開演。-Fräulein/Frontline-


 そのちょっと前。/


 視線をる。それを受けたスズが即座に丸テーブルの中心となっている柱を掴んで


「わわっと!」


 滑り落ちるティーカップを素晴らしい反応速度で確保キャッチするドロシーごと、いささか乱暴な手つきでカカシが身を守るように抱き寄せてテーブルの内側にかがむ。


 かちり。


 刻まれる秒針。カウンター裏に飛び込んだレオは、そのまま会計をしようとしていたウェイトレスの頭を掴んで強引に胸に抱いた。



 ――爆発。


 破砕音。吹き飛ぶ窓ガラス。次いで横殴りの火柱と黒煙。




 まずレオが顔を出す。


ぼう、そっちは無事かァ?」


「点呼いる?」


鉄火場てっかばの真っ只中ただなかだぞ、だ」



 仕掛け人たる〈不思議の国ワンダーランド〉は当然として、


「――流石は天下に名だたる【大強盗クローバー】。伊達ではありませんわね?」


 そのリーダーを張るアリスをして、四人全員がこの爆破の中で無傷という結果は、文字通り舌を巻くものだった。


 阿鼻あび叫喚きょうかんはその後。コンサートで指揮者が礼をした後の拍手のようなタイミングで巻き起こった。


「はいカカシ」


「別に良かったのに」


「でも飲み終えてなかったじゃん」


「……ありがとう」


「で、、だ」


 作戦開始前だというのにこの状況。、とスズがリーダーの意思を問う。


 倒したテーブルの裏で、ふっと舞い上がったほこりを吹いてからカップに口をつけたカカシは、その後で。


「買っちゃおう」


 を示した、その上で。



千両役者ミリオンダラー』第二席としての、と宣言した。


 狙った獲物は逃がさないが身上しんじょうの〈OZ〉はスタンスを崩さない――


 立ち上がる。


「アリス、アリス。


 紅茶色の猫っ毛の下から、確かに視線を受けて、


「――えぇ。これはわたくしが始めた不思議ふしぎくにだもの」


 歓喜かんきとも畏怖いふとも取れない理由から、ふるりと身を震わせ――それでもこたえた。


「ドロシー、先に行ってて」


「はーい!」


 /


 キィン、という快音。爆破された店内から噴き出す煙を引きながら、妖精の粉フェアリーパウダーの光がロンドンの街に突き上がる。



「やっと出番かー」「初速エグっ!」



 直後、二筋の軌道がともなってその後を追う。


「「待てよォ、〈日曜の魔女サンデイ・ウィッチ〉!!」」




「……スカイラウドシリーズか。良い音出してるなあ、じゃああの双子が〈ジェミニ〉?」


「ええ。余裕があるのね、カカシ。素敵だわ?」


 恋人ドロシーの心配をしなくていいのか、と瞳が問う。


「さあ、どうかな。誰が誰より速いとか高いとか、あんまり興味がないんだ。君の方こそ、追わなくてもいいの?」


 そんなやり取りの中。


「リーダーは君なのだろう、少年。ではこれで詰みチェックだな」


 少年と少女の間に割って入る人影が、


「やぁぁぁっぱと思ってたぜ! 坊、このコスプレ野郎もらってくぜえ!」


 即座に飛び蹴りをかますレオごと、粉砕されたドアからもつれて転がり退店していった。


「野蛮ねえ貴方のところのライオンさんは。……! 負けたら承知しませんわよ!」


 その脇。


「スズ、足止めお願いできる? さっきの爆弾、彼のだろ」


「了解、だ」


 黒と白、二人の大男が不動でメンチを切り合っている。



「あぁ。此方こちらとしてもこの男を止めるのは願ったりかなったりだろう。街を更地に変えられてはかなわん」


 組み合わせマッチングは成立したようだ、とカカシはうなづくと、レオがかばったウェイトレスの元へと歩いた。



「アリス、お先にどうぞ。僕はちょっと遅れるから」


「……まさかとは思うけれど、逃げませんわよね?」


「はは、それこそまさかだろ」


 軽く肩を揺らして、どこかいぶかに出ていくアリスの視線を受け流してから。




「助けたんならしっかり払ってって欲しいよね。。お釣りはいいよ、お店の修理には足りないだろうけど。良い紅茶だった」


 ご馳走様、と付け足して退店した。


 ――予想通りというか、なんというか。外に出てみれば、いつぞやの週末のようにロンドンの街はだった。



「……なるほど、足無あしなし、か」


 たしかに、と。みずからに付けられたあだ名を皮肉るように少年は口にして、手をげた。



「ヘイ、


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