63話 盤上のシンデレラ 終
転移時に分断された勇者達は、魔王の城にそのまま転移していた。
城内には魔王がただ一人が存在する。戦況は4対1の有利な戦いをするが、ファイム以外は簡単に魔王に圧倒されていた。
しかし、聖剣カルメルを使った勇者の力は魔王をはるかに凌駕し、遂に致命傷を与えた。
魔王は全身から霧状の魔力を放出しながら言葉を吐いた。
「聖剣カルメル、命を燃やす剣。これほどとは……」
「最後に言い残す事はあるか? 魔王……」
「フッツハハハ、あと数日後に死ぬ勇者にか。そうだな、勝利に酔いしれたまま逝けるといいな」
魔王は笑いながら最後の言葉を勇者に言い放った。
それを聞いて勇者ファイムは、聖剣カルメルに魔力を込め一振りした。
魔王はあっけなく聖剣カルメルの業火に焼かれ消失した。
「これで終わりか……」
勇者ファイムはポツリと呟き剣を鞘に納める。
ファイムは魔王の言葉に少し違和感を感じるも、今は考えるのをやめていた。
それから戦いが終わり聖霊都市では、勇者ファイムが魔王を討伐した事により連日お祭り騒ぎだった。
勇者達は国王から表彰され、国民からは英雄ともてはやされていた。
ファイムと仲間達は街を凱旋し、毎日浴びるように酒を飲み楽しんでいる。
そんな騒々しい町中から外れた教会の一室で、オルトは過去の記録を探っていた。
「やはり仮説はあっていたか、ハヤトは既に死んでいる。そうなると後はアヤトがこの世界に召喚されるのを待つべきか……」
俺はファイムから得た情報を確かめる為、教会の地下で資料をあさっていた。
「お探しの資料は見つかったかな? オルト」
「なッ! いつからそこに、それに何故俺の名前を知っている」
俺は無警戒だった背後からの声に振り向くと、そこには神父が立っていた。
「一般市民に知られていなくとも、精鋭部隊の功績、特に春水を討ち取った者の名は教会上層部なら皆知っていますよ」
「知らない間に有名人か……それで、教会の資料を無断で漁っている人間を捕まえないのか?」
「見られて困るような資料ではないですし……今はもっと面白い話をしましょう」
「面白い話?」
「ええ、私があなたが探しているハヤトだという事とか?」
神父は俺が教会に侵入し情報を収集してる事を咎めるつもりは無いらしい。
しかし俺に対してハヤトが自分だという、嘘でも真実でも意味が分からない事を言い出した。
「読めないな、嘘を語るにしても目的が分からない。それに真実だとしても証拠が無い」
「それなら、『この世界の主人公はお前じゃない』これならし」
俺は神父が喋り終わる前に、剣で神父を貫いた。
俺にとってその情報は、ハヤトだと判断するには十分だったからだ。
「ハヤト、その言葉は俺達しか知らない!」
「ぐはっ……心臓を一突きとは、容赦ないですね。しかし、我々にとっては理解できる行動」
「ん? 何故死なない……」
俺は剣を引き抜き少し戸惑っていた。神父から血が溢れ出るが倒れる気配がない、普通の人間ならば即死のはず。
俺が困惑していると甘い香りと共に、どこから現れたのか一人の少女がいた。
「ノイン、何故止めない? 服に穴が開いてしまったではないか」
「何で私が不死身の人間を体張ってまで助けるのよ。このクソ神父」
「甘い香り。催眠系魔法か、体が動かない……いつからそこに?」
「バカね、最初っからよ」
目の前のメイド服を着た少女は罠にかかった間抜けな獣を見るような目で俺を見た。
気配というか存在を俺は認識出来ていなかった。
いつ魔法に掛かっていたのかすら分からないが、間違いなく戦場なら死んでいただろう。
「私がハヤトと分かると容赦ないか。予想通りだね。ただ今日は予定があってね、詳しい話は明日教会で話そう」
「まてハヤト、何故俺を殺さない?」
「今更椅子取りゲームをするつもりは無いよ、オルト。それに私はもうハヤトとしての記憶は無い。不死であり既に死んでいるのだよ……」
神父はそう言って軽く笑いながら去って行った。
「その魔法はあと10分程度で解けるはず。無理に動いて顔からこけない事ね」
メイド姿の少女はそう言って神父の背中を追って行った。
ここまでが俺の失った記憶の全てだった。
俺は夢から覚めた。ベットから起き上がり月明かりが差し込む窓を見た。
どうやら深夜らしい。
「……ッ」
「頭がガンガンするな、情報量が多すぎる」
脳内に記憶が流れ込み過ぎて、俺は気絶していたようだ。
「あのクソ神父、不死身に洗脳催眠とか悪魔だな」
記憶の断片から想像するとハヤト、いや神父の目的は俺を駒として使いたいようだ。
ただ、この状況からノインという女がいる以上、教会側にいた方がいいだろう。
変にアヤトを殺す為に単独行動するよりも教会側内部に潜伏していた方が動きやすいし……
「しばらくは教会の犬か……」
そうして俺は教会側に使われながら行動していた。
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