第15話 告げられる真実
「紅輝くん、何とか一命は取り留めたみたいだって」
「そう……それにしても……最近、雨が多いわね……」
「そういう季節だからね……」
「私、一ノ瀬君にもう無理してほしくないわ……私だってジャンヌと一緒に戦えるから」
「蒼依、確かに君もブレインに選ばれたのかもしれない……けど、キミのお兄さんとの約束、思い出してみてよ。キミの兄さんはどうしてキミを二葉家の子にしたのか」
「それは……でもやっぱり無理よ。一ノ瀬君が倒れた今、次に狙われるのは私達だから……戦わなくちゃいけない気がするの」
「そっか……じゃあボクからはもう何も言わない。ただし、キミに何かあった場合に真っ先に怒りの矛先がボクに向く事だけは忘れないでね」
そう残すと紫音は紅輝が運ばれた病院を後にし、一人町中へと歩いていった。
『クカカカ……愚かな人間よ、我が力に伏し……そして進化せよ。今こそ……世界を書き換える時……!』
町の中央に位置する巨大な電波塔……その一番高い場所である頂点に立ったハデスは両方の掌から紫の光の粒子を飛ばし、町一帯を包み込んだ後、指を鳴らして部下であるヴェルフェ達を呼び出した。
「素晴らしいです……人間達が苦しむ声、泣き叫ぶ様……これ程にまで素晴らしい音楽を聞ける日が来ようとは……!」
「ハンッ、くだらねぇ……けど、ハデスが蘇った今、俺様達に歯向かうような馬鹿な奴は誰一人いない訳だ……このまま乗っ取っちまおうぜ!」
「いや、誰か来てる……紫の騎士、前に一度私に怪我させた人」
「ほぉ……ベルゼブブに傷を付けれる奴がいるとはなぁ。面白い……いっちょ血祭りに上げてやるか!」
ベルゼブブから事情を聞いたマモンは塔の下の方にいた紫音目掛けて飛び降りながら怪人態へ変身した。
「やっぱりここにいたんだ」
『そっちこそ、家で大人しくしてた方が身の為だとは思わねぇのか?』
「こっちは一人やられちゃってるから、キミらの中からも一人消そうかなって思ってさ」
『俺様を消す?そんなひ弱なガキにやれるとは思わねぇけどな!』
「ボクの事をそんな風に見てるなら、今すぐそれは撤回した方がいいよ……じゃなきゃホントに死ぬよ?」
紫音はそのまま左腕のパーカーの裾を上げて紫色のライザーを覗かせつつ、カードを取り出してゆっくりと読み込ませ、紫の騎士……テセウスへと変身を遂げた。
『その姿……お前もブレインとかいう奴の差し金か!?それとも融合体か!?どっちでもいい……そのスカシた面、へし折ってやらァ!』
マモンはその太ましい拳をギュッと握りつつ、勢いよく突っ込んだが紫音の攻撃の方が僅かに速かったのと、テセウスの武器たる不思議な剣による独特な軌道の攻撃によってすぐにその足が止まった。
『コ、コイツ……なんて動きをしてやがる……!』
「だから言ったでしょ?前言撤回して、大人しく下がれって」
『ぐぬぅっ……!あまり俺様を怒らせるんじゃねぇ……そもそも……思い上がるなァァァ!』
完全に一方的な攻撃を受け続けていたマモンは我慢の限界に達したのか、大地を強く踏みしめると同時に全身から赤いオーラを放ちつつ、その姿をより凶暴な獣へ変化させた。
「これもバグの影響か……キミらには色々聞きたい事があったんだけど、お怒りならまずは鎮めてあげるよ」
『中々見どころのある坊やじゃないか……マモン。アンタの相手はアタシだよ!』
紫音のすぐ後ろに妖麗な見た目の女性が現れると、怪人態になりつつ彼の首筋にエネルギーで出来たレイピアの切っ先を突き付けた。
「なるほど……キミらにとってもいよいよラストって感じなんだね。分かったよ……キミの相手はする……けど、ボクの狙いはあくまでもキミらの親玉だって事、忘れないでね」
『分かったわ……約束してあげる。ただし、貴方が私に負けたら貴方の方こそ諦めてハデス様に首を差し出しなさい』
「約束する……ホント、守ってよ」
妖麗な怪人態の女性は呆れつつも自身の要求を呑んでくれた紫音もろとも無言でその場から消えてしまった。
『チッ……アスモスめ、肝心なとこで美味しいとこ持っていく癖は昔から変わらねぇか……まぁいい、出直そう』
―一方その頃、空船と海ヶ丘の間に位置する街·
『……うぅ、自分は一体今まで何を……』
「Wait、今自分のメモリーに負荷をかけるような真似はしない方がいい。キミの体もかなり危険な状態だ……体内にまでバグの侵食が及んでいるからね」
『そうだ……一つ聞かせて頂きたい事がある。自分が眠らされていたこの5年間について、分かる範囲で教えて頂けないか?』
「そうだね……キミはこの5年間、未知のウィルス……その中でも特に変異を起こした個体に取り憑かれ、利用されていたんだ」
『何だと……それでは自分は……自分の意図しない所で自分は大勢の罪無き者達を手にかけていたのか……!?』
ある博士のデスクトップの画面内で休んでいたブレイン……ヘクトールはパートナーより先に意識を取り戻すと、博士から聞いた事実を知ると自分の両手を見た後、そのまま顔を覆って震えた。
「そうなるのも、無理ないか……キミはブレインの中でも特に責任感が強いみたいだからね。いいだろう……私がキミをもう一度戦えるように調整する。だが、一世代前のライザーだった故、それも併せてアップデートするから、時間は頂くよ」
『それは助かる……それから、藍人の容態は……どうなんだ?』
「非常に危険なのはキミと同じだが、彼はキミと違って人間……バグの侵蝕率もその除去方法もよりハイレベルかつデンジャラス極まりないからね……慎重に行わないと彼に最悪後遺症を残すかもしれない」
『なるほど……早めに完治してやってくれ。彼には親友と交わした約束があるんだ……頼む!』
「私も、遊樹博士の遺した素晴らしい存在をこうして自分の手で手直し出来る貴重な機会を手に出来た事、光栄に思うよ。だからこそ……ボクも責任を持って最後までやらせてもらおう!」
『感謝する……!』
―その頃、アスモスの空間の中では一度紫音と彼女は剣を収め、途中から乱入してきたベルゼブブと三人で話をしていた。
「降伏する?ボクらにかい?」
「そう。私の力じゃ多分貴方には敵わない……だから、そうする」
「そうね……アタシもこれ以上アンタと戦ったとしても多分勝てないわ。だって貴方のその剣、そしてそれを扱いきれる技量……貴方、何者か教えてくれたらアタシも手を引いてあげるわ」
アスモスとベルゼブブからの提案に対して紫音は変身を解除しつつ、大きくため息をつくとすぐに口を開いた。
「そうだね……ボクの名前は四谷紫音、二葉財閥の令嬢の蒼依の従者で……そうであると同時に、私設のネット犯罪対策組織リベリオンのメンバーだ。だから、キミらの事も普通の人より知ってるし、警察と同じくキミ達を逮捕する事だって出来るよ」
「リベリオン……という事はアンタはあのバサラとかいう男の差し金だったって訳かい!あの男の元にだけは行きたくないからねぇ……アンタ、降伏を認めてくれるかい?」
「うん……そっちだって身の証を立てたら引いてくれるって話だし、ボクとしてもこれ以上の面倒はごめんだから……大人しくしててね」
「約束する……私達は今後貴方達には干渉しない」
「アタシも、足洗うつもりで手を引くよ。そんじゃ、これもさっさと解いてやるよ」
そう言うとアスモスはフィールドを解除してから軽く微笑むと、傍にいた少女……ベルゼブブと共にその場を後にするのだった。
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