かくて舞台は幕を開ける。


 ――その日、一発の砲撃が日常を終わらせた。


 着弾場所はロンドン街中の大百貨店デパート、その一階正面フロントである。てのひら大のオレンジ色のランチャー砲が自動ドアの開閉よりも早くガラスをぶち抜き、店内で一拍いっぱくの間を置いて爆発した。


 飛び出す黒煙と店内からの悲鳴。大通りを歩く人々が異変に立ち止まるなか、警察やレスキュー隊が突入するよりも早く――颯爽さっそうと事件現場に足を踏み入れた。


 素顔はわからない。スーツに身を包んだ三人組は、いずれも顔に動物の被り物……まさにパーティーグッズのそれを被って入店を果たしたからだ。


 ばらららら、と軽快にマシンガンを一掃射してから、ウサギ面の男(推定)が最初に。その後にウマ山羊ヤギと続いていく。


 生き残りたちのうめき声。まばらに生まれる悲鳴。そして銃声。沈黙。そこまでがワンセットで、命を落とさなかった者たちはこの状況にかれたルールを読み取った。。一方的、かつ覆せないその暴政。


 の段取りは実にスムーズだった。防犯ベルが鳴り響く中を、馴れた調子で突き進み、一階フロアに残っていた物品を目に付くそばから手に取り、袋に詰めてはまた次へ。二階以降には宝石などをメインにしている区画があったのだがそれは無視。バーゲンセールに殺到さっとうする主婦さながらの乱暴さで戦利品を獲得していく。


 が腕時計を確認し、撤退のハンドサインを振る。が出口に向け、もう一度マシンガンを掃射した。警官隊より先に現場に集まり始めた野次馬たちが、蜘蛛の子を散らすように一斉に引く。


 最初の着弾より十分以内での退店。帰る時には罰当たりなサンタクロースを髣髴ほうふつとさせるように、持ち込んだ袋は満載になっていた。


 が、奇跡的に立ったままのマネキンが着ているスーツの胸ポケットに『名刺』を差し込み、ピンを抜く。


 駄目押しとばかりにフロアに転がされた手榴弾が爆発したのとほぼ同時に、停車していた黒いセダンが猛スピードで騒ぎを置き去りに走り出した。


 ――以上がこの日、昼前に起こった事件の顛末てんまつである。



 そして、運悪くその場に居合わせたMr.ヴァレンタインことレオは五体の無事を喜ぶよりも身なりが汚れたことに腹を立てて、連中が残していった『名刺』を抜き、再度集まり始めた群衆の中を抜けて、用が済んだばかりの銀行に舞い戻ることになったのであった。




 /


 メンバー全員に開かれた回線。を終えたレオは、銀行の駐車場に泊めてあった愛車にキーを差し込みながら、今回のについて口を開く。


「で坊。作戦はどうするよ」


『突発だしなぁ。いつも通りセオリーで良いんじゃない? レオが追い立て役』


 リーダーとされるカカシ少年が億劫おっくうそうに――けれども淀みのない指示を出す。


「あいよ」


『スズはゴールを押さえて』


『了解、だ』


 レオより一段低い声の返事が短く入り。


『あたしはー?』


『ドロシー戦闘要員じゃないからなぁ』


 不満げに響くソプラノへは、


でも立ててもらおうかな』


 そう、少しだけ愉快が入った声で返す。


『あは。りょーかーい』


 ……騒ぎがその規模を肥大化させ始めたなか。



「ンじゃ、幕開けショウ・タイムだ――気合入れていこうぜ」



 三者三様。別々の場所にも関わらず、それぞれの愛機が同時にエンジンのうなり声をあげた。

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