第60話 若き獅子の鼓動

 李傕の首を鞍にぶら下げた時だった。

 怒気をまとった一騎が猛スピードで接近してきた。


「呂青! ここで会ったが百年目だ!」

「やあ、李武。昨日の味方が今日の敵とは、どうやら至言らしいな」

「辞め腐りやがって! 孤児上がりの分際で!」


 李武にやや遅れて郭方も到着する。


「父親の首を取り返しに来たのか? お前にも殊勝なところがあるのだな」

「カンにさわる奴だな! 今日という今日こそぶっ殺してやる!」


 呂青は槍を構えた。


「一つだけ礼を言う。欲しかった首の方からやってきた。探す手間が省けた」

「利口ぶりやがって! お前のそういう部分が気に入らねぇ!」


 李武は腰の剣を抜くとブーメランのように投げてきた。

 こちらが弾いている隙に矛で突いてくる。


「くたばれ!」


 呂青は石突のところで受け流した。

 わざと槍を短く持つことで対応の幅を広げておいたのだ。


 李武が前のめりになる。

 その喉輪のどわに槍を突き立てて半回転させた。

 まずは李武の矛が、続いて白眼をむいた体が地面に落ちる。


 大した敵じゃない。

 孫策の方が何倍も強かった。


「どうした、郭方。お前の鎧には血が一滴もついていない。その剣は無抵抗の民を殺すためにあるのか?」

「俺は李武と違う! こんな場所で死ねるか!」


 郭方は悪友の死体を見捨てた。

 馬の尻を剣で連打しながら逃げていく。


 すぐ飛電に追わせた。

 後ろから槍で一突きする。


「命だけは……助けて……」

「諦めろ。長安に帰っても斬首じゃ済まされないぞ。戦死が一番楽だろう」


 一思いに首を刎ねておいた。

 それから馬首を返して李武の首も回収しておいた。


 李傕と合わせて首級が三つ。

 さすがに荷物が多いな、と思っていたら李粛の部隊と合流できた。

 

「呂青殿、お怪我はありませんか?」

「体は平気です。しかしさっきの戦いで槍の穂先を傷めました。力加減を誤ったみたいです」

「自らの手で李武と郭方を?」

「因縁がありまして」


 李粛はあいまいに笑ってから戦場を見渡す。


「ほとんどの敵は片付きましたな」

「ええ、圧勝です。徐栄殿、華雄殿、胡軫殿の働きも目覚ましい」

「あはは……彼らは元々李傕や郭汜と仲が良くないのです」


 肝心の郭汜はというと、逃げに逃げまくっていた。

 呂布に追いつかれるくらいならと韓遂馬騰の陣に突っ込んだが、とうとう最後の一兵まで討たれてしまった。


 続々と勝報が入ってくる。

 郭汜にトドメを刺したのは馬騰の息子らしい。


「つまり馬超ばちょうか……」


 この時、馬超は十七歳。

 自分より若い才能が出てきたことに新鮮な驚きを感じた。

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