超至近距離からの、掌底。

 肘が伸び切っていないにも関わらず、その衝撃は凄まじい。

 アンナブレイザーは、身体を貫通するような衝撃を受け、墜落した。


「うわあぁぁっ!!」


「ブレイザー!」


「ほらほらぁ! 他人を心配している場合じゃないよぉ!!」


「くっ!」


 間髪入れずに攻めて来るアンナソニックの攻撃に、アンナパラディンはホイールブレードでガードをするのが精一杯。

 とてもブレイザーを助けに行ける余裕はない。

 しばらくして、ブレイザーが着水する音が聴こえた。


「あんたさぁ、もしかして前回みたいな事企んでない?」


「なんのことかしら?」


「とぼけんなよ! アンナソニックのエネルギー切れを狙ってるんだろ!

 だけどね、それは無駄だよ」


「?!」


「容量が増強されてるからね!

 前回の数倍の時間、あたしは戦闘が出来るの……さぁっ!!」


 凄まじいスピンを加えた、ローリングソバットが炸裂する。

 それは攻撃を受け止めたホイールブレードごとパラディンを吹っ飛ばす程のパワーだ。


「きゃあっ?!」


「いいねえ、その悲鳴♪

 訓練の時、その声聴くのが何より楽しくってさぁ☆」


「この……!!」


「そうそう、その無駄に食い下がる顔!

 堪らないわぁ♪

 そういうのを返り討ちにしてやるのが、醍醐味ってやつよねぇ!!」


「サディスト!」


 急制御で姿勢を整え直したアンナパラディンは、挫けずソニックに突進する。

 しかしその頭の中では、攻略方法が延々と考察されていた。


(優香は、相手を絶望的な気持ちにさせる事で悦に入る変態。

 だとしたら、エナジーキャパシティの増強は本当だと判断すべきね。

 という事は、時間をかけて消耗を図るのは得策じゃないし、パワージグラットの制限時間もある。

 ――なんとしても、早急にこの場で仕留めるしかない!)

 

 アンナパラディンは、覚悟を決めてアンナソニックに再び挑みかかる。



 だがその直後、突然アンナソニックが爆発した。



「な……?!」



 胸部が爆破され、内部のメカが露出する。

 その奥の隙間には、ぶよぶよとした赤黒い肉のような物体が蠢いている。

 アンナソニックは、何が起きたのか状況が理解出来ぬまま、己の胸を手でまさぐった。


「な、なんだこれ?!」


 想定外の事態に、突進していたパラディンも動きを止める。

 狼狽えているアンナソニックが、またも爆発する。

 今度は、背中だ。


「うぎゃあっ?! な、何が起き――うがっ?!」


 今度は、まるで何かに殴打されたように、真横に吹き飛ばされる。

 しかし、アンナソニックに何かの攻撃が激突した様子もなければ、飛来物が命中したような痕跡もない。

 アンナパラディンも、事態が把握出来ず困惑していた。


「な、何が起きているの?!」


『パラディン、ブレイザーを!』


 不意に、何者かから通信が届く。


「その声は――チェイサー?

 今、どこに?!」


『話は後だ!

 ここは私が引き受ける!

 早くブレイザーの回収を!」


「わ、わかったわ!」


 強く急かされ、戸惑いながらも濠へと突っ込む。

 

(ここは私が……って、あの妙な攻撃は、まさかチェイサーの?)


 半信半疑な気持ちのまま、アンナパラディンは濠の中に落ちたブレイザーのビーコンを辿った。




「だ、誰だ?! 畜生?!

 ひ、卑怯だぞ! 姿を見せろぉ!!」


 怒りの形相で、アンナソニックが怒鳴る。

 既に胸部は大破、背中にも大きな破損が起き、アクティブバインダーも片方損壊している。

 飛行能力も低下し始めており、身体がふらついている。


「い、いったい何が起きてるのよ?!

 くっそ、こんな贋作どもに、私が負けるわけが――」


「お前にもう、勝ち目はない」


「?!」


 すぐ背後から声がする。

 咄嗟に振り返るも、そこには誰もいない。


 

 ――実際には、すぐ目の前に、腕組みをしながら佇むアンナチェイサーが居るというのに。



 アンナソニックの目に、チェイサーの姿は、全く映っていなかった。


「く、くそおっ!! ふざけんなぁ! 卑怯者がぁ!!

 堂々と姿を見せ――」


「お断りする」


 その瞬間、アンナソニックは気付いた。 

 いつの間にか、全方向に数え切れない程のミサイルが出現していたことに。

 僅か数十センチの至近距離に発生した小型ミサイルは、上下左右に隙間なくびっしりと並んで滞空している。

 それを認識した瞬間、全身を衝撃と爆風が包み込んだ。


「ぐ、ぐわあぁぁぁあっっ?!」


 数十回に及ぶ、連爆。

 空中に巨大な爆炎が巻き起こり、大気を振動させる。


 全身の紫色が消え失せ、グレー一色に染まったアンナソニックは、ボロボロになりながら真っ逆さまに濠へと落下した。

 ザブン、と大きな音を立て、水柱が立つ。

 だがその直後、アンナソニックはまたしても上空へと打ち上げられた。


「でりゃああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」


 アンナブレイザーだ。

 怒りの形相で、ファイヤーキックを繰り出し、強制的にアンナソニックを上空へ打ち上げる。

 その後を追うように、アンナパラディンも濠から飛び出し飛翔する。


「行くぞ、パラディン!」


「OK!!」


「が、がが……」


 アンナブレイザーの背中が光の粒子を噴き出し、更に加速する。

 上空数百メートルまで一気に上昇すると、ほぼ無抵抗状態のアンナソニックを蹴り上げる。


 そこに向かって、剣を構えたアンナパラディンと炎をまとったアンナブレイザーが急速接近する。



「「 エビル・スレイヤぁ――っ!! 」」  



 ファイヤーキックとパワースライド。

 二つの必殺技がクロスし、巨大な「X」の文字を描く。


 上空で、激しい爆発が起きた。

 


 ――それを見届けたアンナチェイサーは、急いでXENOの方へと飛翔した。




 一方、 三十メートル級に巨大化したローパーは、なおも毒霧を噴き出している。

 もしこのまま、パワージグラットが解除されてしまった場合、周辺に甚大な被害が及ぶ。

 こちらでも、アンナローグとウィザードが残り時間を気にし始めていた。


「ミスティック、応援に来れますか? チェイサーは?」


『え……?』


「どうしたんですか? 何かあったのですか?」


『え、あ、あの、その』


 何やらミスティックの反応がおかしい。

 かなり狼狽えているようで、こちらの話が届いていないようだ。


「ミスティック?!」


『あの、ちょ、ごめん!

 今ちょっと……無理ぃ!』


「ウィザード、私が様子を見て来ます!」


「わかりました、お願いします!」


 アンナローグは、身体を反転させてミスティックのビーコンを追いかけ飛翔した。

 心配そうな表情を浮かべたまま、アンナウィザードは左太もものリングを外し、ウィザードロッドを召喚する。


 だがそこに、唐突にアンナチェイサーが姿を現した。


「チェイサー?! いつの間に?」


「聞け、ウィザード。

 ANNA-SYSTEMのアップデート状況を確認しろ」


「え? な、何故」


「いいから急げ!」


「は、はい!」


 言われるがままに、アンナウィザードはAIにシステムの状況を確認する。

 しかし、最近アップデートが行われた形跡はないとの結果が表示された。


「アップデートは特にされていませんが」


「くっ、まだか」


「アップデートがされたら、このXENOをなんとかする方法が見つかるんですか?」


「そうだ!」


 力強い声で一括され、アンナウィザードがびくりと反応する。


「仕方ない、皆が集まるまで攻撃を続けて凌ぐんだ!」


「パラディンとブレイザーが闘っている相手は?!」


「それは、じきに片付く」


「わかりました!」


 チェイサーの自信溢れる言葉を信用したウィザードは、こちらに向かって大きく触手を拡げるローパーに向かって、科学魔法の詠唱を始める。

 その時、アンナローグから連絡が入った。


『ウィザード、大変です!

 チェイサーが居なくなりました!』


「チェイサーなら、今ここにおられますよ!」


『ええっ?!』






「――ミスティック、チェイサーならウィザードの傍にいるそうですよ」


「ええっ?! ほ、ホントに?」


「ええ」


「でも、でも! さっき目の前で消えちゃってね、それで……」


「大丈夫ですよ、きっとチェイサーの特殊な力だと思います」


 アンナローグは、そう言いながら狼狽えているミスティックを慰める。

 きっと、急に消えてしまったので一生懸命捜したのだろう。

 涙目になっているミスティックは、少しだけほっとしたようだ。


「あ! そういえばね」


「はい、なんでしょう?」


「チェイサーがさっき“ボルテック・チャージ”って言ってたよ。

 そう言った途端に、消えちゃったの!

 ローグ、何か知ってる?」


「ボルテック・チャージ……」


 その言葉には、強烈な記憶がある。

 吉祥寺研究所に潜入中、ベヒーモスとの戦闘時に見た夢の中で伝えられたものだ。





『――ボルテック・チャージ』


『え?』


『君を次のステージに引き上げる、魔法の言葉じゃ。

 見せ付けてやれ、アンナローグ!』


『ああ……は、はい!』





「知っています、こういうものです。

 見ていてくださいね」


 そう呟くと、アンナローグは両拳を握り、胸の前で合わせる。

 そして空を見上げ、大きく目を見開いた。



「ボルテック・チャ―――ジっ!!」



「きゃあっ!?」


 突然、アンナローグの身体が銀色の閃光を放つ。

 両手を広げると、それに沿って銀の光が胸の前に現われ、真横へ伸びていく。

 それはやがて、幅の広い大きな「剣」の形へと変化する。

 刃渡り1.5メートル程の、ブロードソードのような武器に変化したそれを掴むと、アンナローグは、これまでにない程の急加速で大空に舞い上がった。


「え? え? な、何?

 何が起きたの?! ローグ?」


 唐突な状況に理解が及ばず、その場で佇むアンナミスティック。

 だがその視界の端に


“ANNA-SYSTEM Update Start.”


 という表示が現れていることに、恵は気付いていなかった。





「ぐ……ぐぐ……お、おのれぇ……。

 よぐも……よぐもぉぉ……」


 それはもはや、怨念の塊と呼ぶべきか。

 ボディの大半を破壊され、満身創痍に陥ったアンナソニックは、かろうじて滞空している状態だった。

 胸部の破損は腹部にまで及び、頭部や左肩、右脚にも甚大なダメージが拡がっている。

 また破損した部分の奥には、気味の悪い赤黒い肉のようなものがはみ出していた。

 破損部は絶え間なくスパークを続け、全身の色は、肌の部分も含めて暗いグレーに染まっている。


 もう、アンナソニックに戦闘を継続する余力がないことは、火を見るより明らかだった。

 しかし憎悪の視線を尚もぶつけ、戦闘を継続する意志を剥き出しにしている。


「この野郎、こんな状態でもまだ……」


「優香。悪いけど、これで終わりにさせてもらうわ」


「ふざ……けるな……。

 ふざけるなああぁぁぁぁぁ!!

 贋作のくせに、無能のくせにぃぃぃイイイイイイ!!」


 次の瞬間、信じ難い事が起きた。

 なんとアンナソニックは――否、駒沢優香は、アンナユニットをパージした。

 爆発にも似た勢いで、破損したユニットのパーツを四散させる。

 その想定外の行動に、さすがのアンナパラディンとブレイザーも虚を突かれた形となった。


「コロシテヤル、ゴロジデヤルウゥゥ!!」


 背中から巨大な羽根を生やした優香は、まるで悪魔のような形相で尚も滞空を続ける。

 その迫力に、二人は思わず気圧された。


「こいつ……!!」


「XENOの本性を現そうとしているんだわ!

 ブレイザー、注意を――」


 そこまで呟いたその瞬間、何やら物凄い速度で突進してくる光に気付く。


「あ――」


 パラディンが声をかけようとするよりも早く、その光は優香を巻き込み、一瞬で遥か彼方へと飛び去って行った。

 その場に残されたパラディンとブレイザーは、展開に付いて行けずに呆然とするしかない。


「な、なんだ今の?!」


「! み、見てブレイザー!」


「どうした?」


「ANNA-SYSTEMのアップデートが……始まった?!」


「えぇ?!」


 アンナパラディンとブレイザーの視界の端にも、 


“ANNA-SYSTEM Update Start.”


 の表示が現れていた。





 銀色の光と化したアンナローグは、半透明の蒼を帯びた剣を突き立て、優香を強引に連行する。


「ギ……ギギギ……!!」


 あまりの高速に、言葉を発することも出来ない。

 幅広い刃に腹部を貫かれた状態の優香は、もはやアンナローグのなすがままだ。

 だが彼女は、自分をも上回るような鋭い眼光を目の当たりにして、激しい恐怖に苛まれた。


「うあ……ギャアアァァァァアアア!!」


 化け物としてのXENOの正体を明かそうと、懸命に身体を変型させようとする。

 しかし、何故かうまく行かない。

 優香は、その瞬間気が付いた。

 自分が、一直線にローパーに向かって突進していることに。


(ま、まさか……?!)


 次の瞬間、激しい水しぶきを巻き上げて、アンナローグは優香ごとローパーに体当たりした。

 巨大な爆発にも似た飛沫に、アンナウィザードとチェイサーは思わず顔を覆う。


 だが次の瞬間、


「チェイサー! アップデートが!!」


「よし、来たか!」


「あの、今のはいったい……」


「――アンナローグ!

 聴こえるか?!」


 ウィザードの質問を無視して、アンナチェイサーが叫ぶ。


「“ヘルソニック”を使え!」


「へる……そにっく?」


「行くぞ、これで一気に決める!」


 アンナチェイサーは表情を引き締め、手をぐっと握る。

 その顔には、普段見ないような緊張感が満ち溢れていた。






「――ヘル・ソニック!!」






 銀色の閃光を放ちながら、アンナローグが叫ぶ。

 と同時に、アンナウィザード、チェイサー、そして離れたところに居るパラディン、ブレイザー、そしてミスティックが光の球となって飛翔を開始した。


「うわわ?! な、なんだこれ?!」


「これは……アップデートの影響?!」


「やぁ~ん! こ、怖いよぉ!! お兄ちゃぁ~ん!」


 赤とオレンジ、緑の光の球が飛来し、それに先んじて薄紫と青の光が濠に突っ込む。

 まるで待ち構えていたように漂う銀色の光は、五つの光が揃ったのを確かめるように、くるくると回転を始める。


 すると、その軌跡を辿るように光のラインが描き出され、ローパーと優香はそれに捕らわれてしまった。


(な……か、身体が……?!)


『う、動かない?! どうなってんだ?!』


 やがて真円の光のラインは複雑な魔法陣のような形に変化する。

 五色の光はその外周に沿って停止すると、ローパー達ごと浮上を開始した。


 どんどん上昇していく、魔法陣。

 優香とローパーは、見えない謎の力で身体の動きを封じられたまま、高速で上空へ引き上げられていく。

 その恐怖に、優香は昔の忌まわしい記憶を思い返してしまった。

 



『待って、姉さん! あたしまだ……』


『大丈夫よ優香、あなたなら出来る!

 天才の、どんなことでも出来るあなたなら』


『ちょ、そんな! 私無理――ぎゃああぁぁぁっ!!』





(そ、そんな……まさか、あの時と同じ事が?!

 しかも、今度はアイツらに?!)



 優香は、全身の力を振り絞って拘束を解こうとする。

 その横では、巨大な肉塊としか思えないローパーが、触手をピクピク震わせている。

 その悍ましい光景に、優香は、


(お、覚えてろぉ!! 

 絶対に、許さない! 絶対に、絶対にぃぃ!!

 どんな手を使ってでも、お前らを、“SAVE.”を滅ぼしてやるうぅぅ!!)


 声にならない慟哭、血を吐くような呪詛。

 その時、優香の視界に飛び込んだのは、更に上昇していく六つの光の球だった。



「「「 ヘル・ソニック!! 」」」



 六人の声が、重なる。

 アンナローグ、パラディン、ブレイザーの三人が、三角形を象るように並ぶ。

 対してアンナウィザード、ミスティック、チェイサーの三人は、正反対の位置で同じく三角形型に並ぶ。

 高度は、上空二万四千メートル。

 アンナローグ達は下方へ。

 そしてアンナウィザード達は上方へ。

 タイミングを合わせ加速し、それぞれがすれ違う。


 ――その速度、マッハ3。 


 超至近距離で、六方向から襲い掛かる衝撃波ソニックブーム

 その破壊力は凄まじく、魔法陣の中心に捕らわれたものは、脱出する術がなく、そのまま衝撃を受け入れるしかない。

 ローパーと優香に、尋常ならざる大ダメージが襲い掛かった。


『ぎゃ……』


 悲鳴を上げる間もなく、ローパーの巨体は空中で切り裂かれ、爆砕した。

 と同時に、地上に叩きつけられた衝撃波が、周辺のビルや道路を粉砕する。

 まるで巨大な爆弾が落下したような破裂音が、僅かに遅れて鳴り響く。

 その想像を越えるインパクトに、建物の窓は一斉に割れ、車はひっくり返って吹き飛ばされ、濠の水は全て周囲に飛び散り枯渇した。


 ローパーの肉体は、もはや痕跡すら残っていない。

 半径約五百メートル程に渡り、爆撃を受けたような破壊が生じる。

 それから数秒の間を置いて、六つの光が地上に降り立った。


「こ、これが……ヘルソニック……」


「う……か、身体が……!」


「……」


「め、メグ……ちゃ……」


「これが……合体技かよ。

 無茶苦茶じゃねぇか……」


「た、立ち上がれない……」


 六人は、その場にどっかと倒れてしまった。






「――ふん、やはりあいつ一人では無理だったようだな」


 キリエは腕を組みながら、一人ニヤリと笑った。


 ここは、アイガーデンテラスの事件現場になったビルの屋上。

 そこから西南の方角を眺めながら、誰に言うでもなく呟く。


 しばらく様子を見ていたキリエは、突然指をパチンと鳴らす。

 と同時に、数メートル離れた場所に、全身ボロボロになった瀕死の優香が姿を現した。


「ぐ……ご……」


「さぁて約束だ。

 これで文句はあるまい?」


 両腕を失い、背中に生えた羽根も奪われ、更に身体中いたるところが半壊している。

 頭すらも半分が削ぎ落されたようになっており、通常の人間なら明らかに死んでいる状態。

 にも関わらず、優香は虫の息でまだ生きていた。


「く、そ……が」


「楽しみにしていろ。

 お前と同じ――いや、それ以上のアンナユニットを俺が提供してやる」


「……」


「これは“貸し”にしておく。

 さぁ、帰るぞ」


 キリエは、半壊した顔で悔しそうに呻く優香をマントで包み込むと、その場から忽然と姿を消した。


 

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