第11話 ハロー、ニューフェイス
「うおおおおっ……!」
「ぐっ……フフフ。いいぞ、もっとリミッターを外せ……オレを楽しませろぉ!」
(何とかして紅輝の意識にアクセスする術を見つけねば……システムに食われるなどあっていいはずがない……!)
暴走した紅輝とヴェクターの一進一退の凄まじい攻防が繰り広げられる中、精神世界にて遊樹博士から自分達に関するある秘密の一端を教えてもらったアキレスはただ一人、彼を縛り付けるものを解除すべく奮闘していた。
「おおおおおお……俺が……俺がお前を倒すんだ……ここで……!」
「やれるもんならやってみろよ……ほら」
(ダメだ……ヴェクターの煽りに乗せられて完全に私が介入する余地がない……このままではいずれ紅輝の脳に過電流が流れてしまう……)
アキレスが紅輝のリアライザーに何度も進入しようと試みるも、何度も赤い電撃を放つバリアに弾かれ、結果的に入れずに時だけが過ぎようとしていた。しかし、次の瞬間に青い斬光が走り、紅輝とヴェクターを引き離した。
「何だ……今の……」
「異常な電波反応を2つ見つけて来てみれば……どうしちゃったの、アキレス?」
「チッ……新手か」
(あの声……まさか、ジャンヌか!?)
「……そういう事なら、えぇーいっ!」
青いレイピア使いの女性戦士は素早く紅輝に迫りつつ、鋭い一撃を浴びせた。
(紅輝が怯んだ……この好機、利用させてもらうぞ……ジャンヌ!)
『……紅輝ぃいいいっ!』
ジャンヌの一撃とその際に生じた隙を付いたアキレスの尽力によって紅輝のリアライザーからショートによる火花が散り、変身が半ば強制に近い形で解除され、勢いの余った彼は地面をそのまま派手に転がってしまった。
―その後、海ヶ丘高校附属中学校 保健室
「……ってて、あれ?ここって……」
「海高附属中の保健室よ……貴方、さっき運動場の付近で倒れてたのよ」
(そうだ……さっき俺は蒼依んとこに行こうとして、そしたらヴェクターの奇襲を受けて……あれ、そっからの事が何も思い出せない……)
「運動場……そういや、気を失う直前に青い剣士を見たんだけど……」
『それ、もしかしなくても私の事かな?』
紅輝がギリギリ姿を見れた戦士について話題を出した途端に蒼依のリアライザーから聞いた事のない少女の声が聞こえてきた。
「うわぁっ、何か蒼依のライザーの中に何かいるぞ!?」
『何かって……私はブレインよ、ブレイン。ちなみに固有の名前はジャンヌよ』
『やはり、あの時私の救援に駆けつけた剣士は君だったのか……』
「何だアキレス、あの子の事知ってるのか?」
『あぁ……彼女もまたXナンバーに区分されるブレインの一体で、5年前を最後に行方が分からなくなっていたんだ』
「なるほどなぁ……けど、何で蒼依のライザーにいるんだよ」
『やっぱりそれが気になりますよね……結論から言わせてもらうと、近くに私が実体化出来そうなきっかけがあった、って感じです!』
「そのきっかけって……まさか、二葉さん!?」
「えぇ、そうよ。誰かさんがあまりにも独断行動を繰り返すから、この子の話に乗らせてもらったのよ」
蒼依は何処か嫌味を含んだような様子で紅輝に迫りつつ、自身が変身するに至った経緯を説明した。
『これに関しては紅輝のそういった性格もあるが、一番の原因は私にあるだろう……それはいいのだが、会議はいつ行われるんだ?』
「予定だと、明日の朝10時から14時になっているわ」
「ん何ぃ!?4時間も座談させられんのかよ!」
「海ヶ丘で進められている研究についても話があるみたいだから、寝ないようにね」
「ぜ、善処しまーす……」
―その日の夜、海ヶ丘高校附属中の校庭
「今日は結局、ここに来るまでに随分と手荒極まりない歓迎を受けたなぁ……」
『列車の暴走……ヴェクターの襲撃、私達のキズナアクセスの裏に隠されたプログラムの暴走……確かに物騒だな』
「誰と話してんだ?しかもこんな時間にここにいるなんて……物好きなやつだな」
校庭のベンチに座ってアキレスと話していた紅輝のもとへジャージを着てタオルを片手に持った金髪のショートヘアの少年……らしき人物が近づいてきた。
「こっちだって色々あるんだよ……ってか、誰よ君」
「オレか?オレは
「俺は紅輝……一ノ瀬紅輝、普段は空船中に通ってるんだけど今は訳あってここに来てるんだ」
「その訳ってあれ……合同会議とかいうやつの事だろ?」
「な、何で知ってんの……!?」
「あっははは……オレもそれに参加するからだよ、紅輝」
「って事は五日さんもここの学級委員なのか」
「瑞黄でいいって。それと……オレは学年代表なんだぜ?」
「へぇ……で、何でジャージ?部活とかクラブは時間帯的にはもう終わってるぞ?」
「じ、自主練だよ……夏の新人杯、負けたくねぇからな!」
「口調の割に真面目なんだな、瑞黄って」
「なっ、真面目って……んな事言うな!オレは好きでやってるんだ!」
少年らしき人物は急に顔を真っ赤にして紅輝に勢いよく反論した。
「ごめんごめん、思った事がつい口に出ちゃったみたい……そろそろ俺は戻るよ。明日は互いに寝坊しないようにな」
「う、うるせぇ……オレは寝坊なんかしないっつーの!」
紅輝はそのまま寮の方へと歩いていき、少年らしき人物も若干荒くなった息を整えるとランニングを再開するのだった。
―その頃、学校近くの裏路地では……
「はぁ……はぁっ……!」
『おいおい、もう夜だぞ藍人。いい子はそろそろ寝る時間だぞ?』
「もういいだろ……僕はこれ以上戦えない……紅輝君とは特に……っ!」
『そういえばアイツと仲良くなったみたいだな……ックク、いいねぇ……青春してるみたいで何よりだ』
「彼に手を出すな……彼だけは……ぐっ!」
『おいおい、契約違反だぞ……あくまでもオレが手を出さないのはお前の妹だけだからなぁ……』
再び藍人の姿へ戻ったヴェクターは鏡越しに彼の前に姿を見せつつ、彼からの提案を蹴った上で彼を嘲笑した。
「……君はそこまでして復讐に拘るつもりなのか……」
『オレの復讐に意味理由は不要……オレが生まれたのはお前のそのアホ面から生み出されたくだらない願望なんだ……さぁ、分かったならさっさとくたばれ、ゴミが』
「ぐっ……ぁぁっ……やめろおぉおおあ……」
藍人は苦しみながら三度体を乗っ取られ、ヴェクターは彼の意識を完全に封じ込めるとそのまま夜景を眺める事にした。そしてそんな彼の元へ人間に化けたヴェルフェが歩いてきた。
「こんな夜更けに学生がのんびりしていていいのですかねぇ……おっと失礼、貴方はヴェクターでしたね」
「フンッ、お前こそこんな時に何しに来た?」
「冷たいですねぇ……私はただ、貴方にプレゼントをご用意したのですよ」
そう言うとヴェルフェは紫の光が脈打つように光っている石のようなものをヴェクターに見せた。
「コイツを何にどう使えって?」
「フフフ……それは明日のお楽しみですよ」
「へっ、俺はお前のおもちゃの実験台って訳か……癪だが、楽しませてくれる事を期待してるぜ」
「フッ……では、おやすみなさい」
ヴェルフェは怪しげな笑みを残しつつ、自分の背後に黒い靄を出現させてその中へ溶け込むように消えていった。
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