第2話 俺の思い、俺達の決意
「うっ……てて……ここ何処?てか俺何でこんな服着てるの?」
紅輝は目を覚ました直後に自分の着ている服に違和感を感じ、すぐに横に座っていた青い髪の少女に質問した。
「貴方、さっきモールで倒れていたの。偶然見つけたから、執事に頼んで運んでもらったわ。ひどい怪我を負ってたみたいだし、放って置くのも可哀想だから……」
「倒れてた……うーん……ごめん、あまり覚えてないや。ただ……君が無事で良かったよ」
紅輝は軽い口調で彼女にそう返すと、彼女の顔は忽ち真っ赤に染まり、何かを言いたそうに口を無言で動かした。
『紅輝……気が付いたのは嬉しいが、今の発言は思春期女子に対してどうかと思うぞ……』
「いや、だって俺は本当の事を言っただけで……そんなキザなセリフ言えるような奴じゃないよ、俺」
『自分で根拠を潰しておいて良く言うな……』
「……っ!貴方、どうしてあの場でそんな大怪我したんですか!執事が言ってました……この程度の怪我で生きてる方が奇跡的だと!そもそもあの時避難したんですか?」
少女は未だに赤面したまま彼に指をさしながら落ち着きのない様子で質問を続けた。
「避難……してない。代わりにあのモンスターを大人しくさせてた……かな?」
「えぇっ……まさか、あの赤い騎士様は……貴方だったの?」
「んー……正確には俺とコイツ、かな」
「コイツって……リアライザーの中に何がいるの?」
「アキレスっていうブレインがいるんだよ……あ、この事は内緒にしてくれると助かるよ」
紅輝はそう言うとゆっくりとベッドから起き上がって部屋を出ていこうとしたが、すぐに少女の放った言葉がそれを阻止した。
「お父様は無事なのよね……」
「……それは俺にも分からない。けど、助かってるって信じてあげなよ……家族なんだからさ。あ、服って何処にあるの?それだけ教えてくれれば後は俺の方でやっちゃうから」
「……っ!服なら……1階の乾燥室にありますっ……とにかく、貴方が無事で安心したので……もう帰って!」
紅輝の返した言葉に再度赤面した少女は彼に向かってベッドに置いてあった枕を投げつけ、そのまま彼を追い返す勢いで叫んだ。
―その後、帰り道
『お前……少しはデリカシーなるものについて勉強した方がいい。先程の少女、君の発言に対してかなり動揺していたんだからな』
「だから……俺は普通に話してるだけだって!」
『お前の普通と彼女の普通は違うんだ……明日の挨拶の時はせめて抑えるように心掛けろ……いいな?』
「ったく……そんなに言うなら明日くらいは真面目にやるさ……ほら、もうすぐ家に着くから一旦下がってくれよ」
『やれやれ……その言葉、そっくりそのまま受け取ったからな』
「お前ってホント面倒なやつだな……」
紅輝とアキレスは何処か兄弟のような会話を繰り返しつつ、自宅へと入った。
「こんな時間まで何してたの、紅輝は!発表会は途中で中断されて会場だってあんなにひどい有り様になったのよ!」
「……ごめん。実はさ、あの会場でちょっとだけ……人助けをしてたんだ。俺だって避難したかったんだけど……我慢出来なかったんだ」
紅輝の母·
「やっぱり、
と言って少しだけ涙を目に滲ませながら小さく呟いた。
「母さん……本当にごめん!俺、まだ13になったばかりだけどさ……リアライザーだってちゃんと使えるから……父さんみたいに誰かを助けてみたいんだ!感謝されなくても……その人の明日が守れるなら……責任を持ってやりたいんだ!」
「紅輝……」
『お久しぶりですね、果歩さん。私です……アキレスです』
紅輝が頭を下げてからしばらく無言が続いたものの、突然彼の左腕のリアライザーが勝手に起動し、そこで隠れていたアキレスが静かに言葉を紡いだ。
「アキレス……貴方、生きていたのね」
『はい……5年前、貴方の夫である遊樹博士や紅輝から人間について教わった後、博士を守るべく尽力しましたが……』
「分かってるわ……でも、謝らないで。貴方が悪い訳じゃないのは知ってるのよ」
『それよりも、ご覧の通り紅輝は博士の……父の遺志を継ごうとしています。私も、彼がまだ未成年で無責任な事をしかねないのは重々分かっています。ですが私は彼の今日の行動を見て決めました……私も彼と共に博士のやり残した事をやり遂げたいと』
「アキレス……お前……」
「……ふふっ、二人共顔を上げなさい」
「えっ……」
『なっ……』
果歩は二人からの必死の願いに折れたのか、苦笑が混ざりつつも明るい声で二人に声をかけた。
「そうよね……もう紅輝は今年で13歳、それにアキレスも帰ってきてくれたから怪我なく帰って来れたのよね。なら、お母さんはもう止めないわ……ただし、無茶だけはしない事、それから宿題もしっかりやる事、いいわね?」
「母さん……うん、分かったよ!」
『改めて、彼の身の安全はこのアキレスがしっかり保証する事を約束しましょう。それから……感謝します』
「さ、ご飯にしましょう!明日から中学校なんだし、今からしっかり食べて体力を付けておかなくちゃね!」
果歩はそう言うとキッチンの方へ行き、冷め始めていた夕食を温め直すのだった。
―その後、紅輝の部屋
夕食をぺろりと完食した紅輝は、その後入浴や就寝準備、明日の時間割の確認を済ませるとベッドで横になってアキレスと会話する事にした。
「アキレス、さっきはありがとな。俺を……フォローしてくれて」
『私はただ、博士の奥さんに気を遣っただけさ……と言いたいところだが、実際は君と同じ気持ちだったという訳だ』
「5年前、父さんを守ろうとしてたんだな……でもだからって、俺のリアライザーから勝手に居なくなるのは違くないか?」
『ぐっ……こ、紅輝のくせに……!』
「はははっ……何か懐かしいな、このやり取り」
『そうだな……あの時、人間の感情について理解が出来なかった私に色々と教えてくれた……そして今度は肩を並べ、共に戦う相棒として……よろしく頼む、紅輝……寝てしまったか』
アキレスが紅輝に感謝の言葉を述べている真っ最中に紅輝はすっかり寝息を立てて夢の中へ落ちていってしまった。
『博士……貴方の息子は、立派になりましたよ。いつか私の予測すらも超えてしまう程の大物に成長すると、そんな風にすら思います……だから、見守っていて下さいね』
アキレスもリアライザーや小さな窓越しに夜空を見ながら亡き生みの親に思いを馳せると、彼もまたリアライザーの電源をスリープ状態に切り替えて休息を取るのだった。
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