第27話 女学生三人組

 冬の晴れた昼下がり、日当たりの良い菅野家のダイニングルームは暖かかった。紀依と桃子は女学校の臨時休校の日に桜の家に遊びにくる約束をしていたのだった。

 光は三人に遠慮して自室に戻ろうとしたのだが、来訪者二人が離さず質問攻めにされそうになった。しかし桜が適当にはぐらかし、光も場所を北海道の設定にして当たり障りのない辻褄を合わせた話をすると、二人の興味はさっさと光を離れて行った。

 女学生三人組のおしゃべりは学校のことや雑誌のこと、最近の銀座の様子など、尽きることなくどんどんとヒートアップして行った。

 光は圧倒されながらただただ話を聞いて適当に相槌を打つしかなかったが、高校生(つまりこの世界では二十歳前後だ)の学徒出陣の話題になった時、ちょっとだけ話題に入ってみた。


「学徒出陣って、中学生の時にテレビのドキュメンタリーで見たけど」

 桃子が怪訝そうな顔で聞き返した。

「テレビ?」

 紀依も同じく目を細めて聞き返す。

「どきゅ?」

「あー光ってたまに意味不明なこと言うけど気にしないで」

「ご、ごめん」

 いま中学生の設定を突っ込まれないでよかった、と光は思った。


「ふむ」

「神宮外苑の壮行会は、おととしに行ったよね」

 紀依が頬に人差し指を当て、思い出しながら言った。

「い、行ったの?!」

「光、なんか勘違いしてない?私たちは”見送り”だよ?」

「ぷっ、光ちゃん面白いね」

「湊女は三年生が全員参加だったからねぇ」

 桃子はお茶を一口飲んでから言った。

「あの日は上から下までずぶ濡れになってしまって寒かったよ」

 桜が思い出すように言う。

「傘禁止って、あれは酷かったねぇ」

「そうそう偉い人だけ屋根の下にいたのはズルかった!」

 紀依は思い出し怒りを始める。

「ほんとだよねぇ」

「でもみんなかっこよかったよね」

「やっぱり桜は軍服好きだな」

 紀依がからかうように言うと、桜は口を尖らせた。

「紀依だって退場のとき最前列まで駆け寄ったじゃない」

「いやいや、あれは感動するでしょ、ふつう駆け寄るでしょ」

「まー確かにちょっと感動したね、でもちょっと今さらな感じはあったかな」

「桃のところはしょうがないよね」

「お兄さん海軍の予備士官さんだっけ。どこにいるの?」

「ずっと南の方みたい。もう一年くらい帰ってきてない」


 三人はしみじみとお茶を飲み、桜が言った。

「あの行進してた人たち、今頃どうしてるのかな」

「南方とか中国で戦ってるんでしょ?」

「そりゃそうだろうけど、もう戦死した人もいるのかな。うちも人ごとじゃないのよね」

「桜の”お兄ちゃん”どうしてるんだっけ?」

「だいぶ前に帰ってきた時はビルマにいるって聞いたけど、もう全然連絡ないのよね」

 三人はため息をついたが、すぐに別の話題に切り替わり、雪が帰ってきて場所を桜の自室に移すまで、光を前にひたすら喋り続けるのだった。

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