45話 盤上のシンデレラ2


俺たち3人はこれから3ヵ月は同じ生活をする事になっている。

同じ部屋に同じ飯、空間と時間を共にする事で仲間意識を高める事が軍の目的なのだろう。

そんな訳で俺たちは、仲間同士仲良くやろうと数分前までは思っていた。


「それで、何でこの僕が中層の女と下層のバカに気を遣わなければならない。」


「私だっていくら軍でも男と同室なんて最悪なわけ、譲歩したらどうなの?」


「ふざけるな。ボンボンのバカどもが。こういうのは強い奴が選ぶべきだ!」


さっきから俺たち3人は、これから使うベットの取り合いをしていた。

正直俺はどこで寝るのも構わないのだが、こいつらの上からの発言にイラついている。そんな訳で、互いに仲間の為に思いやる気持ちなんて1ミリも無いのだ。

くだらない言い争いに飽きたのか、スパードが一歩引いてきた。


「あー、もう面倒だ。せめて僕は上じゃなきゃ貴族としてのプライドが許せない。そっちの新しいベットは譲る、だから上は僕が貰う」


「おい、ふざけるな。俺の第2候補は上だ。あっ、俺の荷物!」


スパードは素早く2段ベットの上に荷物を載せた。それと同時にフィオナが俺の荷物を投げるように下の古いベットに移動させた。


「話は決まったでしょ。私が新しいベットの下でスパードが古い方の上で、オルトがその下。問題ないでしょ?」


部屋には2段ベットが二つあり一つが新しくもう一つが古い。俺たち3人は新し方の下を取り合っていたが、スパードが折れて均衡状態が崩れた。


「何でぼろい方の下なんだよ。せめて新しい方の上で寝かせろ!」


「さっき上は上るのが面倒だから下がいいって言ってたじゃない? それにあなたがこういうのは強い奴から決めるべきって言った訳だし」


「それは……言葉のアヤトリって奴だ。」


俺は今更だが、こいつらの中で下だと決めつけられている事に気づいた。

模擬戦での動きだけで判断しやがって、こいつらボンボンは何も分かってないな。

どうせ上層で毎日高い飯食って威張ってるだけだろ。


「オルト、うるさいぞ。女性に譲る優しさも無いのか?」


「お前は、ぼろい方の上でいいのか?」


「上はどっちも変わらない。朝日が入りやすいからこっちにしたまでだ」


「あー、もう。これで勝ったと思うなよ……」


俺はこれ以上言い争うのも面倒になり諦めた。

その後俺は軍のシャワーを浴び、食堂で飯を食べ部屋で眠った。

他の二人もそんな感じだ。特に馴れ合って会話する気にもならなかった。

夜が明け、日が昇る少し前だ。軍の朝は早い。大体6時ぐらいに叩き起こされる。

昔テレビで見た自衛官の一日とかが、似たような感じだろう。

全く異世界も同じ様なシステムで本当に呆れる。軍のシステムも過去に召喚された奴の知識を元に作られてるとか聞いたし。

俺は目を擦り、不満げに外で整列していた。


「時間通り、3人揃ったな。今日は3人で魔獣狩りをしてもらう。」


「魔獣? 新兵の訓練をまたやるのですか?」


「そうだ。だが簡単じゃない。魔獣100体の討伐だ」


「100体……数は多いけど時間をかければ出来そうね。」


魔獣か、魔界に生息する狂暴な動物だ。知能は高くないが、通常の兵士3人が1体倒すのに必要な戦力と言われているレベルだ。

3人で100体なら3日ぐらいで終わるだろうな。


「ただし、これは競争だ。他の精鋭部隊5つと争って貰う。お前たちを入れて1位から6位を決める」


「これを持て、お前たちの位置情報を知らせる魔法結晶だ。緊急時は魔力を込めれば俺たちが向かう。」


魔法結晶を受け取り、モザン教官の説明を俺たちは黙って聞いていた。

9時から聖霊都市正門を出て魔界に向かう。討伐できる場所は魔人幹部がいない城から離れた場所だ。

魔獣の100体討伐も小型のリスなどは点数が低く設定されているらしい。

この競争は早さと総ポイント数を評価される。

出来るだけ大型の魔物はポイントが高いらしい。

具体的な採点方法は教えられないらしいが、俺たち精鋭部隊の実力を測りたいらしい。

話が終わり、俺たち3人は準備をしてから聖霊都市を出て魔界の森を歩いていた。

他の精鋭部隊も途中で見かけたが、考えがあるのか皆バラバラの方向へ動いている。

同じ場所で獲物を取り合いたくないというのもあるだろう。

しばらく進みスパードが足を止めた。


「この辺でいいだろう。フィオナ、オルト集まってくれ」


「あ? なんだ」


「そうね、この辺りが私もいいと思うわ」


スパードに言われ、3人は川辺に集まった。


「ここを拠点にしようと思う。魔界の中央で水の確保も出来ている。一人33体を討伐してここに集まる。とても効率的だろう。」


「そうね、悪くないわ。でも3人で行動して大きな魔獣を効率的に狩った方ポイントが高くなると思うの」


二人はこの競争の評価について議論していた。

俺は正直興味はない。適当にリス100匹狩ってさっさと帰りたい。

そんな俺の横でスパードとフィオナはずっと話している。


「問題の本質はこの競争が速さを重視してるのか、ポイントを重視してるのかが分からない事だ。つまり人数で劣ってる以上速さを取るべきだと僕は思うんだ。」


「確かに5人部隊と比べればそうね。でも他の部隊もどっちかに集中してる事もあるかもしれないわ、そうしたら私達は勝てない」


「人数の不利はしょうがない。でも実力なら……」


「聖霊都市を抜ける時に新しく召喚されたファイムとか言う奴を見たわ。私達の実力があっても、人数不利分をカバーできない可能性の方が高いと思うわ」


やる気がなさそうに地面に転がり休む俺を二人は揃って見つめてきた。


「あ? なんだ二人して俺を見て。アイデアが欲しいのか?それなら」


「いい、どうせリス100匹狩って帰るつもりだろ」


「よくわかったな。正解だ」


「はあ……」


二人は俺のアイデアに納得できない、というよりも考えが単純過ぎて呆れているようだった。

俺の考えももちろん単純だが、二人も単純過ぎる。

俺が思うにこの試験の本質はチームワークを見ている可能性が高い。

モザン教官が渡したこの位置情報が分かる魔法結晶は正直おかしい。

100体討伐するのにわざわざ位置情報を見てどうする? 速さと質を見るなら不要な情報だ。もちろん安全の為というのは分かる。

しかし、新兵で構成されてるわけじゃない。実力は皆あるはずだ。それに緊急時に魔力を込めて応援を呼んだ所で、俺たちが負ける可能性のあるのは魔人だ。

つまり応援が来る前に死んでいる。よってこの魔法結晶の存在から導き出されるのはバラバラに各自が好き勝手に行動しないかどうかを見ている可能性が高いだろう。


「3人でリスを討伐するなら半日で終わるだろう。大型の牛や鳥の魔物を狩るなら3日はかかる。ドラゴンでも狩ればリス99匹でもおつりがくるだろうけど……」


「野生のドラゴンなんてほぼいないでしょ。ほとんどが魔人の眷属として城周辺にしかいないわ」


「なあ、少しいいか? ドラゴンって強いのか?」


俺はこの面倒な競争をさっさと終わらせるために聞いた。

俺の質問がおかしいのかスパードとフィオナは笑い出した。


「フフッ、あなた聖霊都市に住んでてドラゴンの恐ろしさを聞いた事ないの?」


「絵本でも出てくるし子供でも知ってるぞ。口からは灼熱の炎に固い鱗、空中からの攻撃。兵士3000人使ってやっと倒せるレベルの強さと言われている。」


「なるほどな、で、俺たちで倒せるのか?」


「……」


フィオナとスパードは少し黙ってから話し出した。


「戦場で戦う為に私は日々研鑽してきたわ。ドラゴンぐらい倒せないと魔人には勝てない。」


「愚問だ。僕がドラゴン程度に劣る訳がない。」


二人は強気だった。

俺は少し笑いながら口車に乗せる。


「それなら決まりだ。今からリス99匹狩ってドラゴンを討伐しに行くぞ。」


「つまり、ルールを破るってこと?」


「察しがいいなフィオナ、そういう事だ」


「下層民が考える低俗な考えだけど、面白そうだ。」


「決まりだな」


そうして俺たち3人は一定の範囲を保ち、協力しながらリスを徹底的に狩りだした。

その後、モザン教官から貰った位置情報を示す魔法結晶を地面に置いて城に向かった。

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