46話 盤上のシンデレラ3
聖霊都市の軍部ではモザン教官と他の教官が話あっていた。
精鋭部隊は一つの小隊に一人の教官が付くことになっている。この部屋には6人の教官と精鋭部隊の位置情報を監視、記録する人員3人の9名が集まっていた。
半日が過ぎモザン教官は状況を記録係に聞いていた。
「それで、精鋭部隊はどうなっている? 特に異世界人がいるパーティーはどうだ」
「はい。位置情報から順調に魔獣を狩っていると思われます。小型から中型に大型、複数の種類と数を揃えて、恐らく明日には帰還するかと……」
「なるほど、実力もチームワークも問題なさそうだな。確か炎を使う……」
「ファイムですか?」
「そうだ。こいつらは期待できそうだな。」
「いいんですか? 自分の隊を応援しなくて」
「強ければどこでもいいさ、3ヵ月後の大規模な進軍で聖霊都市の勝敗を全て賭けるんだ。この戦いはキングを取らなけらば終わらない。」
「そうですね。ん? モザン教官……これを……」
記録係は少し不思議そうに位置情報を示した地図を指さした。
森の中央で3つの印の動きが止まっているようだった。
「どういうことだ?」
「いえ、特に問題は無いのですが、他の部隊はまだ魔獣を狩っているのですが、モザン教官の部隊は今日はもうやめているので……」
「俺は特に指示は出していないが、休んでいるだけだろう。3人では魔力消耗も倍ぐらい掛かるだろうし競争と言ってはいるが人数不利では無理だろう」
「そうですか……分かりました。」
記録係はこの3人編成の部隊の動きから恐らくリスを大量に狩って1日で帰ってくるのだろうと思っていた。
しかし精鋭でも3人だと2日はかかるのかもしれないと思い、納得し質問をやめていた。
その後、日が落ちた頃に2つの部隊が帰還していた。
残りの4つの部隊はまだ森の中にいる。そのうちの一つ、ファイムの部隊は一定の距離を保ちながらまだ狩りを続けていた。
残りの二つの部隊は動きを完全に止めている。
もう一つは完全にバラバラになって、動いてる人と止まっている人がいる状況だった。
「精鋭と言ってもやはり差はでるな。この二つの部隊は減点値を上回った為、解散だ。あとは任せる」
「分かりました!」
モザン教官は記録係に指示を出し退出した。
解散を命令された教官は少しため息をつきながら命令に従った。
残る部隊は4部隊。解散を命じられた部隊は何がダメだったのか、何が評価の対象なのか一切の情報は与えられない。
その後、元の管轄に戻るだけだった。
モザン教官は帰宅する前に医療室に寄っていた。
たまに左手の義手を調整するために尋ねているのだ。
医療室でミホは義手を調整しながら、モザン教官と話していた。
「それで、2つの部隊がもう解散したのね。」
「あぁ、精鋭部隊と言っても個として評価された奴の集まりに過ぎない。プライドの高い奴、実力や家柄、そして新兵も必ずいる。」
「短期間でチームとしての団結力を見せる難しさね……」
「だが期待は出来そうだ、あと4部隊いる。」
「オルトはどうなの?」
ミホは少し気になっていた。オルトには軍で訓練兵として教育を受けて、その後に適性のある部隊に配属されるとだけ説明していた。
実際の所は精鋭部隊の試験の人員として選ばれた為、通常の訓練とはまるで違う状況になっている。
「あの新兵か、同期が訓練兵だけなら間違いなくトップだっただろうな。新人が魔法騎士3体を倒せる実力は異常だ」
「精鋭部隊では飛びぬけてはいないって事ね」
「随分と買っているんだな、知り合いか?」
モザン教官の質問にミホは義手を渡しながら答える。
「昔の患者みたいなものね……はい、義手の調整は終わったわ。」
「なるほど。ありがとう、助かった」
モザン教官は義手の感触を確かめ、ミホにお礼を言って家路ついた。
魔界の森では、既に日が落ちて気づけば辺りは暗闇が支配していた。
オルト達3人は、2つの部隊が既に解散してる事や、オルトが精鋭部隊の選定に巻き込まれている事も知らずに、城を目視できる場所にいた。
俺たちは結晶に魔力を込めるのをやめ、光を完全に消した。
「城の前にはドラゴンが5体か、裏は?」
「2体ね、監視はどうなの?」
「僕が見てきた場所は無警戒だった。ドラゴンに任せているんだろうね。結界魔法を配置しそうな場所にも、特にそれらしい物は見当たらなかった」
3人はそれぞれ考えをまとめ意見を出し合った。
目的はドラゴン1匹を殺す事だ。単純だが、他のドラゴンが騒ぎ出し城内にいる魔族に見つかれば逃げ切る事は不可能だろう。
数分話あった結果スパードの意見を採用する事となった。
「それじゃあ、フィオナ、オルト、あとは作戦通りに……」
「分かったわ。」
「ああ」
作戦は意外にも順調に進んだ。まずスパードが認識阻害の魔法をかけて、裏の外壁に繋がれたドラゴンの鎖を外す。
そして、俺がリスの死骸を餌にしてドラゴンを森に誘導する。そこに、待ち伏せしていたフィオナがドラゴンの不意を突き仕留める事になっている。
「ほ~ら、いい子だ。そのまま真っすぐにな。ホイッ」
「バグッ!」
ドラゴンは歩きながら投げられた餌を器用に食べていた。
城から離れた森の中、ついに目的の場所にたどり着いた。
草の茂みから重装備のフィオナがレイピアを抜きながら飛び出す。
「はああああ!」
「グッツオオン!」
フィオナのレイピアはドラゴンの心臓を一直線に貫く。しかし、浅かった。
ドラゴンの硬い鱗が威力を弱めていた。
フィオナは急いでレイピアを引き抜こうとするが抜けずに手間取っていると、ドラゴンはフィオナを振り払うように吹き飛ばした。
「キャッ!」
「フィオナ!」
木々を折りながら30メートルは吹き飛ばされただろうか。俺はフィオナの元に駆け寄った。
「おい、フィオナ! 大丈夫か?」
「うっ、なんとかね……」
意識はあるが、見たところ片腕が骨折し額から血が流れている。全身打撲で今は、立ち上がる事も出来ないだろう。
レイピアは折れ、重装備だった鎧もかなり砕けている。
ドラゴンの一撃の凄まじさを俺は初めて知った。
俺がフィオナの安否を確認している間に、失敗をカバーするようにスパードがドラゴンと対峙している。
「今は、スパードがドラゴンの気をそらしてくれている。俺も向かわないとまずい。今は回復していてくれ」
「クッ……あ、ありがとう……」
フィオナはあばらを抑えながら痛みを耐えていた。
とにかく作戦は失敗した。今はスパードの援護をしなければまずい。
俺はフィオナを地面に寝かせ、ドラゴンの元に近づいた。
「チッ! 奴の鱗は硬すぎる。僕の雷撃の魔法が全然効いていない!」
「スパード! 俺が引き寄せる。2層魔法を叩き込めないか?」
「かなり消耗して1発が限界だ。それにあれは普通のドラゴンじゃない!」
俺たちは互いにドラゴンの周りを円を描くように回り隙を探しながら話す。
そんな、ちょこまかとした動きにドラゴンはシビレを切らし、口から炎を吐き俺たちを狙いだした。
「普通じゃなくてもやるしかないだろ! このままじゃジリ貧だ。そうだ、フィオナが刺した場所に雷撃を打ち込めば弾かれないんじゃないか?」
「さっきからやっているが、ドラゴンも馬鹿じゃない、腕で防がれる!」
「分かった、なら奴の死角に剣を差し込めばいけるか?」
「それなら何とかなる。しかし、奴の死角は背中だぞ! 飛ばれたら……」
俺たちがドラゴンの炎を木を盾にしながら避けている事に腹をたてたのか、ドラゴンは空に飛んだ。
恐らく空から森ごと焼き尽くす気だろう。
「これはまずい! オルト逃げるしかないぞ!」
「いいから黙って2層魔法を展開しろ。俺が奴の背中にコイツを差し込んでくる」
俺は重い甲冑を脱ぎ去り剣と、先端にフックが掛かっているロープを持って下半身に魔力を集中させていた。
「おいおい! せいぜい飛べて20メートルだ。もう遅いは……ず……」
スパードが言い終わる前に、俺は深くしゃがみ地面を蹴り、空に飛んだ。
ドラゴンは既にかなり高く飛んで炎を吐く準備をしていた。
「まずい、飛び過ぎた!」
俺はドラゴンと空中ですれ違う所で、首元の金具にフックを引っかけていた。
飛び過ぎた体勢を制御するため、ロープを引っ張り、なんとか背中を目掛けて剣を突き刺す。
「スパード! 今だ!」
「ギャオオォン」
ドラゴンは俺の不意打ち気味の攻撃に悲鳴を上げながら、バランスを崩し空中で暴れた。
俺は素早くドラゴンから離れ空中に飛ぶ。
「ライニングローード!」
瞬間、目の前が真っ白に光った。地面からドラゴン目掛けて一直線に雷の二層魔法が放たれたのだ。
スパードのタイミングは完璧で威力も凄まじかった。
俺は光で視界を一時的に奪われた為、体勢を変えられずそのまま地面に叩きつけられた。
「……チッ、眩しすぎるだろ」
俺は地面に着く前に魔装し、衝撃を防いでいた。
その後少し遅れて木々を揺らすほどの衝撃波が伝わってくる。
どうやらドラゴンを仕留めたのだろう。
俺は魔装を解きドラゴンが落下したと思われる方向へ向かった。
森の中央で、プスプスと鼻を突き刺すほどの焦げ臭い匂いが漂っていた。
「オルトか、無事なようだな……」
「ああ……って、少しは加減しろ、これじゃあ食えないだろ」
「フッ……美味く無いだろう」
スパードは少し笑いながら俺を横目にみた。
俺たちの目の前には、黒焦げになったドラゴンの死骸が転がっていた。
俺が刺した剣が避雷針となり、スパードの2層魔法で内側から焼かれたのだろう。
黒焦げの死骸の前で俺はスパードに聞いた。
「フィオナは?」
「僕たちの魔法結晶を取りに行ってもらってる。近いからもう来るハズだ。」
するとすぐに草木を分ける音がし、フィオナが現れた。
「フィオナか、もう大丈夫なのか?」
「ええ、一応治癒魔法は使えるの。それよりも早く移動しないと……」
俺たち3人はフィオナから位置情報が分かる魔法結晶を受け取りそのまま森を抜ける事にした。
本来は体を休め、日が昇ってから移動することが望ましいがそうは言っていられない理由があった。
「つまり、あのドラゴンは魔人の、下手したら幹部の物だったかもしれないってことか?」
「僕の予想だとね。普通のドラゴン以上の力に、硬い鱗、それに魔法も弾く。魔人の指示が無くてもよく動き、戦い慣れているように見えた」
「でも、今から移動する理由は何だ? 随分と城から離れているし、仮にあの二層魔法の閃光を見られていても、簡単に俺たちの場所を特定するのは難しいだろ。」
「普通のドラゴンならね、ただ、もしあのドラゴンが魔人幹部の物なら服従者の刻印により場所がバレているはず。」
スパードとフィオナの説明を聞きながら俺は歩いていた。
ドラゴンが死に、繋がりが絶たれた事で魔族は異常事態を察知している。つまり、近くに来ている可能性が高いと二人は読んでいるようだ。
刻印自体を誰も見てはいないが、それが魔族しか見えない物や、舌や手足の裏だった場合もあるかもしれない。
俺は二人の警戒した行動に素直に従っていた。
もしこの状況で敵に襲われた場合、スパードは魔力がほぼ底を尽きているし、フィオナは治療魔法で魔力を相当消耗し武器も無い。
俺は武器は無いが、剣を創造すれば戦える。しかし、魔人と戦った事はないし、複数人で来た場合勝ち目はないだろう。
今すべき行動は一刻も早く聖霊都市に戻る事だった。
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