第4話 襲撃、ダークヒーロー

「あれ、二葉さんじゃん!おはよう、まだ桜咲いてるね!」


「わっ……い、一ノ瀬君!?急に後ろに立たないで下さい!びっくりしたじゃないですか」


「ごめんごめん……たまたま家を早く出たら偶然見つけたんだ。はいこれ、昨日の放課後の学年会議ノート……寝てたみたいだから、勝手にまとめといたぜ」


 紅輝は蒼依に学年カラーである赤色のキャンパスノートを手渡した。


「すごい……まさか、これ全部貴方が書いたんですか?」


 蒼依は自分が寝ていた間に進んだ会議の内容や彼のその分かり易くまとめられた事に驚くと同時に薄っすらと感動すらしていた。


「あの後さ……帰り際に三島さんと偶然すれ違って、その時に聞いたんだよ。気を張り過ぎて体が追いつかなくなる事があるって」


「何が言いたいんですか?」


「あのさ……こんな俺が言っていいかは分かんないけどさ、俺とこうして一緒にいる時くらいは肩の力を抜いてもいいんじゃないか?ほら、同じ学級委員だろ?」


「貴方ってよく分からない人ですね……急に態度を改めたと思ったら、見直した傍からまただらけて……でも、案外悪くないかもしれませんね」


 蒼依は自転車を押しながら、ノートを正面のバスケットの中へ入れると僅かに微笑んだ。


「あっ、笑ったな今」


「断じてそんな事はありません……私は部活見学へ行くので、この辺で」


「おう、俺もバスケ部の体験入部あるからまた後でな!あ、そうそう……学級委員の集まり、昼放課にやるらしいけど……俺行こうか?」


「それはまた後で決めましょう。ただ、行ってくれるなら……お願いするかもしれませんね」


 そう言うと蒼依は自転車を駐輪場の方へ置くと、鞄を片手にテニスコートの方へと歩いていった。そして紅輝も鞄の中から体育用シューズを取り出すとそのまま体育館へ走った。



「あーっ、紅輝くんじゃーん!もしかしてバスケ部に入るの?」


「おはよう三島さん……三島さんもバスケ部希望者だったりするの?」


「うん!っていってもあたしはマネージャー志望なんだけどね」


「意外だなぁ……三島さんってもっとガンガン運動したいって感じの子かと思ってたよ」


「あはっ、やっぱり紅輝くんもそう思うんだね!さ、顧問の先生のところに行こ!」


「そうだな……早く体動かしたいし!」


 紅輝はシューズの紐をしっかりと締めると同じくシューズを履いた緑梨と共にステージの辺りにいる屈強な体付きの男性の元へ向かった。


「一ノ瀬紅輝に三島緑梨……うん、二人共見たところうちの部活のメンバーに迎えてもいいくらいの面構えじゃないか!」


「まぁ、入部前提でここに来たんですからね……全力でやらせてもらいます!」


「おぅし、じゃあ……俺から課題を出すから、ちょっとやってみてくれ」


「課題……はい、やってみます!」



―その頃、空船校区ではモルフォ蝶に酷似した怪物が密かに人間を始めとした動植物を片っ端から襲ってはその口吻で血を吸い取って巨大化しつつあった。


『あれがお前の次の駒か……案外順調そうじゃねぇか』


 赤い竜のような怪人態になったヴァーンはビルの屋上に姿を現すと、その少し上にある用水タンクに座っていた少女……ベルゼブブに彼なりの称賛を送った。


「そろそろ頃合い……行って、モルフォ」


『キュルルル……ッ!』


 彼女の声を聞いた蝶型のモンスターは周囲の獲物を食べ終えるとその巨大な羽を大きく羽ばたかせ、次の目的地を空船中学校に定めると、そのままそこへ一直線に飛んでいった。



「……だからここの答えは3になるわけだ。何か質問はあるか?」


 紅輝は首が何回もカクンとなりながらも何とか起きたまま授業に参加していた。そしてそんな彼を横で見ていた蒼依は軽く微笑むと板書を再開した。


 しかし、突然彼のリアライザーがけたたましい警告音を鳴らし始めた為、彼は慌ててそれを止めつつ教師の方を見た。


「おい一ノ瀬、何処へ行くつもりだ?授業中だぞ?」


「すいません、ちょっとトイレに……」


「すぐに戻れ……いいな?」


「は、はーい……」


 紅輝はそのまま教室を出るとすぐに下駄箱まで駆け込んで靴に履き替えるとリアライザーの電源を入れ、警告音の発信者……アキレスに連絡を取った。


『緊急事態だ……宙船校区に強大なウィルス反応を感知した。この間の物より反応が大きく、そして濃い……注意しろ!』


「んな事言われなくたって分かってるさ……じゃあ早速……アクセスアップ、レッドアキレス!」

『オペレーション、スタート!』


 紅輝はアキレスといつも通り画面越しの会話をしつつも走りながらカードをリアライザーにスキャンさせてレッドアキレスへと変身し、更に加速して反応のあった座標へと急いだ。



『紅輝、もうすぐポイントに到着する……!?いや、待て……先程とは何か違う反応が……』


「どうしたんだよ、アキレス。急に黙り込んで……」


『下がれ、紅輝!』


「へっ……?」


 アキレスが何かに気付いたと同時に一瞬だけ紅輝の体を操って強引に後ろへ下がらせたその次の瞬間にアキレスが先に感知していた反応……巨大な蝶形モンスター……の亡骸が落ちてきた。


「あっぶねぇ……って、既にデリートされたって感じだな、これ」


『恐らくはな……だが、私が反応を見つけてから紅輝をここへ誘導するまでに費やした時間は3分弱……』


「そんな短い間でそんな事が出来る奴なんているのかよ……」


 紅輝がそんな事を呟いていた時、後ろから不意打ちを受け、地面を数回転がった。驚く彼の目線の先には漆黒の騎士のような雰囲気の戦士が立っていた。


『アイツは……まさか!?』


「アキレス、アイツについて何か知ってるのか?」


『あぁ……だが、以前見た時からかなり姿が変わっている……それにこの殺気……あのモンスターをデリートしたのは奴で間違いなさそうだ』


「仲間って感じの見た目じゃない辺り、狙いは大方俺らって事になるかもな……」


 起き上がった紅輝はすぐに腰から剣を引き抜くと、腰を低くして構えつつ相手の動きを窺う事にした。


『……』


 相手は無言を保ったまま左腕全体を覆っている盾から黒光りする剣を引き抜きつつ、真正面から紅輝に切りかかってきた。


「ヘヘっ、こっちは2本あるんだ……がはっ!?」


 紅輝が2本の剣で攻撃を受け止めた時には既に相手の膝蹴りが腹部に的確に入っていた。その為、紅輝はバランスを崩してしまい、それを見逃さなかった相手は続けて左手に向かって低めの回し蹴りを放った。


「てて……何だよコイツ、隙がこれ1つとして……無いっ!」


 相手はひたすら無言を貫いて今度は紅輝の顔面に剣の柄による打撃を加え、ふらついてがら空きになった胸部を黒い剣で一閃した。


『紅輝、しっかりしろ!立てるか?』


「ゲホッ……ゲホッ……まだ行けるぞ……勝手に変な確認取るなよ……って、んんん?」


 アーマーの中で軽く吐血しながらも何とか倒れずに体勢を整えた紅輝は目線の先で相手が真っ黒なカードをリアライザーらしき機器にスキャンする光景を見て、軽く震えた。


「あれって……もしかしなくてもデリートスキル発動しますよとかそんな感じのやつ?」


『そのもしかしたら……だな。相殺出来るか?』


「簡単に言ってくれるけど……正直威力軽減が限界かと……ゲホッ……!」


『……ッ!』


 相手はエネルギーのチャージが完了した事で紫に発光している剣からコウモリの形をした斬撃を飛ばし、対する紅輝は一応剣を構えこそしたが先の連続攻撃によってかなり疲弊していた為、相殺も軽減も出来ずに大ダメージを受け、変身が解けてしまった。


『紅輝……紅輝……!くっ……なんて奴だ……』


 相手が動けなくなった紅輝に向かってトドメの一撃を刺そうとした次の瞬間、その攻撃は近付いてきた彼も含めて飛んできた何かに弾かれた。


『……!』


『全く……荒いよね、家令の使い方が』


 倒れていた紅輝の側に突然紫の鎧を纏った騎士が姿を現し、エコーのかかった声でそんな事を呟きつつ先程黒い騎士を弾き飛ばした謎の湾曲した剣を片手にするとゆっくりとした足取りで黒い騎士へ迫っていった。

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