〈足無し〉カカシと妖精の粉
ロンドン各地で、自分たちが火種――もとい火薬となっているなか、タクシーから降りた少年はそのまま正面に高く
『
【
【
(……よほど腕の立つ情報屋がアリスの側にもいる、ってとこかな。)
なんにせよ、戦力まで把握したうえでの個別撃破狙いだ。今までに出逢った敵勢力の中で、最も
やがて、目的地にたどり着いた箱はその口を開く。
「……一番
ふとした顔が記憶に
屋上に他の駐車は無い。青い空と太陽の日差し。ちぎれちぎれに流れる雲の下。たった独りで眠る鳥のように、赤い飛行艇が羽を畳んで鎮座している。
操縦席に乗り込む。専用の
各種機能がONの表示をし、この機体に搭載されたAI管制システムが声を発した。
《Pi。――
「おはようレイチェル。すぐ飛べる?」
《Pi》
肯定を示す、短い電子音。
「ちょっと予定が差し込まれてね、もう交戦中」
《穏やかではありませんね。シートベルトを》
「OKだ」
《ゴーグルを》
「うん」
少年は首掛けのゴーグルを両手に取って、
《マスター。お急ぎなのでは?》
「あんまり。レオもスズも、死にはしないでしょ」
ゴーグルを
《ドロシー様が一緒ではありませんね。作戦は
「今から迎えに行くところ。こっちは準備OKだ。行こう、レイチェル」
《Pi。モードは
「手厳しいなあ。理由を訊いても?」
翼が開く。
《ティーンらしいですね、マスター。
発進は滑らかに。高級車のような滑り出しでその飛行艇は屋上を走り出し――
《けれども白馬任せの王子様というのはヒロイン的にはとてもいただけない》
「……本当に手厳しいなあ」
ギアを変速させる。一段。両翼から、FP機構――ボードの出力を遥かに上回るそれが光を粉ではなく帯として空に描いて。赤い飛行艇はロンドンの空へと飛び立った。
「僕は時々、君が機体じゃなくてどこかの管制室にいるオペレーターなんじゃないかと思うことがあるよ」
下手な人間よりもスムーズに、
《お褒めに
「撃つのはどうしようもなくなってからにしよう。ドロシーの幼馴染だしね」
レイチェルのセンサー、カカシの肉眼ともに、激しい
アリスにハンプとダンプの追い込み方は、
――その間を、
「「だわっっ!?」」
「きゃっ」
「……カカシっ!?」
気流に乱れが生じる。三人は散り、残る一人が切り裂かれた空の断面に並走した。
「頃合いだろうと思って来たんだけど、なに。話って険悪なのだったの?」
なだらかな地平と水平なUターン。機体ごと横向きになったカカシは、並んで走るドロシーに急いだ方が良かったか、と確認を取る。
「険悪も険悪っ! 元々仲なんて良くなかったんだしっ! 言っとくけど買ったぶんの
珍しくもないがキレている。さては何かを言われたか。
「……ふうん、まあいいや。アリス、一対一はどう?」
「あらカカシ。チーム戦はライドの華だけれど?」
「そっちの双子は僕が引き受けるよ。どちらかと言えば彼らは僕に何か言いたそうだ」
「よくわかってんじゃんかカカシーィ!」
「足無し! みっともなく飛行機になんて乗りがやって!」
――どうやら。これは本当にカカシにとって
「僕はFPライダーじゃないからなぁ。ドロシーとアリスは時計塔の
少し考えて、制動をかける。ドロシーは喧嘩を売られて買ったと言った。なので。
「そっちが降参って言ったり、思ったら負け。君らのライドに感動したら僕の負けってことでどうかな」
「「はっ?」」
その、あまりにも不遜な提案に。
「走りに自信があるんだろ? FPライダー。じゃあ魅せてくれよ〈ジェミニ〉」
「こっの、」
「、ボードにも乗れないクセに……!」
同じように喧嘩を売ることで、良しとする。
「そう。あまり興味がなかったからね。足無しのカカシにもわかるくらいに、ボードが乗れるってのがどれだけ凄いことなのか教えて欲しいんだ。せめて名前くらいは憶えて帰りたい。頼むよ、その……トゥイードル兄弟?」
「「ティー兄弟だよッッ!!! 頭ン中マジで
――果たして〈ジェミニ〉ハンプ・ティーとダンプ・ティーはその挑発に乗った。ゴーグルの中、冷ややかな目でカカシはそれを眺めている。
「アリス、異存は?」
「あると言ったら?」
「安い台詞だから言いたくないけど、言い時もないから言おう。さもなくばこの機関銃が火を噴くよ」
ういーーーん、と呼び動作で両翼に取り付けられた
「本当に物騒で安い台詞ですわね!? ええ、呑みましょう。ハンプ! ダンプ! 無様な走りをしたら承知しなくってよ!」
「ドロシーもそれでいい?」
「あたしは三人相手でもいーしっ! でもゴールありの
「はは。――じゃ、そういうわけで始めようか〈
双子が交差しながら上昇する。二人の少女は顔を見合わせてからツンと逸らし、ゴールである時計塔――大英博物館へと視線を向けた。
「『家に帰さない』とまでは言わないよ。でも、送り届けまではしないからね。このレイチェルは二人乗りなんだ」
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