ハッピーノット・アニバーサリー


 標的を目視で確認できる位置ロケーションにある店舗。〈OZ〉が選んだ理由はそれだけで。だから紅茶の味についてまでは特に期待していなかったリーダーの少年にとって。


「……幸先さいさきが良さそう」


 それは日本風に言うのであればで。


「あたしここのチェリーパイ好きかもー」


「これで一杯飲めたら最高なンだけどなァ」


「乾杯は仕事の後だ、だ」


「じゃあ打ち上げもここにしようぜ」


 などと残りの三人にもおおむね好評なこの店は、週末午後のピークタイムを乗り切って、少し息を抜けるような状況だった。


「……最終確認」


 ちらり、と窓の外――ここロンドンで一等有名な彼らのに目をやって、カカシはテーブルへと視線を戻す。


攪乱かくらんはスズ。突入はレオ。アンカーがドロシーで、僕が管制かんせい


「異存なーし」


「旦那、火薬はケチるなよ?」


「誰に言ってる、だ」


 からんころん、と入店を告げるカウベルが鳴っても、彼らの調子は変わらない。店側としても、残りの客としてもいちいち来訪者に注目することなどない。


「んじゃ会計してくるわ」


 レオが席を立つ。新たな客が席へと進む。




「――あら、もう行ってしまうの? 残念」


「ぁン?」


 はレオとすれ違って、残りの三人が座るテーブルの隣の席に陣取った。


「悪だくみなんでしょう。お話が気になるわ?」


 その、悪戯めいた笑みを浮かべる赤毛の少女の姿を認めて、ドロシーは顔をしかめた。


「なんであんたがこんなとこにいるのよ」


「相変わらずご挨拶ね、ドロシー。今来たところなのに。……ご機嫌よう、【大強盗】さん。わたくしは、」


「――。有名人じゃないか、ドロシーじゃないけどどうしてここに?」


「ふふ。貴方に名前を覚えてもらえているだなんて光栄よ、カカシ」


「現役トップクラスのにそう言ってもらえるだなんて光栄だね。それで、偶然以外の理由はあるのかな」


「もちろん。あぁ、彼と同じものを。そう、全員分」


 注文をスムーズに済ませて少女……アリスはあらためて顔を向けた。


「今や貴方たちの話題で世の中は持ちきりよ、【千両役者ミリオンダラー】の第二席さん。ついこの前も大騒ぎしたみたいだし?」


百貨店デパートの事を言ってるなら誤解……でもないか、予定にはなかったけど」


「なに。それであんたもあたしたちの賞金目当てに賞金稼ぎカラーズになったってワケ?」


 アリスは微笑ほほえんだ。


「……びっくりしたのよ、わたくし。あの時以来、さっぱり音沙汰おとさたがなくなった貴方たちを、久しぶりに見たのがニュースの大見出しだった。ええ、白状します。と思いました」


「あたしたちがどこで何しててもアリスには関係ないでしょ」


「なんでドロシーはアリスにそんな喧嘩ケンカ腰なの? 過去に何かあったの?」


「なんでカカシがソレ知らないのっ!? あたしとアリスはっ」


幼馴染おさななじみでライバルだったの。本当に興味なかったのね、貴方」


「…………まあ、うん。ごめん」


 少年は何か、少女ふたりの共通の地雷を踏んだことを察して紅茶のカップを口につけた。


「はぁ……まぁ良いわ。許してあげます。ドロシーがわたくしに噛みつくのも、カカシがそういうことに無頓着むとんちゃくなのも知ってしますし。こうして顔も見れたことですし、ね。今日はお誘いに来たのよ、本当は」


 アリスの座るテーブルにカカシと同じもの……五人分の紅茶が置かれる。


 見れば、アリスをはじめずいぶんと面子めんつだな、とカカシはどこか他人事のように思った。


 まず、体格はスズと同じくらいの、スズと対照的に白いスーツの白髪はくはつの大男。


 それからレオがさっきから無言でガンを飛ばしている相手――シルクハットにタキシードの美青年。


 まるで鏡合わせのように同じ姿をしている双子の少年。



「ハロウィンにはまだ遠いと思うけど」


「ふふ」


 アリスが立ち上がる。


「――〈足無しスケアクロウ〉カカシと〈竜巻乗りトルネイダー〉ドロシー。トルネイダー。ねぇ?」


「なに。喧嘩売ってんのアリス。買うわよ」


 アリスは一人、出口へと向かう。わずかに開いているドアの前に立ち……嬉しさと、確かな決意をもって、それを口にした。



「ドロシー、は呼んであげても良くってよ」


 ドアをしっかりと閉める。


「けれど、わ」


 ドアガラスの日除けを下ろす。


はここでおしまい」


 そして、鍵を閉めて振り返る。


「……わたくしたちは、〈不思議の国ワンダーランド〉。ライオンも、ブリキの兵隊も。みんな、みぃんな、迷ってしまえば、いいんだわ?」


 


 小さくかちこちと鳴っていた秒針の音が途絶えてから、きっかり一秒後。


 その場の全員を巻き込んで、


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