ライク・ア・ソング(Fall'n down)


 の賞金稼ぎ。国際的な資格ライセンスを得てその活動を行う、この時代のヒーロー的な職業である彼らは、“首輪をかけるもの”――『カラーズ』と呼ばれている。


《Pi。マスター、通信です》


「早かったね、繋げて」


『ハローハロー。今日オフなんじゃなかった?』


「だったんだけど。依頼のとおり、ちょっとしたハンティングになっちゃった」


で済ませるあたり大物だよなぁー!』


 通信の向こうで【情報屋】が笑う。カカシは吐息ひとつでうながして。


『ロンドンの【だい強盗ごうとう】ねぇ。流石にハデだ。他のカラーズももう動いてるよ』


 その、世界におよそ十万人ほどいる専業カラーズの中の最高峰。首輪Collarちなんだ五組の賞金稼ぎたちは――


は?」


『まだ動いてないね。一番近くてフランスだ』


 五つのColorかんしている。


「運がいい。それで心当たりは?」


『ウサギにヤギにウマねぇ。お約束テンプレートだなぁ。黒のセダンは東の郊外こうがいに抜けるルートっぽい。一番に追ってるのは警察よりも猟犬の方だ』


。……音楽隊?」


『残念。〈音楽隊ブレーメン〉は運び屋だ。のね。今回みたいに車を使ったりはしないよ』


「じゃあ【大強盗】はどうやって行方ゆくえくらませると思う?」


『このまま騒ぎを引き連れて突き進んだら渋滞にハマる。そんな間抜けじゃないだろ。空でも飛べるんなら話は別だけどさ!』


「今回の強盗に盗まれてる、は?」


『おっ流石だね! あるよー。だ』



「二人とも聞いてた?」


『おうよ』


『あぁ』


 レオとスズの応答を聞き、カカシは算段をつけた。


「……ディナーには間に合うかな」



 /


 逃亡する【大強盗】のセダンの後を、カラーズの車がその他の車を乱暴に追い抜きながら猛追している。そこに、一台のクラシックカーが並んだ。


 道を譲れ、ではなくこっちを見ろ、という意味のクラクションにカラーズは窓を開けて隣の車両を見た。それを確認してレオは声を投げる。


「見たとこアンタらカラーズだろ? 今追ってンのが噂の【大強盗】だ、違うか?」


「なんだご同輩かぁ!? 先に食い付いたのはこっちが先だ!」


 脱法スレスレの運転行為を最終的な成果で帳消しにはできても、賞金稼ぎ同士でのいさかいはその限りではない。賞金首に関係のない暴行、事故、破壊その他もろもろは普通に犯罪が適用される。


 レオは笑った。


「……『千両役者ミリオンダラー』にかった金はそのままに直結するぜ?」


 賞金稼ぎのトップに『五色』があるように。賞金首の中にも最高位がある。


 序列じょれつ無し。八組の犯罪者たちが座る椅子の名前は『ミリオンダラー』。今回ちまたを騒がせ、今まさに爆走している【大強盗】はその第二席に位置している。


「山分けしようってか?」


「皮算用にならなきゃいいけどな。はそんなケチじゃねェよ」


 。レオのその言葉に、並走するカラーズの男は目を白黒させた。


「は!?」


「欲しいモンは別にあってね。おっと失礼――、ミスるなよ?」


『お前こそ逃がすなよ、だ』


 短い応答――少しの間を置いて、目標である【大強盗】が走っている、往路復路入り乱れるロンドンの川にかった橋に、


 爆炎と黒煙とクラクション、悲鳴と車両の激突する音。デパートで起こった阿鼻叫喚あびきょうかんを上書きするような地獄絵図。


 一瞬で麻痺を起こす交通。に辿り着く前に、道が断たれてスピンする黒塗りのセダン。


 あんぐりと開けた口が塞がらないカラーズの男に手を振ってうながす。


「強盗行為ってのは、奪うまでは楽なんだよ。問題はどうやって逃げるかなんだ。ま、その辺は他も変わんねェけど」


 ――知ってのとおり、賞金稼ぎが起こす犯罪行為に免罪は無い。獲物を捕まえる為だけになど言語道断ごんごどうだんである。そんなことをしたら即座に


 わかっているのか、と瞳が問う。わかっているとも、と瞳が笑う。


「おいお前、いやお前らか? 何者――」


「そんなん後だ後。川に飛び込まれでもしたら笑い話になっちまう」


 急停止した車でギチギチに詰まった車道を避け、歩道に乗り出して二両の追手がセダンに向かう。



「坊。詰めチェックに入るぜ」


『了解。抵抗に気を付けて。ドロシー、準備いい?』


『もー待ちくたびれちゃったー!』



 ――溢れかえる音の中で、一人分のソプラノが遥か上空で歌っていることに、まだ誰も気づいていない。

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