ダンス・マカブル
(いや、マジでどうなってンだよ。)
交戦中。だというのにレオは銃撃の手を止め、ジャケットの胸ポケットから煙草を取り出し
オイルライターが小気味よい
「……ふぅーっ」
紫煙を吐き出す。トンチキな恰好をしちゃいるがウデは大まじめに超一流の
「参っちまうな、こりゃあ」
銃弾を叩き切るなどという離れ業には当然、タネと仕掛けがある。それは五連装リボルバーの中身をワンセット使い切って暴いた。ただ、それまでだ。なんてことはない――ただコイツはとんでもなく目が良くて、それに連動できる肉体の運動をしているだけという事実。
「なんだ、降参するには早いと思うが」
「
「そうか。私は君を買いかぶっていたようだ、四ツ牙ライオン。最期の一服になる、ゆっくり味わえ」
「
拳銃の弾倉が空になった
「ンじゃ買いかぶったままでいてくれ。仕事が楽に済むからな」
煙草を吐き捨てる。左手に握った拳銃の背を額に当て、一つきりの深呼吸――見た目からは想像もつかない、祈るような
そこから更に一拍の間を置いて、レオは決意と共に踏み出した。
「ふぅッ――!」
撃鉄を起こす。照準を合わせる。その間に
それでいて、なお。
「……一流止まりだ」
引き金が引かれる。
(何っ!?)
マッドハッターの虚を突いたというのならその二歩目だろう。レオは銃という武器の絶対優位性――距離を自分から詰め、剣士必殺の間合いへと踏み込んでいた。
「愚かな――それとも諦めたか、レオッ!」
レオにとっては悪夢のような切り返し。銃弾一発の装填速度より速い、神速の腕の振り。
ぱん、と火薬が爆ぜる音。
「……どうした、マッドハッター」
血しぶきはレオの踏み込んだ右足からだ。浅くだが斬られた。やはり油断ならない。斬れるタイミングでないと判断するや否や、この距離で二発目を避けられた。
「マジな面になってンじゃねェか。買いかぶっていてくれよ」
(こいつ、レオ――!)
「正気か貴様」
「まァ、銃ってのは速さを変えられねェし? それで防がれるっつーならもう手は他にいくつも無ェンだわ」
時間と速度をこれ以上縮められないのなら距離を短くするほかない。それが死地であろうとも。
「そもそも野郎と
その右腕にも、同じ銀色――二挺拳銃!
「それで勝てると思ったか
手数はレオ。腕一本あたりの速度はマッドハッターに軍配が上がる。レオの拳銃、レイジングブルはもはや銃という用途よりも敵を殴り倒す鈍器として
「買いかぶっていたというのは訂正するぞ、レオ。だが――!」
この距離で後れを取るマッドハッターではない。至近で放たれる銃口を底から切り上げ、レオの
(なんだ。)
右手の銃はまだ間に合わない。これなら勝てる。斬れるはずなのに、ソレを視界に入れてしまったが為に、剣士の演算に過負荷が走る。
(なぜ弾き飛ばした銃が左手にまだある――!?)
その思考の空白こそ、レオが切り刻まれながらも手に入れたい『一瞬』だった。
「テメェが俺をそう呼んだンじゃねェか、マッドハッター」
右手の照準が合わさる。引き金にかかる指。心臓の鼓動一回分の速度での銃弾を首を傾いで回避する。続けざまに放たれた左手からの弾丸が、刃の腹を叩き割った。
「
柄から砕ける刀身。弾ける火花のひとつひとつを認識するマッドハッターの卓越した動体視力が、その理由を焼き付ける。
右手の銃が手元で回っている。空になったはずのその右手には、新たな銃が握られていた。
(四挺拳銃――!)
装填の追加はなく、けれど拳銃の領分を過剰に侵犯した総合計二十発の弾丸が、わずか三秒で吐き尽くされる。
「悪ィなマッドハッター。俺は愛煙家でね、最期の一本にゃまだ早ェンだわ」
充満する硝煙の中、破れた指の皮から血を流しながらレオは煙草を銜える。
最後の弾丸は、これ以上ないほど正確に。
「ちったぁイカした格好になったじゃあねェか。出直してきな」
マッドハッターのシルクハットを、撃ち抜いていた。
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