第58話 三日だけ猶予をやる

 董卓の死により第一ステップは完了した。

 第二ステップは董卓軍の腫瘍ガン、李傕と郭汜の排除である。


 すぐに長安から大軍が出発した。

 呂布軍を中核として、徐栄、華雄、胡軫、李粛が参戦している。


 総勢八万。

 対する李傕と郭汜は五万だった。


 ちなみに樊稠と張済は遠征しており、今回の合戦には不参加である。


 大きな槍を用意させた。

 その穂先に董卓の首をのせて両軍から見えるところに設置する。


「奴らに降伏を勧告してくる」


 呂布、呂青、李粛の他、二十騎ばかりで出向いた。

 向こうからも旗下を連れた李傕と郭汜が出てくる。


「裏切りやがったな、呂布!」

「よくも太師の首を!」


 怒った李傕が矢を放ってきた。

 呂布は空中でキャッチしてへし折る。


「勅命により董卓は滅んだ。殺されたくなければ降伏しろ。死人が増えることを陛下は望んでいない」

「嘘つけ! 俺たちが武器を捨てたら皆殺しにする気だろう!」

「開戦は三日後だ。また会おう」


 呂青たちは馬首を返した。


「三日も猶予を与えていいのか? 速戦即決が兵法の基本だろう。李傕と郭汜に合戦の準備を許してしまう」


 李粛が問いかける。


「かまわない。青に作戦がある。今まで青の狙いが失敗したことはない」


 一日目の夜になった。

 お互いの陣営は篝火をガンガン焚いており、真昼のような明るさに包まれている。


 小一時間ほど軍議を開いた。


「短期決戦して李傕と郭汜を殺すべきだろう」


 血気盛んな華雄と胡軫が主張してくる。

 しかし呂布は首を横に振り、


「ここで李傕と郭汜を一方的に攻め殺したら、樊稠と張済までそむくことになる。それだけは避けたい」


 と説明した。

 徐栄も同意見だった。


 一夜明ける。

 呂青のところに一つの首級が届いた。

 董卓の娘婿、牛輔ぎゅうほの生首だった。


 董卓の死により牛輔の兵士は激しく動揺していた。

 なので金品と引き換えに殺させている。


「槍を用意してくれ。董卓の首の横に並べる」


 戦場にもう一本槍が立つ。

 牛輔が率いていた五千の兵士は李粛軍に加えた。


 昨日と同じメンツで降伏勧告に向かう。


「おのれ! 呂布! 牛輔まで殺しやがったな!」

「降伏しろとか口先だけじゃねえか⁉︎」


 この日は郭汜が矢を射かけてくる。

 呂布は空中でキャッチすると、もらった矢を弓につがえて、逆に郭汜の馬を射殺した。

 この神技には敵の兵士らがゾッとしていた。


「天竺の僧侶に聞いた話だが、仏の顔も三度まで、という格言があるらしい。もう一晩だけ考える時間をやる。賢い選択を期待している」


 颯爽と陣に引き返す。


 さらに丸一日が経過した。

 敵側の脱走兵が相次いでいる、という報告を受けた。


 千里隊と順風隊を使って『素直に降伏した兵士は罪に問われない』という情報を広めている。

 その甲斐もあり百人とか二百人という集団で投降する部隊が目立った。


「向こうの様子はどうだ?」

「疑心暗鬼ですね。でも李傕や郭汜の古参兵は団結しています。降伏したら皆殺しにされると信じています」

「それだけ悪事を働いてきたからな」


 間諜の報告を聞いてから呂青は眠りにつく。


 開戦の朝がやってきた。

 華雄や胡軫を連れて小高い丘に向かった。


「見てください。到着しました。我らの援軍です」

「あの軍はまさか⁉︎」


 およそ五万。

 李傕や郭汜の退路を断つように布陣している。

 朝日を浴びる旗には『韓』の字と『馬』の字があった。


「韓遂と馬騰を味方につけました。三日の猶予はこのための時間稼ぎです。天の時、地の利、人の和、いずれも我々が勝利しています。この勝負、百回戦ったら百回勝てるでしょう」


 呂青たちは陣に戻り開戦の合図を待った。

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