新しい一日
第11話 早朝
騒ぎを聞きつけ大慌てで二階から降りて来た誠一郎は、状況を察すると腹を抱えて笑い出した。
「すまなかった。朝起きてからにしようと思ったのだが、先に説明しておくべきだった」
二人をダイニングに入れ、ひとしきり笑った後、光に言った。
「いや申し訳ない、光君、次回から手洗いに入るときはノックしてほしい」
光はしどろもどろになりながらひたすら謝り続けた。
「すみません。もちろんです。本当にすみません」
「それから桜、前から鍵をかけなさいと言っているだろう」
驚愕から回復しきれていない少女、
「あなた誰よ!!」
光に代わって誠一郎が答えた。
「昨日からうちに来ている、早水光君だ。ちょっと事情があってそれは後で説明するが、ひとまずはそういうことで見知っておいてくれ。光君、これは娘の桜だ」
光は慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「!!」
桜は言葉にならない言葉で光を指差し、改めて抗議した。
「まぁ、まだ夜中だ。もう一度寝ようじゃないか」
そう言うと、笑いながら誠一郎はダイニングを出て2階にもどっていった。光はすっかり目が冴え渡り、とても寝られる気がしなかった。そこに、何事もなかったかのように入って来た雪は、様子を見てからキッチンに入り、朝食の準備を始めたようだった。桜はそのままダイニングテーブルの椅子に座り込むとちょっとだけ突っ伏して、テーブルに残っていた茶を啜り始めた。
光は所在なく立ち尽くしていたが、ふと思い返して口を開いた。
「すみません、トイレ借りてもいいですか・・・」
「どうぞ!」
そっぽを向きながら桜は返し、光はおずおずとトイレに向かった。トイレは水洗だった。
微妙な沈黙の中、しばらくして起きて来た誠一郎を含め、四人で朝食になった。大きめのダイニングテーブルに誠一郎と雪、向かいに桜と光が座る。光は居心地の悪さを感じたが、空腹には負け、ありがたく朝食をいただいた。炊きたてのご飯と味噌汁に大根の煮物だった。
食事が終わると、誠一郎は「信じられないだろうが」と前置きし、光が話した話の内容を改めて雪と桜に聞かせた。
「光君、今の説明で合ってるだろうか?」
「はい。間違いないです」
「意味がわかんない。そんな爆弾でぽこぽこ未来から来れたら今に東京中に人が溢れるでしょ」
そう言うと桜は光を見返し、指差しで叫んだ。
「そもそも何者なのよ!」
「桜さん、人を指差してはいけません」
雪が桜をたしなめた。
「高校二年生です、十七歳の・・・」
「では桜さんと同い年ですね」
訝しげな顔をする桜。
「十七歳の高校二年生なんているわけないでしょ!」
誠一郎が続けた。
「まぁ色々あるだろうが、何を言ったところで誰も信じないだろうし、怪しまれるだけだ。昨日少し考えたのだが、光君は私の遠縁で、北海道から上京して来た書生ということにしようと思う」
「意味わかんないよ!」
ふくれっ面のまま再び叫んだ桜は、ぷいっと横を向いた。
「わかりました。では配給も追加してもらわないと困りますし、組長さんには帰り道にお話しておきますね」
雪はお茶を飲んだ後に涼しい顔で返事をした。
「・・・すみません」
状況はよくわからなかったが、光は恐縮して頭を下げた。
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