第53話 ライバルたちの動静

 やることが山積していた。

 真っ先に手を付けたのは千里隊と順風隊の増強である。


 総勢五十だったのを百五十に増やした。

 これにより寿春、汝南、下邳かひまで監視スコープに入った。

 ちなみに洛陽は焼けたから順風隊のアジトは許昌きょしょうへ移している。


「袁紹や曹操の様子はどうだ?」

「反董卓連合が解散したことで互いに争うようになりましたね」

「仲間割れか。董卓の読み通りだな」


 檄文を作成した橋瑁が劉岱りゅうたいに斬り殺されていた。

 また袁家の一門に袁遺えんいがいるが、揚州ようしゅうの支配権を巡って袁術とぶつかり殺されていた。


 血のつながった身内ですら敵なのだ。

 そもそも反董卓連合に無理があったといえる。


「呂布軍の精強さが話題になっています。十倍の敵を蹴散らしました。項羽軍の再来と噂されています」

「う〜む……相手は袁術で、しかも油断していたからな」


 呂布の他にもう一人、目覚ましい戦功を立てた男がいる。


 徐栄じょえいである。

 東から攻めてくる曹操、鮑信ほうしん張邈ちょうばくの軍勢を大破していた。


 徐栄は北の幽州出身だ。

 呂布と同じく新参者である。


 董卓は涼州人を重用しているが、それは兵士に限った話で、指揮官クラスになると出身は問わなかった。


 李粛とも何度か会っている。

 公孫瓚と交戦してきたらしい。


『公孫瓚の近くに恐ろしい槍の遣い手がいた。危うく首を討たれかけた』と話していたから、おそらく趙雲と遭遇したのだろう。


 趙雲は三十歳くらいだと思う。

 武人として脂が乗っている時期だ。

 特訓してもらった日々が懐かしい。


「洛陽で気になる噂を耳にしました」

「ほう……」


 孫堅が伝国の玉璽を見つけたらしい。


「董卓らしくない失敗だな。あれは正当な統治者であることを証明する唯一の物だ」


 やがて自分が皇帝に……と董卓は考えているはずだ。

 玉璽を手放すことは兵士一万を失うより痛いだろう。


「董卓もボロが出るようになったな。権力という魔物が相手だから仕方ないか」


 この一年でやや太った。

 ストレスから来る暴飲暴食のせいだと呂青は考えていた。


 あと激怒することが増えた。

 以前までの董卓は感情を完ぺきにコントロールしていた。

 恫喝目的以外では怒鳴らなかったが、近頃は本気でイライラしている様子だった。


 数日前、ちょっとした事件が起こった。

 物音にびっくりした董卓が衛兵から奪った槍を投げつけたのだ。


 槍が飛んだ先には呂布がいた。

 呂布は顔色一つ変えることなく素手でキャッチした。


『いかがしました、相国』


 この一件を董卓は激しく悔いたらしい。

 天下の名馬、赤兎せきと下賜かししている。


 なぜ呂青が詳しく知っているかというと、現場の隅っこで待機していたからに他ならない。


「どうやら董卓は暗殺を恐れているらしい」


 呂青は剣を片手に立ち上がる。


手筈てはず通り部隊を集めてくれ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る