57話 盤上のシンデレラ12

俺は医療室に着くと、ぐったりとした様子のフィオナを優しくベットに寝かせた。 

そして、軍の担当医に治療魔法を頼み、ついでに俺の傷も治療して貰った。

今日の担当医がミホで無かったのは正直助かった。もしいたら女の子をこんな目に合わせて何考えてるの? っと小言を言われていただろう。

俺は治った肩を軽く回し、担当医にフィオナへの伝言を残してから中層のカフェに向かった。


「いらっしゃいませー、お1人様ですか?」


「いや、あとから1人来るかもしれない」


「では2名様ですね、それではお席にご案内します。」


俺は中層にある少しおしゃれなカフェでコーヒーを飲みながらフィオナを待った。

待っている間に今後の事や教会の事、色々と思索して暇になり気づいたら可愛いフリフリ服の店員を眺めていた。

長い髪を後ろに縛り、動くたびに少し揺れて可愛らしい。一人の男の客人として目を引かれるものがあった。

それと、程よい胸のサイズに引き締まったお腹から腰のラインが何とも素晴らしい。

コーヒーの味はもちろん旨いのだが、店に通う何人かはこの子目当てで通っていると言われても納得がいくほどの容姿でもある。

顔も美人で少しフィオナに似てるような気がするな、何ならフィオナより可愛いかもしれない……

 

「ちょっと、うちの子を変な目で見るのやめてくれる?」


「いや、見てない……ん、なんだフィオナか」


俺が店員の仕事ぶりに目を奪われている間に気づくと、目の前に少し不機嫌そうな表情のフィオナがいた。

 

「なんだって……まあいいわ、そうだ。レインちょっときて!」


「はい、お姉さん」


「お姉さん?」


フィオナが呼んだ方を見てみると、さっきまでテキパキと仕事をこなしていた可愛い店員だった。

どうやらレインと言う子はフィオナの妹らしい。

呼ばれてトコトコ歩いてきたレインは軽くお辞儀して微笑んだ。

とても可愛い表情に、俺は可愛い小動物を見た時に似た感動を覚えた。


「そう、私の妹よ。結構似てるでしょ。」


「初めまして、レインと申します。あの、もしかしてあなたがオルトさんですか?」


「そうだけど、俺の事知ってるなんて嬉しいな」


「それはいつも姉がオルトさんの事を、むぐっ」

 

レインが話すのを物理的に遮り、フィオナはメニュー表を開きながら注文をし始めた。 


「はいはいレイン、先に注文ね。コーヒーとチョコパフェのチョコ多めで、それと会計はこっちのオルトにつけておいて」


「って、俺の奢りかよ!」

 

「分かりました。オルトさんは?」

 

「コーヒーのお替り頼むよ。ブラックで」


「かしこまりました。」

 

レインは注文を素早くメモし、お辞儀をして厨房に向かって行った。


「私の妹を変な目でずっと見てたんだし、見物料ね」


「変な目じゃない、それに少ししか見てない!」

 

俺だけ見物料を取られ少し不満だが、レインちゃんの姉の機嫌を取るのは長期的に得だろうし渋々納得する事にした。

 

「それに、あの打撃のせいで胃が空っぽなの、少しは加減……いえ、手加減はしてくれたのよね……」


フィオナは何か思い出したような顔をし、少し考えながら続けた。


「オルト、正直……私は本気であなたを殺すつもりで戦ったわ。だけど、勝てなかった。」


「そうだな……」


「元々、模擬戦でオルトが強い事は分かっていたわ。だから、本気を出させたいと思ってたのだけれど、剣が砕けた一瞬、何か技を出すのかためらっている様に感じたわ。」


「……」


「つまり、オルトにとって本気を出すまでも無く私は負けた。私だってそれなりの戦士、オルトが一撃入れてきてもおかしくはない状況だったと今になれば、確信に変わるわ」


フィオナは少し悔しそうに言ったが、どこか吹っ切れいるような顔をしていた。

俺は少しフォローするわけではないが、フィオナに言った。


「それは買いかぶり過ぎだ。俺も別に加減はしてない、そうじゃなきゃ鎧を砕けなかったし。それに腕の骨を砕いた場面で、フィオナは退く判断ではなくあえて攻める動きをしたのは驚いた。」


「魔獣化のおかげで回復が異常に早いの。腕か足、致命傷じゃなければすぐに治るわ。」


つまり、最初っから突っ込む気だったのか。もしあの重い鎧を着ていなければ、俺は反応できなかったかもしれない。

それに魔獣化か、超回復を前提にした捨て身の戦略か重装備は耐久戦特化の戦略なのだろう。


「魔獣化か、ケモ耳だし名前の通りだが魔法陣は見えなかった。体に組み込む術式か何かか? 初めて見る」


「いえ、違うわ。これは遺伝ね。私の家系は魔族ほどではないけど魔力量が多く、魔力を大きく開放をすると体の一部が魔獣化してしまうの。」

 

「なるほどな、それじゃあ妹もケモ耳になるのか?」


「レインはほとんど魔力を持ってないから、ならないわね。というより、私の妹の事は今はいいでしょ。それにそろそろ本題を話しましょう」


俺はレインちゃんがケモ耳のまま接客してくれたらいいなと妄想していたがそうはならなかった。


「ああ、すまん……本題だったな。結論から言うと、今のままだと死ぬだろうな」


俺はフィオナの本気を見て、今のまま魔人と戦って勝てるかどうかの感想を伝えた。

魔人春水戦。俺個人のデータ一つに過ぎないが、持って数分だろう。

他の魔人がどれほどの強さか分からないが、フィオナの今の戦闘スタイルだと引き分けはあっても勝つ事は難しいはずだ。

 

「じゃあ、どうすれば……」


「脱げばいい」


「はあ!?」


「俺も着てないし、そんな重たい」

 

「変態……さん?」


俺がフィオナに具体的な説明をしようとした最悪のタイミングで、レインちゃんがパフェをテーブルに届けに来てしまった。

俺はレインちゃんに変態呼ばわりされて驚いてしまい変な声が出た。

 

「へ?」


「お姉さん、どこに通報すればいいのですか?」


「そうね、治安維持部隊に通報を」


「するな、話を最後まで聞け。要は戦闘装備を変えろと言っている」


俺は心を落ち着かせて真面目な方向に話を切り返した。

俺とフィオナはレインちゃんからコーヒーとパフェをそれぞれ貰い一息ついた。

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