青春ライジングフォース

よなが月

立ち上がる英雄

第1話 全てが始まった日

一ノ瀬いちのせ紅輝こうき、12歳……今日からこの町……空船そらふねでの生活が始まるんだ……見るもの全てが新鮮なこの町で……俺はもっともっと夢に近づいてみせる!)


 赤い髪に赤い瞳を持ち、中学生にしてはかなり背が高い少年……一ノ瀬紅輝は現在引っ越したばかりの家を出て、市内で1番大きいショッピングモールへ向けて走っていた。


(……けろ……機は……っている!)


「だ、誰……今、誰か俺を呼ばなかったか?」


 紅輝はふと聞こえた謎の声に対して軽く受け答えつつ、その声の主に質問を返した。


(危……ール……に……)


 その声の主は紅輝の質問が聞こえていないのか、先程と同じく言葉の節々が途切れてしまっている上、似たような事を残して完全に聞こえなくなってしまった。


「な、何だったんだ……今の……じゃなかった、今日は俺が待ちに待ってたあのゲームの発表会だ!いっそげぇーっ!」


 紅輝は一瞬だけ声の主について考えた後、すぐに切り替えてショッピングモールへと急ぐのだった。



「皆さん、今日はお忙しい中お集まり頂きありがとうございます。改めて、私は当社の現CEOを務めている四谷よつやバサラと申します。本日は我らエンジョイゲームズの新作ARゲーム〈リアライズモンスターズ〉についてご紹介しましょう」


 市内最大規模のショッピングモール·ラジオンの特設ステージでは大手ゲーム会社による新作ゲームの発表会が行われていた。


「今まで我が社が世に送り出したリアライザーは様々な機能やゲームで皆さんを文字通り“楽しい時間”へ招待してきました……そして今作は遂にリアライザーを使って皆さんが育てたライズアニマルをこうして現実へ呼び出し、触れ合ったり競い合わせる事が出来るようになりました!」


 紫の髪が特徴的な青年……バサラはそう言って自分のリアライザーにカードを読み込ませると、そこから黒い鳥のようなアニマルが姿を現し、会場を飛び始めた。


 そして、その光景を見た報道陣や一般の客達は一斉に歓声を上げた。


「電子を現実へ、そして私達の日常生活の中へ……これからも皆さんに素敵なひと時を提供していく事を約束しましょう!」


 バサラが締めの言葉を述べて一礼すると途端に周囲の歓声は最高潮まで達した。


……しかし、その歓声は一瞬にして悲鳴へと変わり始めた。突然その黒い鳥が紫の光を放ちながら巨大化し、更には暴走を始めたのだ。


「四谷君、これはどういう事だ!」


「二葉教授……私にも分からないんだ……!?」


「ヘッ……これが人間様が新しく用意したオトモダチってやつか……俺様が細工しただけで牙剥いてるのにんな簡単な事言いふらしていいのかぁ?」


 バサラと二葉教授に対して赤い服を着た青年は嘲笑しつつ煽るような言葉をぶつけた。


「ま、せいぜい死ぬまでのカウントダウンを楽しむ事だなぁ!」


「クッ……待て……うわぁっ!」


『グワァァァア……!』


 暴走した黒い鳥型のモンスターはショッピングモールの壁を手当り次第に崩し始め、モール内はたちまち大混乱に陥ってしまった。


「な、何だよあれ……確かリアライザーで呼び出す物って人間には直接的な危害は加えられないんじゃなかったのかよ!」


 次々と人々が逃げ惑う中で紅輝は自分の頭上で暴れ回っている巨躯に向かって声を若干荒らげつつも疑問を投げた。


(あれだ……私が感知した電波体の正体は……)


 紅輝が叫んだ直後に彼のリアライザーからモールに向かう道中に微かに聞こえた声が今度ははっきりと聞こえてきた。


「お前……さっきの!あれについて知ってるのか?」


(あぁ……だが、詳しくは私も知らないんだ。それから……申し訳無いが君の体を借りる!)


「え、あっ……お、おいっ!何言って……!」


 リアライザーから聞こえてきた声は突然リアライザーを操作して眩い光を飛ばすと、彼の体をすっぽりと包み込んでその姿を白い鎧の騎士のようなものへ変えてしまった。


『おい、何勝手にやってくれてんだお前!』


「すまないがこちらも非常事態なんだ……それともここで野垂れ死にたいのか?」


『し、死にたくはないよ……って、勝手に動くなぁ!』


 紅輝の体は完全に声の主に体の主導権を握られてしまった為、勝手に体が動いた上でいきなり目の前の怪物と戦闘を開始してしまった。


『くっ……慣れない体で戦うのは少々骨が折れるな……』


「武器も持たずに素手で接近戦を仕掛けるからだろ!それにアイツ、俺達の攻撃がまるで効いてないみたいじゃないか!」


『何故だ……何が阻害しているんだ……!』


『グワッ……ガァーッ!』


 二人が相手に有効打を与えられずに困っていると、そんな事など気にも止めないという感じで黒い鳥はその体を回転させて突進し、二人はその攻撃をまともに受けた事で壁に激しくぶつかり、憑依も解除されてしまった。


「痛って……これARとかリアライザーでやれる事じゃねぇだろ……!?」


 紅輝はふと激しくぶつけた左肩を触った後にその手を見ると、赤い血が付いているのを見て軽く恐怖で体を震わせた。


『これで分かっただろ……そのリアライザーの力を悪用し、この星を滅ぼそうとする奴らのやり方が』


「あぁ……十分過ぎるくらいには伝わったぜ。だからこそ……止めたくなった!」


『正気か!?下手をすればこの世界から永久にデリートされるかもしれないぞ?』


「失敗を恐れてたら……何も出来ない。やらずに公開するくらいなら……やって後悔する道を選ぶ!それが俺の目指す……未来の自分だ!」


(失敗は恐れるものじゃない……失敗より恐ろしいものがあるからな。アキレス……私の息子を導いてやってくれ……!)


『後悔は……無いな、紅輝・・!』


「その声……アキレスなのか?」


『あぁ……5年ぶりだな、紅輝!さぁ、今こそ私達の力を……奴らに見せつけてやろう!』


「うん……行こう、今この瞬間を……守る為に!」


 紅輝とアキレスはお互いの事を思い出すと、紅輝の腰に付いていたカードホルダーから赤い光が溢れ出した。


「これ……リアライズカードだよな?」


『見た感じそうだろうな……時間が無い、それをスラッシュして起動しろ!』


「思いっ切り……行くぜ!アクセスアップ、レッドアキレス!」

『オペレーション、スタート!』


 紅輝はカードホルダーから光っているカードを取り出すと、それを自身のリアライザーのスキャンエリアに通した。すると先程と同じように赤い光が彼を包み、今度は赤色の鎧が目を引く双剣の騎士へと変身した。


『グワァァァ……ッ!』


「今もう1つ思い出したよ……この力は父さんがいつか俺達が立派になった時に使えるようになるものだって。それが今だっていうなら……全力でやってやる!」


 紅輝は利き足である右足を後ろに下げつつ腰を軽く落とし、そのまま勢いよく地面を蹴って黒い鳥へと一気に迫り、抜刀の勢いを活かした素早い一撃を叩き込んだ。


『グルル……』


『攻撃が通っている……これならあのモンスターをデリート出来るぞ!』


「いや、デリートはしない……あれはバサラさんって人が新作の発表会の為に用意したモンスターだから、せめて大人しくなってほしい……」


『言動の割に難しい事を言うな……だが、確かにあのモンスターとは別の何かがこの状況を引き起こしている以上、私としても無駄な犠牲は極力避けたい』


「なるべく一撃で、苦しみは一瞬だけに留めたい……どうすれば……」


『前に遊樹博士がこのプログラムについてこんな事を言っていた……このキズナアクセスと呼ばれるプログラムを実行中の時のみ使う事が出来る〈フィニッシュバスター〉なるものが存在する、とな』


「〈フィニッシュバスター〉……名前の響き的にもこの状況を打破出来そうだね!それっていつ使えるようになるの?」


『恐らく、もう使用出来るはずだ……先程紅輝が入れた一撃のダメージ量がどうやらカード出現のトリガーになったらしい。ホルダーを見てみろ』


「分かった……えーと……あっ、あった!」


 紅輝は再度腰のホルダーから光っているカードを取り出すと、すぐにそれをリアライザーにスキャンした。すると、紅輝が手に持っていた双剣が赤い光を纏い始めた。


「今楽にしてやるからな……少しだけ耐えてくれよ。これが俺とアキレスの力……アクセルラッシュだぁーっ!」


 紅輝はそのまま上空へ飛び上がると、同じく彼めがけて飛び上がった黒い鳥に向かってAの文字を描くように3回剣を振り下ろした。一瞬の静寂の後、黒い鳥から紫の光だけが分離し、そのまま消滅していった。そして力を使い過ぎたのか、黒い鳥も近くで戦いを見ていたバサラのリアライザーの中へ戻っていった。



「お、終わった……んだよな?」


『あぁ……悪性ウィルスの反応の消失はこちらで確認した。初めてのバスティングにしては上出来だったぞ、紅輝』


「それなら……良かっ……た……」


 紅輝は一連の騒動が収まった事を確認して安心したのか、そのまま脱力しながら気を失ってしまうのだった。

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