記録4 TRIGGER

「あら?ケイちゃん♡楽しそうね。」

 ケイの眼をみてシェーネが言う。


 はぁ?! と眉間にシワを寄せて口を歪めるケイ。咳払いして表情を切り替える。


「……ところで、そのナノマシンがM110エルドラードで開発されたものだとして、〝不老不死〟や〝金〟のためにそれを狙う奴らが多いのは解る……。」


「そうね。かの地が消滅した後に、情報を得た者たちが組織総出でデブリをあさりに来ていたらしいわ。でも、コロニーの破片すらもないわけで、お宝めいた物があるわけもなかったのよ。」

 パネルを指でコツコツと鳴らす。


「だから、このナノマシンの存在もわかるわけもないしね。……もともと情報漏洩していたのか、これを持ち出した生き残りがいたのか……?」

 シェーネは煙草をふかしながら皆の顔を見渡す。


「だったら、なんでこれがルードゥスにあると踏んだ?」

「……この情報を意図的にばら撒いてる者がいるわ。そして、信憑性が高かった情報が3つ。1つはこの星ルードゥスにあると言うこと。ヒトが集まれば、モノも集まるからね。もう1つはビネス無法地帯で国際警察の動きが活発になってるということ。その原因は解らないけど、普通じゃないことが起きてるということよ。」


「……なるほど。」


「そそ!ウチらも半信半疑だったよ。ね!オダコン!!」

 シークレットが大きな声で名を呼んだ。


「うむ」

 何処からともなく声が聞こえる。視線の先の天井が変色したかと思えば、たこ頭人型の男が浮かび上がる。体に生える無数の吸盤で天井にくっついていた。


「オダコンか。そこに居たのか。」

「常に油断するな。気配を読むのだケイ。」

 

 この時代錯誤な物言いの、私は宇宙人代表です!と言わんばかりの姿の男が、バロック号では最後の紹介となるクルーのオダコン・マーシュである。

 彼もまた魚人属マーフォーク陸生頭足類スレイプニルで口周り、顎からウネウネと動く髭のような触手が8本生えており、身体は柔らかく、指はどんな角度にも曲げることができる。

 先ほどのように体色を変化させることもでき、ステルススキルのある潜入任務のエキスパートだ。(ちなみに裸ではない)

 

 「ふむ」「うむ」が口癖の男。

 どこかの本で読んだ〝忍者〟とか言う戦闘民族に憧れ、自称〝宇宙忍者〟を名乗り、自身の技を〝忍術〟と呼ぶ不思議な奴だ。

 狭い空間にも軟体を活かして入り込むことが可能。シークレットがファイターであれば、オダコンはアサシンと呼べるだろう。

 両眼を閉じ、腕を組み、直立不動で事の成り行きを話し始めた。


「そして、3つ目の根拠だが。〝URCアーク〟が存在するという噂は7年前に探検家トレジャーハンターの友で、同じ陸生頭足類スレイプニルのザカース・アルジオーネから私の耳に入ったのだ。私自身も当初は信じてはいなかったが、キャプテンには報告だけはしていた。エルドラードに関係していたなど怪しくて声に出す者も少ない話題だ。いくら私の旧友とはいえ、仲間達を巻き込むほどのことでは無いと考えていたからだ。」

 

 オダコンは壁にもたれ淡々と経緯を話し続けた。


「私もザカースが訪れたであろう星に降りた際は、キャプテンの協力を得て情報収集する程度だったが、全て眉唾物で確かな情報は一切なかった……。だが5年前、友から連絡が入ったのだ。『仲間も船も失った……』と。メッセージの発信元を探った結果、密入国を繰り返し幾つかの星を渡り歩いたようだ……ここルードゥスにも来ていたようだ。そして、『〝URCアーク〟は実在する――』と伝言だけがバロックに漂着した。以降消息不明だ。」

  

 ただオダコンは淡々と話した。まるで〝友〟の話をしているなどと感じないほど冷静に。


「私たちはそれ以来〝URCアーク〟が伝説ではなく真実だと確信し行動してきたの。もちろん、危険は承知の上でね――オダコンは友のため、私は〝URCアーク〟の力を手に入れるため――。」


 長年追ってきたナノマシンが惑星ルードゥスに漂着した可能性がある。そこまで把握したうえでシェーネ達はケイに依頼をした。絶大な信頼があった。

 ケイと対峙した者はことごとく殺されている。そして何より、彼が一匹狼で相棒パートナーも命令に従うだけのAIだからである。


「ケイよ。我々とともに行動しないか?」

「そうよ。あなたの様な優れたハンターが一緒にいてくれれば心強いわ。ジャックやジークも居ることだし、あなたやアイちゃんのメンテナンスも出来るわよ?」

 

 バロック号のクルーは皆、彼を受け入れている。ケイがどんな経緯で賞金稼ぎになったにせよ、彼らも戦争で友や家族を失い、ケイもまた同様に〝漂流者ドリフター〟だからである。


『ケイ。皆様こう言っておられますが、どうなされますか?』

 アイがアマデウスから発信する。


「あら、アイちゃん見ていたの?そんなところに居ないで、こっちに来たらいいのに」

「お!アイちゃーん!こっちおいでよ!」

 

「仲間、か……。」

 ケイは少しうつ向き、ため息交じりに声に出した。


「無理はしなくていいわ。でも、悪くもないでしょ??」


(……)

 こころが騒つく。

 目的が変われば生きづらくなる。仲間がいればリスクも増える。いつもそう思っていた。


「いや、オレは……1人で良い……1人が良い。」

 自分ができる精一杯の回答をした。

 への字に曲げた口で、シェーネの目を見る。

 

「ふふ♡わかったわ。気にしないで。私たちはいつでも歓迎するから。」

 頷き、笑顔で答える。


「そうか、致し方があるまい。」

「なんだぁ~。ケイ~!つまんないぞ!」

「まったく、ぼっちゃんらしいねぇ。」

「ケイよ。一先ず今日はココで飯を食っていくと良い。」

「くっくく。おこちゃまだねー。とりあえず体調診てやるから、あとで来な。」

 ガシガシとケイの頭を撫でるジャック。

「アイ君もジーク君にメンテナスしてもらってはどうじゃ?」

 DDはケイの隣で優しく微笑んでいた。

「そうしよ!そうしよ~!」

 後ろから飛びついてハグするシークレット。

――……。


「おいっ、オレは……あー、離れろって。」

『ケイ。お言葉に甘えさせて頂きましょう。体調管理も仕事のうちですよ。』


 それぞれにケイへの熱い思いがあるようだが、それをどう受け止めていいのかわからずにいた。


「私たちはこれから〝URCアーク〟の研究と情報収集をするわ。でも、この最先端の技術は私たちの力では少しも使いこなすことは出来ないでしょうけど。」

 煙草を咥え、大きく吸う。チリチリと赤く燃え、一息で吸い切った。

 はぁ~~~~……と大きく煙を吐き出し。手元にある灰皿にグリグリと押し付け火を消した。


「ジャック、ジーク!2人のことは任せたわよ!」

「へいへい、りょーかいだー。」

「アイ君、メンテナンスルームへ来てくれ。」


『では、お邪魔させていただきます。皆様、いつもありがとうございます。』


 2人はそれぞれ身体を診てもらう事となった。

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