第10話 禁忌のプログラム
(とまぁこんな感じで、海ヶ丘に向かうまでの1時間……その間に俺とアキレスは新しい力を手に入れはしたんだけど……その代償はあまりにも高くついてしまったみたいで……)
「痛てて……何か腕が痛くて上がらないんだが……」
「全く……さっき急にいなくなったと思って探しに来てみたら……何で昇降口で倒れてるんですか」
紅輝は現在足しか動かせないくらいに弱っていた。何とかアキレスの補助を借りながらも昇降口まで移動出来たが、そのアキレスも戦闘のダメージが酷かった事もあって完全に機能を停止してしまった。
「俺だって色々とあったんだよ……んな事より今は休ませてくれよ……」
紅輝はそう言うと完全に力尽きてしまったのか、ガクッと首が下がってそのまま意識が完全に飛んでしまうのだった。
「私、近くの売店で何か飲み物を買ってきます。その間なら休んでてもいいですよ」
「お、おう……ありがとな……」
蒼依はかなり大きめなため息をつくと彼を近くの椅子に座らせた後で彼をその場に残して売店の方へと向かった。
『紅輝、腕の具合はどうだ?と言っても、依然変わりなし……といったところか』
「まぁな……まさかあんな力を発揮出来る反面でここまで酷い跳ね返りがあるとは……」
『私もいまいち各プログラムを正常に動かすのがやっとな気がする……あのクリアカードは使い所を考えねばならんかもしれんな』
「うーん……この先もあんなのとやり合うって考えた時、使いこなせなかったら意味ないし……難しい事を持ち込んじゃったかもな」
『そうだな……ん、誰かこちらへ向かってくるぞ』
「へっ……?二葉さんなら当分戻って来ないとは思うけど……」
背もたれにもたれかかってややぐったりとしていた紅輝の元へやってきたのは黒いパーカーを着た一人の少年だった。
「かなり疲れてるみたいだね。ここに来るまでに何か騒ぎがあったみたいだけど、大丈夫?」
「あ、あんまり大丈夫じゃ……ないかも。てか君……誰?」
「僕は
紺色の髪の少年……藍人は紅輝に軽く自己紹介をしつつ、彼を覗き込むように見ながらそう提案した。
「気持ちは嬉しいけど、今はパス……見ての通り、まともに動けそうにないんだよ」
「そっか……じゃあ、僕もここらで一度帰るよ。また君とは話がしたい……その時までには具合が良くなってるといいね」
「ホント、その通りだよ……」
藍人は少し残念そうな様子で紅輝の元を去り、そしてそれと入れ替わる形で蒼依がレジ袋を提げて戻ってきた。
「あ、蒼依……おかえり」
「おかえり、じゃないわよ!それより……腕の調子はどうなのよ」
「普通に動く分には特に問題はないし、そろそろ海高附属中に行こうか」
「はぁ……全く、貴方って本当に付き人な人ね。まぁいいわ、急ぎましょう」
二人は昼になってようやく駅を出ると、目的地である海ヶ丘高校附属中学校へと向かうのだった。
「ようこそ、海中へ。貴方達の事はそちらの校長から聞いている。ここには学生寮があるから、数日の間はそこを利用してくれ」
「分かりました。では、早速ですが荷物を置かせてもらいますね」
「ふぃー……やっと重い荷物とおさらば出来るぜぇ……」
―その頃、屋上では―
「うっ……ぐっ……!」
『よぉ、藍人……そろそろオレに体返せよ』
「や、約束が違うよ……ヴェクター!そもそも僕の体だろ……!」
屋上のドアに薄っすらと映ったもう一人の藍人は怪しげな笑みを浮かべつつも彼に向かって提案を持ちかけた。しかし、藍人はヴェクターからのその提案を蹴るように反論した。
『あれ、いいのかなぁ?誰のお陰でこうして外の空気を吸えてるのか、忘れちゃったのかなぁ?』
「それはっ……!」
『そういう事だから……体はもう少し借りさせてもらうぜ』
「なっ……ぐっ……ぁぁぁあっ!」
突然鏡に映ったヴェクターが手を伸ばしながら迫ると、それに合わせるように藍人が苦しみ始め、やがて足から崩れ落ちて無言になると……次に起き上がった時には髪型や目の色を含めて藍人ではなくヴェクターへと変化していた。
「さて……そろそろアイツにもアイサツしてやるか」
ヴェクターは不敵な笑みを浮かべつつ、黒い騎士の姿へ変化すると、そのまま屋上から飛び降りた。
『……紅輝、下がれ!』
「へっ……おわぁっ!?」
荷物を置きにいったその帰りに紅輝の目の前に突然ヴェクターが出現し、同時に切りかかってきたが、アキレスの咄嗟の指示に合わせて何とか回避した。
「お前……どうしてここにいるんだ!てか、目的が俺なら何で列車に乗ってるタイミングで来なかったんだ!」
『突っ込むところそこか!……とにかく、挑まれたからにはやるしかない!』
「これから蒼依と出かけるって時に何て事してくれるんだ……あぁもう、こうなりゃやけくそじゃあ!」
「アクセスアップ、レッドアキレスッ!」
『オ、オペレーション……スタート……』
紅輝はよっぽど邪魔された事が頭にきたのか、乱雑にカードを読み取らせるとそのまま走りながらヴェクターに突っ込んだ。
「これは傑作だなぁ……激怒した人間と戦えるなんてなぁ」
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
完全に怒り心頭な紅輝は血迷ったのか、鍔迫り合いの状態から頭突きをかまし、さらに助走も付けずにドロップキック放ってヴェクターを吹き飛ばした。
「くっ……ハハッ。それがお前の本気か?だったらもっと見せてくれよ」
「見たいなら見せてやるよ……思う存分なぁ!」
『お、おい……紅輝、何かいつもとキャラが違うぞ!あ、いや……変わらないような』
「アキレスはちょっと黙ってろ!てか、どいつもこいつもイライラさせんなぁ!」
紅輝はアキレスにも八つ当たりのような発言をした後、ヴェクターの盾を破壊する為に一方的な攻撃に出た。
「いいねいいねぇ……技のキレ、精度……そのどれもが極致に達してる……!」
「だぁーまぁーれぇえええっ……」
しばらく紅輝が一方的に攻撃していたが、次第に彼の体から赤い光が漏れ出した。
『……紅輝、それ以上感情を下手に昂ぶらせるな!何かまずい事が起きそうな予感がする……聞く耳がまず無いか』
「うおおおおおお……邪魔なやつは……全部……たたっ斬ってやる……っ!」
〈
紅輝の鎧に走っている青い光が禍々しさもある赤に変わり、一部の装甲が展開したと同時にエネルギーを噴射し始めた。
(まずい……このプログラム、私を完全に拒絶している!それに……これは以前にも見た事がある……遊樹博士とは別の博士が組み込んだ……対Xナンバー用最終兵器プログラム。だが……何故このタイミングで……?)
『AMBROSIAが発動してしまったか……』
「貴方は……まさか、遊樹博士!?」
『アキレス……君も気付いていると思うが、ヴェクターは元々Xナンバーのブレインだ。そして、それを君と紅輝が認識した今……プログラムの凍結が解けてしまったのだろう』
「私の手で紅輝を取り戻す方法は……」
『存在しない……あのプログラムはキズナアクセス発動状態のまま、ブレインにロックをかける……そうなれば、もう干渉は不可能となる』
「くっ……何故ですか!何故私達にこんなものが……!」
『……』
遊樹はアキレスからの質問に対して無言を貫きつつ何かを表情に残したままその場から消えてしまった。
「ぐっ……おおおおおっ!」
「コイツ……急に動きがっ……!」
同じ頃、紅輝は完全に我を忘れてヴェクターと互角かそれ以上の戦闘を展開していた。しかし、そうしている間にもプログラムの弊害は彼の体を少しずつ蝕んでいくのだった。
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