第9話 単純こそ俺の答え!

『こうなればやむを得ん……お前の体、少しだけ借りさせてもらうぞ……!』


 アキレスは紅輝の体を借りて再び立ち上がらせると、今度は軽やかな身のこなしで相手の懐へ飛び込みつつ、蹴りを主体としたスタイルで相手に攻撃を仕掛けた。


『やはり数で攻めても意味はないか……一体何がコイツを突破出来るというんだ……紅輝の意識が戻る前に何としてでも私の手で探し出さねば……コイツの……弱点を!』


 アキレスは彼にしては珍しく声に少しだけ焦りを見せつつも懸命に分析と戦闘に没頭していき……少しだけではあるが相手の弱点らしきものを見つけた。


『攻撃を自らするのではなく、防ぐ事によって蓄積させ、その堅牢な装甲に乗せて放つというカラクリか……何ともまぁ面倒な仕掛けだな』


(アキレス……何か分かったのか?)


『紅輝か!吉報だ……奴の突破口が見えたぞ……奴は装甲が高いだけで特段火力が高い訳ではない』


(こっちのダメージはしっかり入ってたって事か!?)


『微弱だがな……だが、私達の場合数の多さで蓄積量も比例して高めになってしまっていたんだ』


(それが分かったとしても……どうすりゃいいんだ?厚い装甲を破らない事にはこっちに勝ち目はないぜ?)


『ジェノサイド移行、アブソーブ最大稼働……攻撃メインにシフトチェンジ』


 巨人はアキレスの行動に対して対抗策として再度モードを切り替えた上で積極的に攻撃を開始した。


(何かさっきより状況酷くなってないか!?)


『ここまでパターンを切り替えて食い付いてくるとは……!』


(俺に変われ!俺ならもう大丈夫……俺達で今度こそアイツをギャフンと言わせてやろうぜ!)


『紅輝……そうか、ならば私も今一度お前にかけるとしよう!』


 アキレスはそう言うと紅輝に体の主導権を返すと、すぐに紅輝はドロップキックを巨人の胸部のクリスタル部に直撃させた。


『損傷率35%……戦闘を継続します』


「渾身のドロップキックでもダメなものはダメってか……じゃあどうしろっていうんだよ!」


『紅輝、たった今……私の有するメモリに新たな反応が起きた。そしてそれに合わせてお前の所有するデッキのカードにも変化があった……確認してみてくれ』


「そっか……どれどれ……」


 紅輝はアキレスに言われるままに自分の腰のデッキから一際強く光を放っていた一枚のカードを引き抜いてみた。するとそのカードは赤いクリアカラーに変化し、屈強な上半身を持つ巨人の絵が刻まれたものになった。


「これって……もしかしなくても、俺達をパワーアップ出来ちゃうやつじゃない?」


『私にも正直理解は追い付けないが、今はこれにかけてみるしかなさそうだ……早くしないとこの電車が危ない……』


「だな……何事もまずは試しからって事で一つやってみよう!」


 紅輝は左腕のリアライザーにその赤いカードを通すと、そのカードから発せられた光は彼の体を包み込むと同時にカードの絵柄とよく似た体格の戦士へと変化させた。


「何かムキムキになったぞ……妙に力が湧いてくる気がする!おーし……食らえぇっ!」


 紅輝が喜々とした様子で勢い任せな右ストレートを繰り出すと、赤い衝撃波のようなものを伴いながら相手を大きく吹き飛ばした。


「わぉ……自分でもぶっちゃけびっくりが止まんないよ。さっきと違って殴っても全然痛くない!」


『損傷率45%……継戦可能……』


「まだまだ行くぜ……おりゃぁっ!」


 紅輝が両足を揃えてドロップキックを放つと、相手の防御態勢を崩すどころか、余った勢いで胸部の水晶に大きな亀裂が入った。


「おぉーっ、何か若干ヤケクソ気味にあれこれやっちゃったけど、こんなに上手くいくなんて……この力すっげぇな!」


『損傷率87.9%……ジェノサイド解除、セーフティモード起動……一部機能停止……』


「さっきからごちゃごちゃうるせぇ……なぁあっ!」


 紅輝は自身の二度の重い一撃を受けてもなお立ち上がっては奇怪な音声を発し続ける相手に対して苛立ちが頂点に到達したのか、エネルギーを一点に集めたストレートパンチを腹部に放ち、大きな風穴を開けた。


『グ……ゴ……ガッ……』


『紅輝、時間が惜しい……このままデリートフィニッシャーで決めろ!』


「あぁ……新しい技がひらめいたところだ……早速練習相手になってもらうぜ!」


 紅輝はもう一枚のクリアレッドのカードをリアライザーに通し、変形した両肩部のアーマーから赤い炎のようなエネルギーを放出しつつ両方の拳にエネルギーを溜め込んだ。


「名付けて……ブーストコンビネーション!いっけぇーっ!」


 紅輝の連続パンチに耐えきれなかった相手の黒い巨人は最期に何も残さぬまま紫の粒子となって霧散した。


〈エマージェンシー、エマージェンシー……当トレイン制御プログラムに異変を確認……〉


『!?……どうやら、仕掛けられたのは私達のようだぞ……紅輝』


「アキレス、分かるように教えてくれ!」


『先程私達が苦肉の策を用いて倒したあの黒い巨人は既にこの列車の自動運転システムをハッキングしていた……だけに留まらず、デリートされた場合、強制的に暴走させるようなカラクリが仕込まれていたようだ』


「つまり……この列車は今、無人で制御もろくに受け付けない上で暴走始めたって事かよ……!」


『そう考えていいだろう……だが、どうする?今からプログラムの復旧に取り掛かるか?』


「それも大事だけど、大前提としてこの列車が次のホームに着くまでに何としても暴走を止めるぞ!」


『おい、待て……まさかとは思うが、直接列車を止めるつもりじゃないだろうな!?』


「俺は少なくともそうする……アキレスは俺が列車の速度を下げてる間にプログラムの復旧作業に入ってくれ。無茶は承知だし、捨て身で無謀でバカやってることもこの際全部叱られ覚悟は出来てんだよ!」


 そう言うと紅輝は変身をキープしたまま外へ出ると思いっ切り列車の正面から列車を押さえ始めた。自身を支える両足にも力を込めるがやはり相手がかなりの速度を出している事もあり、彼のローラーシューズからは明るい赤の火花が散り、悲鳴にも似た音を立てた。


「くっ……うぅっ……!何が何でも……止めてやるからなぁぁああ!」


 紅輝は更に押さえる手に込める力を増やし、両肩のアーマーからは青白い炎が吹き出した。しかし速度が落ちる事はなく、依然として彼の方が押されていた。


『こちらアキレス……現在プログラムの修復は順調にいっている。今からブレーキプログラムを作動させる……もう少しだけ耐えてくれ!』


「いいぞアキレス、この調子でどんどん頼むぜ……ちなみに次の駅まではあとどれ位かかるんだ?」


『海ヶ丘総合駅までは残り1km弱……私もなるべく手早く処置を済ませているが、間に合うかは保証出来ない……』


「何とかするのが俺らの役目だろ……!絶対止めるぞぉ、アキレス!」


『了解した……ブレーキプログラム正常作動を確認、速度の低下も始まったぞ!』


「俺は父さんの遺したこの技術が作る未来を見てみたい……だから……こんな所でこんな目にあって……死人なんか出てほしくない……その為に……ここで俺が全力をぶつけるんたぁぁあ!」


 紅輝の全力の叫び声に呼応するように全身のパワーシリンダーのリミッターが外れ、全身の蒼炎の勢いも凄まじくなり、電車を押さえている掌のアーマーからも炎が上がり始めたが……次第に列車の速度が落ちていき、ローラーシューズから発せられる火花も弱々しいものへ変化した。


「ぐ……ぁぁぁぁぁあ!」


『全プログラムの応急処置、遅滞なく完了……ブレーキプログラム、出力最大……!』


「止まれぇぇぇえええ!」

『止まれぇぇぇえええ!』


 二人の全力が実を結んだのか、総合駅まで残り数メートルの所で列車は動きを完全に停止した。


「ふ……ふぅ……と、と……」


「止まったぁ……」

『止まったぁ……』


 しかしその代償として彼らは変身が解除され、そしてそんな紅輝は脱力するとそのまますぐ後ろにあった列車認識用のバリケードにもたれかかって、アキレスと声を揃えて弱々しい呟いた。

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