第14話 現れる黒幕
『少しビクついたくらいでは退かないってか……いいねぇ、そうじゃなきゃ……張り合い甲斐がねぇだろ!』
「ヴェクター!お前は必ず倒す……今日、ここで、この俺が!」
『下手すりゃ中の
「当たり前の事聞いてんじゃねぇ!俺は……藍人と約束したんだ……必ず妹に会わせてやるって……そしてもっかい話をさせるって!その約束を果たす為にも……邪魔なお前には……倒れてもらうぞ!うおおおおっ……!」
紅輝は昂ぶっている感情を抑えつつ、ヴェクターと素の状態ながら互角の剣戟を繰り広げた。当然ながら近くにいた人々はそれぞれ散り散りになりながら逃げていた。
『紅輝、このままここで戦闘を続ければ被害が……』
「アキレス、俺は今カード使ってる余裕がない……頼めるか?」
『……承知した。ワープオープン、転送!』
ライザーの中にいるアキレスは紅輝の指示の下、2枚のカードのプログラムを起動して鍔迫り合いになっていた二人をその場から別の場所へと転送した。
―その頃、二葉邸では蒼依とその従者である紫音がリビングで海ヶ丘での事を話していた。
「そう……兄さんらしき人を見たんだね」
「髪の色が私と同じだったし、何より……雰囲気がとても懐かしくて……」
「会いに行かなくていいの?」
「だって、もう5年も前から会えてないもの……きっと私の事なんて覚えてないわ」
「……本当にそう思ってるの?」
「……本当は……会いたい。お礼がしたいの……私を助けてくれた事。今の私があるのは兄さんのお陰……勿論、謝りたい……私だけこんな幸せを手にして……兄さんだけが傷付く事になった事も」
「そっか……その思いがあるなら、必ず会えるよ……」
(藍人……君の妹は、今でも君を覚えているよ……だから君も、そろそろ顔くらい見せてやったって罰は当たらないよ)
紫音は心の中で藍人に対して呟くと、右手に隠し持っていたリモコンを操作するのだった。
―バトルフィールドでは、未だに一歩も譲らない紅輝とヴェクターの攻防が続いていた。
『オレをここまで追い詰めたのは褒めてやる……そうだな、追い詰めた褒美として……オレと
「何……!?」
『オレはコイツの願望そのものだ……コイツはなぁ、妹を自分の父親の計画の犠牲にしないためにって自分を囮に逃したんだよ。けどな、その代償としてコイツはXナンバーのプロトタイプ……ヘクトールとのキズナアクセスの実験を何度もやらされた!』
『何だと……ではやはり、私達の祖たるヘクトールのデータが抹消されていたのは……』
『そうさ……その時の度重なるハードな実験の中でアイツもあのバカも揃って精神をすり減らし……そして二人の闇はどんどん濃さを増した……』
「その果てに生まれたのがお前……なのか?」
『そうだ……オレはデータのバグやその残留がアイツらの闇や負の感情を学習した結果誕生し、そしてアイツらがビクついて何も出来ない代わりにアイツらがしたい事をしてきた訳だ……!』
「だとしても……何で復讐なんて!」
『言ったろ……擦り減っていく日々の中で次第に父を始めとした研究者達への怒りや憎しみ、妹を救う方法の虚しさから来る後悔……オレを完全なる存在にするには十分な餌だったんだよ!』
ヴェクターの鋭い肘打ちが腹部に直撃し、紅輝はそのままバランスを崩してしまい、そこにつけ入る形で蹴り上げ、彼は近くの岩壁に叩きつけられてしまった。
『そしてオレはここまで来るにあたって様々なバグというバグを食らい、コイツを痛めつけて完全に支配した……お前らが何を考えていたとしても、コイツがお前らの元に帰ってくる事は……無いんだよ!』
「がぁっ……ぐっ……!1ウィルスが……ちょっと背伸びしたからって……人間を完全に支配だなんて出来る訳ない……自分の胸に手を当てて聞いてみたらどうだ……きっと今も藍人は抵抗してるはずだ……」
紅輝はヴェクターにトドメを刺されかけたが、何とか右腕でこれを防ぎながらそのまま少しずつ押し返していた。
『コイツ……まだやれるっていうのか……!?』
「お前が散々バカだのゴミだのと見下してきた奴は……こうして誰かの為にってなったら何処までも本気で戦えるんだよ……!」
ギリギリまで押し返した紅輝はそのまま前へ突き出すように蹴り、その勢いを活かして体勢を整えた。
『良く言ったぞ、紅輝!このまま一気に押し返せ!そして……私の兄と……君の親友を取り戻すぞ!』
「あぁ……けど、決めるのは……俺達、だろ?」
『……そうだな。私と紅輝、二人で決めよう……』
『させるかぁ……お前らみたいな奴に倒されてたまるか……!』
「一撃で終わらせてやるから……少しだけ我慢してくれよ、藍人……これが俺達の……全力だ!」
紅輝は上空へ飛び上がると、両手に持った剣に赤いエネルギーを集中させると同時にクロスさせ、そのまま落下しつつすれ違う瞬間に切り付けた。
『なっ……こ、このオレが……こうもあっさりと……!?』
「勝負は俺達の勝ち……さ、返してもらうぞ……藍人とアキレスの兄ちゃんを!」
『それは困りますねぇ……』
紅輝が膝をついたヴェクターに近付いた次の瞬間、彼は背後からヴェルフェに奇襲され、そのまま地面を転がってヴェクターから遠ざけられてしまった。
「お前は……海ヶ丘で逃げてった奴!一体何しに来たんだ!」
『ックク……貴方にはとてもとても感謝していますよ。彼をここまで追い詰めた事……何より、弱らせてくれた事』
そう言うとヴェルフェはまるで脈打つように光っている石を取り出しながら強引にヴェクターの体を立たせた。
『何をする気だ貴様……!』
『さぁ、ヴェクター……最期に言い残す事は何がありますか?あるなら今のうちに聞いてあげますが』
『まさか……それは……!?』
『無いというのなら、早速……』
ヴェルフェはヴェクターの意思を無視してその石を直接彼の体の中へ埋め込みつつ、突き放した。すると忽ち彼の体から凄まじい勢いで黒い靄が噴出し始め、彼の体を包み込むとドス黒い稲妻が走り、何かが音を立てて割れると同時にその中から禍々しい雰囲気を放つ存在が現れた。
「藍人……!」
『まさか……コイツは……』
『ご紹介致しましょう……偉大なる闇の王ハデス様で御座います』
『馬鹿な……ハデスはかつて私と遊樹博士が電脳世界の果てのレッドゾーンに封印したはずだ!それが何故……』
「ハデス……確かにそんな感じの見た目してるな……んな事より藍人はどうした!」
『彼ならもう間もなく消滅するでしょうね……尤も、ハデス様復活には不要な存在でしたけど。彼の器である以上、私の勝手で消そうと思ってましたがね』
「ふざけるな……アキレスの兄さんや……俺の父さんだけじゃなく……俺の大切な親友までも手にかけるつもりかぁぁあ!」
『……!』
ヴェルフェの非人道極まりない行いに対して一気に怒りが頂点に達してしまった紅輝が彼に斬りかかろうとした次の瞬間、ハデスがそっと片手を伸ばすと彼は赤黒いエネルギーに拘束されてしまった。
「ぐっ……離せっ……!」
『クカカ……私がそんなに憎いか、坊主……だがな、これが現実というものだ』
ハデスが伸ばしていた腕の掌を強く握ると彼を拘束していたエネルギーが派手に爆発し、当然ながら紅輝は変身が解除されてその場に倒れてしまうのだった。
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