47話 盤上のシンデレラ4
勇者のパーティーは魔獣を狩り終わり、交代で休憩を取っていた。
3人はテントで仮眠を取り、2人は火の番と周りの警戒をしている。
火の番をしているダンカとファイムは異変に気付き夜空を見上げた。
「あれは……閃光?」
ダンカは呟いた。
反対の山側から上空に一筋の光が雲を貫いた。
「雷撃魔法か? それにしては威力が高いようだ」
「恐らく二層魔法だと思います。しかし、魔獣狩りの範囲外の場所から……」
「ルール違反をした他の隊の可能性もありそうだが、二層魔法を使うほどとなると……」
ファイムは考えていた。二層魔法を使ってまで魔獣を倒すとなると、ドラゴンなどの大型の魔獣か魔族の幹部と対峙以外に考えられない。
光の角度から魔軍の城に少し近い、確かあの城は魔族たちの補給地として使ってると聞いたことがある。
しかし、たかが試験一つにリスクを取る必要があるパーティーと言ったら……
「なるほどな……分かったぞダンカ」
「ファイム様、私にはさっぱりですが……」
ダンカは頭を掻きながらファイムの考えを聞いた。
「こんな無茶な事をするのは3人パーティーの奴ら以外に考えられない。そう思えば以外にしっくりくるんじゃないか?」
「まっ……まさか、敵補給地のドラゴンをおびき出して狩ったと?」
「その通り、確かあのパーティーにスパードとかいう上層の貴族がいたはずだ。奴がやったとなると納得がいく」
スパードの家系は財力で成り上がった貴族ではなく、魔法の能力を評価された実力派だ。
スパードは幼い頃から英才教育を受け、実力は折り紙付きで、軍の中でもかなり有名な魔法使いだった。
ダンカは納得したように頷いていた。
「ファイム様、しかしあのパーティー危ないのでは?」
「そうだな、あれだけ派手にやれば魔人に気づかれるだろう。だが、魔獣狩り範囲内に戻って救援を呼べば別だろう」
ファイムは少し悔しかった。試験の本質に気づきプライドの高い仲間と新兵で構成された隊をまとめ、それなりの魔獣を狩って帰るつもりだったが考えが少し甘い事に気づいた。
この位置情報を示す魔法結晶は連携を見る為でもあるが、あえてルールを破りやすい事を教えていたんだ。
魔獣狩りの範囲は大型の魔獣はいるが5人で実力がある人間がパーティーに組み込まれている為、危険はない。
他の隊と範囲が被らないように魔獣を狩っても小型のリスが多くなる。そうなると結果は皆同じ様になる。
つまり、この夜間に範囲外の大型を少し多く狩るだけで簡単に1位を取れるのだ。
「ダンカ、予定変更だ! 寝ている3人を起こしてくれ」
ファイムは4人にこの訓練の本質を説明し、魔人の城とは反対方向の範囲外に向かった。
夜空に一筋の閃光が駆け巡っている間、魔軍の城では男の魔人幹部が違和感に気づき目を覚ました。
「繋がりが一つ……消えた……」
魔人はベットから起き上がりすぐに魔装し眷属を呼び出した。
呼び出した瞬間に黒い影から猫耳姿の少女が現れた。
「お呼びですか、はる水? 様?」
「ハルミズじゃない、春と水でシュンスイと読むのだ。そんな事より俺のドラゴンが殺された。クロック、結界はどうなっている?」
「シュンスイ様、私は結界は使えませんよ。ハルカ様は居られないのですか?」
「あー、そうだ……忘れてた」
春水は頭を抱えていた。
城の守りは基本的にドラゴンが警戒してくれている。しかし、認識阻害の魔法などの城に潜入しようとする敵に対しては無力だ。
だからこそ結界を張ったりできる魔族が重要なのに、今はハルカがいない。
魔軍は現在城をかなり勇者に落とされ後退気味だ。それに、人員も不足している。
そんな中、希少な結界を使える魔族となると重要な拠点に必要とされるのだ。
俺の部下のハルカは今メア様の城の結界を張りに行っていたのだった。
つまりこの失態は俺の責任だった。
「クロック、他のドラゴンはどうなっている? 敵は?」
「確認したところシュンスイ様のドラゴンのみ消えていました。先ほど閃光を確認した者の情報から、敵は少し離れた所に少数でいる可能性が高いかと……」
「しかし、読めないな。補給を断つつもりでも無く城を落としに、俺を暗殺しに来たわけでもない……」
「シュンスイ様の力を出来るだけ半減させたかったのでは?」
「俺は移動にドラゴンを使う、戦闘は別だ。」
少数で斥候に来て、たまたま結界が無かった為ドラゴンをおびき出したか……
しかし、こちらに警戒されるだけでメリットが無いと思える。
あえて警戒させて他の城の魔族を減らす狙いか……
俺とクロックは思考を巡らせるが敵の考えがまるで読めなかった。
「あー! 面倒だ。ごちゃごちゃ考えても埒が明かない! クロック! 城を任せた」
「分かりました。しかし、私は戦闘に長けた魔族ではありません。他の……」
クロックが言い終わる前に春水は窓から飛び出していた。
「大丈夫だ。俺だけで見てくる。一体ドラゴンを借りていくぞ!」
「はい……分かりました」
クロックの返事も聞かずに春水はドラゴンに乗って飛び立ってしまった。
クロックは飛び立った後ろ姿を眺めながら思っていた。
魔王様から貰ったと言われているドラゴンを一体失った失態だというのにシュンスイ様は笑っていました。
普通の魔族なら慌てふためき至急警戒態勢を引き応援を呼ぶなりするかと思っていましたが……
メア様……シュンスイ様は少し変わっているのかもしれません。
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