【再戦】


 ここは、北新宿一丁目。

 新宿というと華やかで整備の行き届いた街というイメージを持たれることが多いが、実際にはその真逆な地域も多い。

 新宿税務署通りから左手に曲がり、車一台入るのがやっとという細い路地を抜けて行くと、途端に信じられないほど閑静な住宅街に直面する。

 そこは古めの住宅も多く、開発が行き届いていない事が窺える。

 まるで時代の流れに置いて行かれたような雰囲気だが、同時に新宿とは思えない程静かで落ち着いた所が魅力でもある。

 

 そんな地域にも当然店舗はあり、まばらではあるもののいくつかの古い個人店が散見される。

 司が案内された「喫茶AXIA」も、その一つだ。


「……一方通行が多くて、走りづらいな」


 車が二台通り抜けられる路が殆どない入り組んだ小路をトロトロと走りながら、司は車で来たことを本気で後悔していた。


「ここか」


 高輪という女性に紹介された喫茶店は、思ってたよりはあっさりと見つかった。

 明らかに昭和の時代から残っているだろう物件の一階角を陣取る、小ぢんまりとした店は、いささか古風な雰囲気を感じさせて悪くない。

 司は、店の看板をしげしげを見つめると、小首を傾げて入口のガラスドアを開いた。


「いらっしゃい。

 ――あら、お久しぶりじゃない」


 入店数秒で、店主と思われる年配の女性から声を掛けられる。


「いや、この店は初めてだが」


「あぁらそう? すみませんねえ。

 なんだか凄く懐かしい気がしちゃって」


「そうですか。

 実は私も同じことを思って」


「ささ、こちらどうぞ。

 お連れさんがお待ちですよ」


「え、ああ」


 店主に案内され、一番奥のボックス席に誘導される。

 そこには、三人の女性が座っており、司の姿を見るなり立ち上がって会釈をして来た。


「初めまして、司課長ですね。

 私が先程お電話させていただきました、高輪翼たかなわつばさと申します!」


 第一声を上げたのは、電話で聞き覚えのある声の女性だった。

 黒いスーツをきっちりと着こなし、引き締まった真面目そうな雰囲気の人物だが、その美貌とスーツの上からでも如実に伝わるスタイルの良さに目を引かれる。

 

「ああ、よろしく。

 それでこちらの方々は?」


「はい、同じくXENO犯罪対策一課のメンバーに選出されたスタッフです」


 高輪の言葉に、残る二人は再度会釈をする。


青葉台あおばだいつつじと申します!

 私も新宿署におりまして、総務部から抜擢されました。

 よろしくお願いいたします!」


 黒髪ロングと眼鏡が特徴的な、小柄で可愛らしい女性だ。

 彼女も黒スーツを隙なく着こなしてはいるものの、それを激しく押し上げる巨乳にどうしても目が向きがちになる。

 司はコホンと咳払いをすると、青葉台の額の辺りを見るように心がけた。


「よろしく。

 総務部に居たのか、申し訳ないが私は初対面だね」


「はい、司警部のことはうちでもよく話題に上がっておりました」


「話題? 気になるな」


「良い噂ですよ、ダンディでかっこいいって」


「そ、それはありがとう」


 思わず顔を赤らめてしまうが、最後の一人に向き直る。

 こちらは他の二人よりずっと年上な女性で、どちらかというと非常に地味な印象だ。

 しかし、実直そうな眼差しが印象に残る。


金沢景子かなざわけいこと申します。よろしく」


「よろしくお願いします。

 金沢さんは、何度かお見かけしてましたね」


「恐れ入ります。

 青葉台さんと同じ総務部から出向いたしました」


「そうですか、改めてよろしく」


 一通りの挨拶が済んだところで、先程の女店主が注文を取りに来た。


「あたしはみどりでーす! よろしく!!」


「あ、ああ……よろしく。

 そうだ、私の注文は」


「ブルマン?」


「なんでわかるの」


「なんか、そんな気がしてね!」


「……」


 少々不可思議なやり取りがあったものの、翠と名乗る店主は、どこか嬉しそうに奥へと引っ込んで行った。


「改めて、司十蔵です。

 どうやら皆さんの上司ということになったらしい。

 私も正式な辞令はまだ受け取っていないのでまだ戸惑っているが、ひとまずよろしく」


「「「 よろしくお願いしまーす! 」」」


 三人が元気に声を揃える。

 挨拶が済んだところで、高輪が資料のようなものを配り始めた。


「おいおい、ここでいきなり打ち合わせか?」


「申し訳ありません、まだ本拠地が設定されてないそうなので」


「でもここでやるんじゃ、お店に迷惑が」


「いいのよ~♪ どうせお客もそんなに来ないし、好きに使ってね~☆」


 カウンターの向こうから、元気な声が聞こえて来る。

 司は、この距離で良く聞こえたなぁと、翠の地獄耳ぶりに戦慄を覚えた。


「守秘義務って、なんだろう?」


 

 




 美神戦隊アンナセイヴァー


 第95話【再戦】

 





 水道橋・アイガーデンテラス。

 そこで、またも事件が発生した。


 XENO「ローパー」が、唐突に出現。

 先日事件の起きたオフィスビル入口の警備員を襲い、周辺を一気にパニックに陥れた。


「あらぁ、随分早いのねぇ?」


「まさか入口で変身するとはな。

 てっきりもう少し時間がかかると思ったのだが」


 少し離れたところで状況を見守っていた優香とキリエが、ニタニタと笑いながら肥大化していくローパーを見つめる。

 XENOVIA三島が変身した、巨大なイソギンチャクのような風貌の化け物。

 全高約六メートルにも及び、全方向に伸びる無数の触手が人々を襲う。

 その外観は生理的嫌悪感を煽り、不気味な粘液は動く度に周辺に振り撒かれる。

 アイガーデンテラスは、あっという間に惨状と化した。


 ローパーは、変身したままビルへの突入を強行する。

 何処に足があるのか不明だが、ずりずりと身体を引きずるようにして、自身の身体より遥かに小さい入口に無理矢理入ろうとする。


「馬鹿ねぇ、よじ登って窓から入ればいいのに」


「どうやら、元々頭の良くない人間だったようだな。

 コイツはあまり使えそうにな――ん?」


 何かに気付いたキリエが、上空を見上げる。

 一瞬、キラリと何かが輝いたように見えた。


「あれか。来たようだな」


「えっ?」


「お前達の云う、贋作だ」


 その言葉の直後、 目も眩むような閃光が二つ空から舞い降りた。

 無数の触手は一瞬で切り刻まれ、次々に灰化していく。


 天空からの光の筋は人の形に変わり、実体化する。

 アンナローグとアンナチェイサーだ。


「アサルトダガー!」


「ブラックブレード!」


 二人が、それぞれ転送兵器を装着する。

 と同時に、ローパーが彼女達に向き直った。



『またお前達か! しつこいぞぉ!!

 俺の邪魔をするなぁ!!』



 ローパーが、またしても声を上げる。

 その反応に、一瞬ローグが戸惑いを見せる。


「迷うな、ローグ!」


「は、はい!」


「ここから引き離す! ローグ、もう一度ウィンチを!!」


「了解しました!」


 アンナチェイサーの指示を受け、アンナローグは再度転送兵器を呼び出す。

 左腕全体を包み込むように出現した「パワーウィンチ」の先端に、スチールネットのアタッチメントを素早く装備すると、アンナローグはすかさず上空に飛び上がり、発射した。


 アタッチメントが空中で破裂し、鋼鉄のネットが散開する。

 ネットローパーを包み込み、ロックをかけた。

 だが、ローパーはネットの中で激しくもがき暴れ、それにつられてローグの姿勢も崩れる。


「あ、あわわわ!?」


「落ち着けローグ!」


 アンナチェイサーが補助し、二人がかりで無理矢理持ち上げる。

 粘液を飛び散らしながら、暴れるローパーはなんとか上空に引っ張り上げられた。


「ローグ、南西の方角に外濠そとぼりがある!

 そこへ!」


「はい!」


 チェイサーの指示と同時に、アンナローグの視界内に半透明のマップが拡がる。

 かつて江戸城周辺を囲んでいた堀の一部が、埋め立てられずに残っている。

 即座に意図を理解したローグは、両腕のバタフライスリーブをはためかせ、ローパーを運搬した。

 しかし――


「きゃあっ?!」


 突然、アンナローグの腕に触手がまとわり付き始めた。

 ネットの隙間を通れるように細くなった無数の触手が、ローグの身体を締め付けようとする。

 

「くっ!」


 慌ててブラックブレードで触手を斬るチェイサー。

 しかし触手はどんどん増殖し、きりがない。

 あと少しで外濠に辿り着ける、というところで、ローパーの触手がアンナローグの腰に絡みついた。

 そこは、アンナユニットの推進装置「ヴォルシューター」がある位置だ。


 アンナローグの姿勢が、大きくぐらついた。


「わ、わわわっ?!」


「両肩に意識を集中させろ! くそっ!!

 ――ブラックボウガンっ!!」


 アンナチェイサーの左前腕に、大型の黒いボウガンが装着される。

 すかさず発射された「コーキング弾」が炸裂し、ローパーの身体の一部がコンクリートのようなもので固められる。

 触手の動きが止まった。


「今だ、ローグ! 投げ落とせ!」


「はいっ!!」


 アンナローグは、ネットを切り離す。

 外濠に着水したローパーは、大量の水しぶきを上げて沈んで行く。

 周囲には雨のように水が飛び散り、脇を走る総武線の車両にも降りかかったようだ。


「ローグ、頼む!」


「わ、わかりました!!」


 アンナローグは身体を伸ばし、上半身を後ろに思い切りのけぞらせる。

 束ねられたエンジェルライナーは背後に回り込み、一枚の大きな“刃”のように広がる。

 アンナローグの必殺技「ライジング・ヘブン」の体勢だ。


 次の瞬間、アンナローグは垂直に落下し、水面に姿を現したローパーに斬りつけようとする。

 だが、その時……ドン! という激しい音がして、アンナローグは遥か彼方に吹っ飛ばされた。


「きゃあっ?!」


 三百メートルほど吹っ飛ばされたアンナローグは、外堀通りと外堀の境のぎりぎりのところに落下した。

 またも、激しい水しぶきが上がる。


「なに?! ――きゃあっ?!」


 今度は、アンナチェイサーが吹っ飛ばされる。

 何で攻撃されたのかは、わからない。

 だが、見えない圧力のようなものを受けたのは理解できた。

 着水直前で持ちこたえたチェイサーは、自分の位置から数百メートル離れた位置に、何者かが滞空しているのを見止めた。


「へぇ、やるじゃない。

 てっきり無様に落ちると思ってたのに」


「……ソニック!!」


 紫色のメイド服、頭部の黒いカチューシャ、巨大なウィングを思わせる長い髪。

 そして、金色に輝く鋭い眼光。


 そこに居たのは、アンナソニックだった。


「あんただよねぇ? あたしらXENOVIAの邪魔をこそこそしてたのって。

 悪い子ねぇ……お仕置きが必要かしらぁ?」


「くっ!」


 苦々しい表情を浮かべ、体勢を立て直そうとしたその瞬間。

 突然、目の前にアンナソニックが現れた。


「?!」


「遅いねぇ」


 ガンッ!! という激しい音が鳴り響き、アンナチェイサーはまたも吹っ飛ばされた。

 外堀通りを横切り、東京理科大学の上空を突き抜けていく。


「ああ――っ……」


 アンナチェイサーの悲鳴が、遥か遠くへと掠れて行く。

 それを満足そうに見つめると、アンナソニックはゆっくり浮上して来たローパーの方を見た。


「ねぇ? ちゃんと助けに来たでしょ?」


『あんたか。アイツらといい、いったい何なんだ?!』


「あいつらと一緒にしないでよね。

 あのニセモノ共とさ」


 腕組をしながら、外濠上空で浮かび続けるソニックは、アンナローグが着水した辺りをじっと見つめる。

 しばらくすると、ようやくピンク色の姿が浮かび上がって来た。


「い、いったい何が……ケホ」


「それはね、こういう事よぉ♪」


「えっ!?」


 アンナローグのすぐ目の前に、アンナソニックが現れる。

 状況が把握出来ず戸惑うローグの首に、ソニックの右手が食らいついた。


「あぐっ?!」


「あんたが、千葉愛美だね?

 なるほど、確かに美味そうな気配がビンビンしてくるねぇ」


「な、何を……あなたは?!」


「アンナソニック」


「そに……アンナ、ユニットなんですか?!」


「そうよぉ、しかもあんた達のとは違う、正真正銘のホンモノだけどね」


「ど、どういう……」


「フン、贋作のあんたに説明しても意味はないね」


 ギリギリと締め上げられ、首の装甲が悲鳴を上げる。

 メキメキと嫌な音が響き、細かなひび割れは走り出す。

 アンナローグ・愛美は、明確な生命の危機を感じ取った。


 その瞬間、髪から垂れ下がるエンジェルライナーが、勝手に動き出した。


「な?!」


「ハァッ!!」


 エンジェルライナーがアンナソニックの腕に絡みつき、強引に手を引き剥がす。

 その瞬間を見逃さず、アンナローグは後方に飛び、一回転して離脱した。


 即座に攻撃を仕掛けるソニックの拳を、シールドのように変化したエンジェルライナーが受け止める。

 鋼の板にハンマーが打ち付けられるような音が鳴り響いた。


 更に、どこからともなく無数のミサイルが飛来し、アンナソニックに襲い掛かる。


「?!」


 次々に爆発するミサイル。

 しかし、アンナソニックは透明なバリアで全て防ぎ切っていた。


「ふん、さすがにあの程度じゃあ死なないかぁ」


「ちょっと待ってください!」


 不意にアンナローグに声をかけられ、ソニックの意識が逸れる。 

 その瞬間を突くように、上空から高速で飛来したアンナチェイサーだったが、構えたブラックブレードはあっさりと掴まれてしまった。


「な……?!」


「バレバレ♪」


 そう言うが早いか、アンナソニックは素早く身体を回転させ、呆然とするアンナチェイサーに連撃を叩き込む。

 数発のパンチと蹴り、とどめに回し蹴り。

 アンナチェイサーは、悲鳴を上げる間もなく、外濠に叩きつけられて沈んだ。


「チェイサー!!

 酷い、どうしてこんなことをするのですか?!

 あなたも、私達と同じアンナユニットを使っているのに!」


「は! あんた、聞いてないんだ?」


「え?」


「これはね、ANX-01S。

 つまり、あんた達のアンナユニットの基礎になった最初の機体なの。

 アンナソニック――それがこのユニットの名前よぉ」


「やはり、アンナセイヴァーの――」


 そう呟いた瞬間、アンナローグは急接近したアンナソニックのパンチを受け、またも外濠に沈められた。

 水しぶきが、飛び散る。


「んな訳ないでしょ?

 アホなのアンタ?」


 ローグの顔面を殴りつけた右手を振りながら、うざったそうに呟く。


「悠長におしゃべりなんかするから、そうなるんだよ。

 あたしは、あんたらの敵・な・の・よぉ?」


 ニヤリと笑い、ローグとチェイサーの出方を窺う。

 しばらくしてゆっくり浮上してきた二体を見下すように見つめると、アンナソニックは口の端を釣り上げて笑った。

 機体の所々が破損しているのがわかり、更に愉快そうに微笑む。


「弱いねぇ、弱すぎる~♪

 あはは、もう少し歯応えがあると嬉しかったんだけどねぇ」


「な、なんで……こんなことを」


「未来もそうだったけど、よくまあこんな弱さでXENOと闘って来れたもんよねぇ?

 これなら、あたし一人で充分だわ」


「な、何がだ?!」


 苦しそうに胸を押さえるアンナチェイサーの呟きに、ソニックは余裕たっぷりな態度で応える。


「あんた達を皆殺しにするのが、だよ」







 

「――未来!」


 突然、ありさが叫んだ。

 ベッドの上でまどろんでいた未来は、その声に驚いて飛び起きた。


「どうしたのよ。

 笑える系の動画なら、今は気分じゃ――」


「これ、アンナソニックって奴じゃないか?!」


「なんですって?!」


 ここは、病院。

 いまだ回復し切っておらず、入院生活が続いている二人は、退屈な日々を過ごしていた。

 だがスマホでネットニュースか何かを見えいたありさは、紫色のメイド服を来た“空飛ぶ少女”が、同じくピンク色と黒のメイド服少女達を格闘しているという内容に驚愕したようだ。


「まずいわ! 今のローグとチェイサーでは、ソニックに勝てない!」


「どどど、どうすんだよコレ! 一大事なんてもんじゃないじゃん!!」


 ベッドに座りながらじたばたするありさに、未来は真剣な眼差しを向ける。


「決まってるでしょ?」


 そう言いながら、左手首に装着したサークレットをかざす。

 それを見たありさは、即座に表情を引き締めた。


「――だな!」


 シーツを引き剥がすと、ありさは床に降り立つ。

 そして未来も、辛そうにではあるが、同じくベッドから降りた。


「屋上よ」


「合点!」


 強い決意の眼差しで、二人は頷き合った。





 一方その頃、相模姉妹の自宅。


 同じようにスマホを観ていた舞衣は、青ざめた顔で部屋を飛び出した。

 すかさず凱に連絡を取ろうとするが、思い留まる。

 しばらく迷った後、その足を恵の部屋の方向に向ける。


(今、お兄様にこの事を相談したら、絶対に止められる。

 でも――)


 恵の部屋に辿り着き、ドアを開けようとしたその瞬間、中から何やら騒ぐ声が聞こえて来た。


「あっ、舞衣! お前からも説得してくれ!」


「お、お兄様? メグちゃん?!」


 なんと、療養している筈の恵は着替えを済ませており、脱ぎ散らかしたパジャマもそのままに部屋を出ようとしている。

 それを、凱が必死で止めている状況だった。


「お姉ちゃん、大変だよ!

 あ、アンナソニックが!」


「ええ。知っています」


「じゃあ!」


「じゃあ、じゃないだろメグ! お前はまだ……」


「いいえ、お兄様」


 後ろから恵を捕まえている凱に、舞衣は鋭い視線を向ける。


「行きます、私達」


「何を言うんだ! 今行ったら……」


「ああ~ん! メグも行くのぉ!

 愛美ちゃんと霞ちゃんがピンチなんだからぁ!」


「で、でも!」


「お兄様!」


 舞衣が、大きな声で凱を制す。

 それは初めて見せる、舞衣の明確な反発の姿勢だった。


「ま、舞衣……?」


「たとえお兄様が止めようとしても、私達は参ります。

 それが、アンナセイヴァーとしての、私達の役目ですから」


「うん、そうだよお兄ちゃん!」


「行きましょう、メグちゃん!」


「うん!」


「お、おい……」


 姉妹の熱い決意を秘めた眼差しに、凱は、思わず手を放してしまった。






「――ご苦労様。

 では初回の打ち合わせはここまでにして、次回からは俺の方から連絡をする。

 君達はひとまず現在の所属部署に戻ってもらってだな――」


 そう言って席を立とうとした瞬間、司のスマホが鳴る。

 島浦からだ。


「もしもし?」


『司、大変だ!

 水道橋にまたあの化け物が現れたぞ!

 しかも今は外堀通りに移動しているようだ!

 あのコスプレ集団も居るようだ!』


「わかった、現場に向かう」


 通話を切り、三人の女性メンバーに目配せする。

 彼女達も、即座に状況を理解したようだ。


「予定変更。現場に出向くぞ」


「「「 わかりました! 」」」


 綺麗に声が揃うなぁ、と妙に感心しながら、司は自分の車に三人を誘導する。


 店を出てふと空を見上げると、東の方向の空に、光の筋のようなものが複数飛んで行くのが見えた。


「彼女達、でしょうか」


「何か知ってるのか?」


 突然呟いて来た高輪の声に反応する。


「いいえ、ネットで見た範囲でしか。

 でも私、彼女達は“正義の味方”に思えてならないんです」


「正義の……味方?」


「ええ」


 そう語る彼女の眼差しは、気のせいかとても輝いているように見えた。






 外堀通り上空に、赤とオレンジ、青と緑の光が降臨したのは、その直後だった。



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