54話 スパードという男


春水との戦闘から数週間経過していた。僕たち3人はいつも通り訓練をしていた。

僕の名前はスパード。上層の名のある貴族の息子だ。

幼い頃から魔法能力があり身体能力も高く剣の才能もある。良い先生を付けてもらったおかげもあって、かなり強いと自負している。

実践経験はほとんど無いが、精霊都市の魔法学校では首席で卒業している。

つまり、権力だけの上層貴族とは全く違うといっていい。

現に魔王討伐の精鋭部隊としての特別な訓練を受けている。

僕は貴族らしく背筋を真っ直ぐにしながら椅子に座り、モザン教官の座学を聞いていた。

 

「この状況、魔族大隊が大将を失いこちらが優勢になった。オルト、この後こちらの隊がどう動くか分かるか?」


モザン教官の話を退屈そうに聞くオルトはいつも通り返事をした。


「全く分かりません。」


「想像でも構わん、お前ならどう動く?」


「他の隊の連中の消耗次第ですが、そのまま敵陣中央に攻め込み総大将を打ちに行きます。」


「その攻め方だと、敵が態勢を立て直した後に囲まれるぞ?」


「んー、まぁ……その時はその時ってことですかね……」


戦略も無く適当で浅い考えだな。まあオルトは元傭兵で下層の人間だし仕方がないだろう。

春水と戦って生き延びたとはいえ、知識面では僕はオルトを少し下に見ていた。

オルトの適当な回答にモザン教官は少しため息をつきつつ僕に回答を求めてきた。

 

「はあ、まあいい座れ。スパードお前ならどうする?」


「はい! 僕なら味方の援護をしつつ戦線を上げ勇者の到着を待ちます。勇者の到着までに総大将である魔人への接近ルートをしっかりと構築するのが勝利に一番近いと思われます。」


「過去の隊の戦歴をしっかりと勉強しているな。いい判断だ。座っていいぞ」


僕の模範解答が少し気に食わないのかオルトは少しすかした顔をしていた。

座学が終わり、久しぶりに実戦形式に近い模擬戦を僕たちは行っていた。

僕は軽く剣を構え対戦相手を見る。


「今日はオルトか、今までの模擬戦では手を抜いていたんだろ? 春水と対峙して生き延びた実力見せてもらうよ」


「面倒だな……」


オルトは少し退屈そうに剣を構えた。

合図と共に戦闘が始まる。

これまでの戦闘からオルトが魔法を使えない事を知っているが、警戒は怠らない。

僕はジグザグに動き、距離を詰めながら雷撃の魔法を放つ。

オルトは剣で弾くことはせずにギリギリで僕の雷撃をかわし距離を取ろうと動く。

恐らく避け続けて僕の魔力切れを狙っているのだろうか……

 

「随分と弱腰だな。遠距離ならこっちが有利だぞオルト!」


僕の戦闘スタイルは魔法と剣術の利点を生かしたものだ。

少し手加減した雷撃の牽制で有利に接近戦に持ち込む。

互いの魔力を込めた剣がぶつかり合う。

キンッツっと剣がぶつかり合い、高い音を何度もたてながらオルトに連撃を繰り出す。


「………」


オルトは僕の連撃をしのぎ、ジリジリと後退していった。

やはり剣術でも僕が上か……

僕は少し飽きて剣に魔力を乗せてオルトを吹き飛ばせる一撃を放つ。


「ツッ!」


オルトは斬撃をまともに受けないように剣でガードしつつ、後ろに大きく飛んだ。

僕はオルトの判断を予想していた。


「はあ!」


後退するために大きく飛んだオルトに、素早く雷撃の魔法を放つ。

オルトは空中で守りの体制に反射的に入るがピキッとガラスにヒビが入る音が響く。

そのまま魔法障壁は割れて勝敗はあっけなくついた。


「勝負あり、スパードの勝利だ」


モザン教官のジャッジの声と共に戦闘が終わる。

僕は剣を少し払い、鞘に納めた。

模擬戦とはいえ余りにも手ごたえが無い。

第三者から見れば真面目に戦っている様に見えるが全然違う。

僕はオルトがこの程度の実力で春水と戦い、生き延びたとは到底思えなかった。

つまり手を抜いて戦っている事は明白だった。

 

「やる気が無いのか、もしくは本気で戦って僕に負けるのが怖いのか?」


僕は模擬戦とはいえ、真面目に取り組まないオルトに少しだけ怒りを感じていた。

貴族として、ただ与えられた勝利程、癇に障るものはない。

金を握らせ勝利を得るどこぞの貴族とこれでは同じ様なものだ。


「強いな、スパード。驚いたよ、受けるので精一杯だった……」


「白々しい……」


僕はオルトの返事に呆れて立ち去った。

オルトは何か理由が無ければ本気で戦うつもりは毛頭ないのだろう。

森での異常な跳躍に春水との戦い、運もあるだろうが……

まあいい、上層の僕が一々下層の傭兵上がりに気を取られてどうする。

それに今日はオルトに貸したせいでボロボロになった剣が直って家に届いているはず、早く取りに行かなければ。

僕はそうして訓練が終えたあと、日が暮れる前に家に着いた。


「ただいま帰りました。」


「お帰りなさいませ、スパード様」


「剣は届いているか?」


「はい、こちらです。それと、剣について旦那様がが話したいと、お部屋で待っておられます」


「ありがとう。分かったよ。」


僕はメイドにお礼を言った後、剣を受け取りお父様の部屋に向かった。

扉の前で軽くノックし返事を聞き、部屋に入った。


「お父様ただいま帰りました。」


「おお、スパードかよく帰ってきた。」


「大事な家宝の剣にヒビを付けて、すいませんでした。」


「まあ、気にする事はない。それよりその剣なのだが、確かオルトとかいった者が春水との戦いで使用したと聞いていたが。あっているか?」


「はい、そうですが……オルトが何か?……」


お父様は椅子にどっしりと座りながら少し考える表情をしていた。


「スパードよ、そのオルトという者は勇者と同等の魔力を秘めているかもしれない……」


「フフッ、お父様ご冗談を。オルトは確かに戦闘はそれなりに戦えますが、魔法は使えないですし、模擬戦でも勇者と並ぶほどではありません」


僕はお父様の冗談めいた発言に少し笑った。しかしお父様は真剣に話を続けた。


「さっきその剣を修理して貰った鍛冶屋から話を聞いたのだ。普通、剣に魔力を乗せて戦った場合、外側から損耗していくが、その剣は内側からのヒビが入っていたと言っていた。」


「そんな……あり得ない、安物の剣なら考えられますが。いくら高負荷を急激にかけたとしても魔法結晶の純度の高い剣、壊れる訳が……」


「同じ事を私も言ったよ。これだけの魔力量を持つ者なら剣を創造する魔族か勇者ぐらいしかいない。まあなんにせよ、そのオルトという男は少し警戒をしておきなさい」


「……わかりました」


そうして僕はお父様の部屋から出て、軍の寮へと帰った。

僕は少しだけ考えていた。オルトが勇者、もしくは魔族……

勇者なら魔法が使えない時点であり得ない。

魔族なら春水との戦いで1対1の状況で戦闘を見た者はいないから可能性はある……

いや、一芝居打つにしてもメリットも無いし矛盾だらけで色々おかしくなる。少し疲れているのかな僕は……


「はぁ……」


部屋に入り僕は少しため息を漏らした。

ベットで横になりながら本を読むオルトを軽く見るが、どう見てもただの下層民だ。

訓練のやる気も無いし、コイツ僕と同じ隊じゃなかったら今頃は精鋭部隊から脱落しているだろうな……

 

「なんだ?」


「いや、何でもない」


僕はそのままベットに上がり少し早いが眠る事にした。

それからオルトを軽く警戒はしていたが特に変わらない日々を送っていた。

しかし、そんな日々も予想もしない瞬間を目に焼き付けてしまった時終わりを告げた。

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