第10話 御不浄
「こちらへどうぞ」
食事が終わると、光は雪に案内されてダイニングを出た。誠一郎はスマホを受け取るとすぐにいなくなっていた。ダイニングの隣にあるキッチンの左手に、ドアが二つ並んでいた。雪は手前側の部屋を開けると電気を付けた。ベッドと小さな机と椅子がある三畳ほどの小部屋だった。小さな窓があり、外が見えるようになっていたが、今は厚手のカーテンが掛かっていた。
「右隣のお部屋は使っているので間違えないでくださいね、鍵はかけてありますけれど」
「はい」
「それと御不浄は廊下に出て突き当たりを右にあります」
「ご、ごふじょう?」
雪は笑った。
「お手洗い、かしら?」
「あ、わかりました」
「お布団と枕とシーツは先週干したばかりです。寝巻きはここに。主人の古いものですけれど」
雪は光の全身を上から下まで見ると言った。
「大きさは大丈夫そうね。それとお水はここに置いてありますので使ってください。細かいことは明日お話ししましょう」
「ありがとうございます」
「だいぶお疲れの様子。明日の朝ご飯は起こした方が良いのかしら」
「お、お願いします!」
「わかりました。では、おやすみなさい」
「はい、あの、いろいろありがとうございます」
光は慌てて頭を下げ、雪はまた微笑むと部屋を出て、扉を閉めた。
光は大きなため息、いや、安堵の息をつくと、とりあえずベッドに腰掛けた。そしてベッドの上に置かれた浴衣を眺めた。手早く着替えてベッドに横になった。ふと思い出し、腕時計を外して枕元に置く。アラームをセットしようかと思ったが、起こしてくれると言われたのでそのままにしておいた。そもそも普段スマホでアラームをセットしていて、時計でのやり方は覚えていなかったのだ。部屋の中は寒かったが、布団に潜ってしばらくすると暖かくなり、心も落ち着いてくるようだった。
とんでもない一日だった、天井を見て光は思った。ゲームのやりすぎで遅刻しそうになり、走って不発弾の爆発に巻き込まれて、兵士の上に落ちて、一日飲まず食わずで、昭和二十年の東京を歩き回って、偶然出会った家でお世話になって、食事まで貰い・・・やはりゲームが原因なんだろうか・・・。ぐるぐると思考を巡らそうとした。が、数秒後には疲れ果てた光は眠りに落ちていた。
夜中に、光は目を覚ました。見慣れない天井に目を泳がせた。
「夢じゃなかった」
目が覚めた瞬間、もしかして今までのことは全部夢なのではないかと思ったが、残念ながら現実だったようだ。枕元に置いた腕時計に手を伸ばし、時間を見る。まだ4時だ。雪さんは起こしてくれると言ったが何時だろう、と思いつつ、どう考えてもまだ先であると考え、寝ようとした。
「トイレ・・・」
光はしばらくもぞもぞし、誰も起こさないよう、寒い部屋を静かに出た。寝る前に教えられたことを思い出し、廊下を通り、トイレのドアを開けると・・・先客がいた。
「え!?」
「あ?!」
光の寝ぼけた頭が一瞬で冴えきった。
目の前には洋式トイレに腰掛けたショートヘアの少女が、
「!!!??」
少女は目をまん丸にして驚愕の表情だが、それは光も同じことだった。
「ギャー!!!!!」
深夜と言ってもいい、早朝の浅草に絶叫が響き渡った。
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