ロジウラゴシップティーパーティー



 信号は青。


「すみませんね、これじゃちっとも進まない」


 だが道路はだった。


「歩くよりは早いから大丈夫」


 野次ヤジのように品なくわされるクラクション。のろのろとした足取りで進むタクシーの中。ともすればこの騒動の火種となっている少年は、素知そしらぬ顔でドライバーに告げると端末をいじりだした。


 突発的、かつ多発した騒乱は三つ。通報が早かったのか、それともだからか。パトカーのサイレンの音が二つの地点に向かっている。


 うち一つは事件発生の現場から動いていない。半壊した喫茶店には警察か、それとも賞金稼ぎか。いずれにせよもう間もなく駆けつける頃だろう。


 例外は。太陽光よりも鮮やかな黄金の帯をえがいてまじわるFPライダーたちの走空そうくうせんを止められる地上勢力は存在しない。今のところ。


 そして残りのひとつ。今現在、最も分かりやすく『戦闘中』の二人はロンドンの街に停車している車を、バーの看板を、洒落しゃれた量販店を障壁にしつつ、その戦場を路地裏に移行させたようだ。


 通知音ピポン



 →うぉーい派手にやってんじゃん! 今ドコ!?


 ←耳が早いね。みんなバラけたから僕はタクシーで移動中。


 →アンタが始めたんじゃないのかよ!


 ←騒動を起こしたっていうなら僕らじゃなくて向こうだよ。情報ある?


 →WonderLANDワンダーランドはFPの三人組だろ。アリスはオレよかカカシの方が詳しいんじゃない?


 ←アリスと双子はそうなんだけど。


 →他にもいるの?


 ←マッドハッターっていうのとホワイトラビット。


 →不思議の国のアリスじゃん。


 ←そうだね。お茶会に誘われたんだけど喫茶店を爆破された。


 →草


 ←なに?


 →ゴメン、日本語のネットスラング。笑っちゃった。


 ←で、童話じゃなくて実在の方の二人。


 →うーん。特徴ない?


 ←えっと



 ←マッドハッターは、シルクハットでタキシード。歳はレオと同じくらいで、髪の色が僕と似てる。


 →イカレ帽子屋のコスプレかな? 他には?


 ←あとは


 ←片眼鏡モノクルつけてて



 カカシはついさっきの記憶を引っ張り出す。彼は、自分とアリスの間に踏み込んで、レオに乱入されなければ、たしか、確かに。



 ←ステッキ持ってた。


 ――カカシくびを、ねていたのではないか。


 →そりゃイマドキ珍しい『剣士ソードマン』じゃん! へー! 赤毛の現代剣士なんてあんまいないよ!


 ←わかりそう?


 →名前とか前の所属とかの詳細は少し時間欲しいかな。あーでも今わかることならあるよ。買う?


 ←買う。言い値でいいよ。


 →思い切りが良いお客さん大好き! だよ、間違いなくね。レオ大丈夫かなー? アタリ付けてる人物なら、だけど。


 ←レオだよ?


 →まーガンマンなら世界で指折りだよねあのヒト。強盗なんかしないでもろて。


 ←で?


 →眉唾まゆつばなんだけど。


 ←うん。



 着信音ピコン



【情報屋】からの、そのメッセージにカカシは思わず「それは嘘でしょ」と呟いてしまった。


 /


千両役者ミリオンダラー』第二席のリーダーをして、荒唐無稽こうとうむけい与太よたと思わざるを得ないは、時を同じくして人気の失せた路地裏で証左を示した。



 どごん、という45口径の発砲音。ほぼ同タイミングで鳴るしゃきん、という鍔鳴つばなり。


「――マジかよテメェ」


「私はいたって真面目だが」


「イカれてンのは恰好かっこうだけにしとけよ」


「私は、いたって、真面目だが」


不思議の国ワンダーランド〉のマッドハッターは、まぶたを閉じて、開く。


「貴様こそ本気を出すべきだ」



 →なんでもタツジンらしいよ。



「――さもなくば次はその首が落ちるぞ、ライオン」


「はッ! ……上等だ、ヤれるもんならヤってみやがれコスプレ野郎」


 首筋に冷や汗が流れたのはいつ以来か。


 それでもレオは笑った。獰猛どうもうに。



「では、お茶会ティータイムといこうか、レオ。弾丸さとうはいくつ必要だ?」


幕開けショウタイムだマッドハッター。砂の味はいぼくを教えてやるよ」


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