44話 盤上のシンデレラ

「いいか、魔族は強い。魔獣でさえ普通の人間じゃ相手にならない。魔人となれば桁外れの魔力量だ、更に魔族の幹部はその上を行く」


モザン教官は対魔族に関する事を俺たちに教えていた。

俺とフィオナとスパードの3人は椅子に腰かけ黙って講義を受ける。


「しかし、我々は聖霊都市の魔法の防壁による守りと魔法陣の発明による魔力量の不利を補った。そして更に召喚の書による異世界からの救世主までいる」


モザン教官は机を叩きながら更に続ける。


「形勢は逆転した。11あった城も残すところあと5つ。ここで王様は覚悟を決めた。聖霊都市内の優秀な人材も一気に攻撃に参加させる事に。」


「今ここに呼ばれてるお前たちもその一人だ。」


なるほど、精霊都市内で上層や王家の守りに割いている強い人員を一気に戦力として使い短期決戦に持ち込む気か。

となると、フィオナとスパードも上層の実力者か。

俺は、隣に座る二人をちらりと見た。


「フッ、当然。上層の僕の実力がやっと評価されるときが来たんだ。」


「そうね、城の一つや二つ簡単に落とすわ」


「でも俺たちは余り物だぞ」


俺は少し水を差すように教官が言っていた事を言った。

すると、スパードが少し声を荒げながら言い返してきた。


「違う。僕の実力が強すぎてバランスを取る為に配置されたんだ! そうに違いない!」


「おい、お前らまだ話は終わってないぞ。もちろん目的は城を落とす事だが、主戦力は勇者だ。それに11の城の幹部を倒せるのは勇者ぐらいだ。もちろん例外に強い奴もいたが……」


少し声を上げるスパードに言い聞かせるようにモザンは書類を見ながらいった。


「まあ退屈な座学はここまででいいだろう。お前たち3人は次に模擬戦をしてもらう。準備して外に出ろ」


「「はい!」」


「あ、はい」


二人はビシッと敬礼し俺も遅れて敬礼した。

一時的に解散して俺たち3人は準備室で装備をしていた。

フィオナとモザンは高そうな装備を見に付けながら俺に話しかけてきた。


「そのぼろい剣がお前の装備なのか?」


「ん? ああ、今朝武具屋で適当に買ってきた奴だ」


「防具はつけないの?」


「模擬戦だろ? これで十分だろ」


フィオナとモザンは少し驚いた顔をしてから笑い出した。


「ハハハッ、流石に冗談だろ。一発でも魔法を受けたら模擬戦でも死ぬぞ」


「忘れたんでしょ。準備室の貸し出しがあるわ。これを使ったら?」


「あー、まあいい、使う。ありがとう」


俺は一々自分の戦闘スタイルを言うのも面倒だし防具をつけた。

それに真面目にやるつもりは毛頭ない。軍で適当に働いて給料を貰う、今はこれで十分なんだ。

しかし、さっきのモザン教官の話だと面倒な部隊に配属されてしまった。

俺は後方部隊志望だとミホに言っていたはずだがどうなっているんだろう。

俺は少し遅れて外に出てから、教官の前に3人で並んだ。


「よし、3人揃ったな。それじゃあ模擬戦を始める。まずは準備体操にこの10体の魔法騎士と戦って貰う。強さは魔獣よりは強い。」


見た目は、魔力結晶をはめ込まれている銀色の甲冑をした騎士だ。武器は剣と盾をしている。

ユキ姉から少し聞いてはいたが、普通は訓練兵の卒業時に1体を5人で協力して倒す物だったはず。

書類上の訓練期間も3ヵ月だし、明らかに新兵の訓練とは思えないのだが……


「それでは、はじめ!」


俺は剣を抜いて構える前に開始の合図がかかった。


「はあ!」


「セイッ!」


フィオナとスパードは開始と同時に魔法で出来た騎士に切りかかる。

激しく斬撃をぶつけ魔法を放ち、あっという間に騎士は粉々になった。

俺は適当に防御しながらフィオナとスパードの様子を見ていた。

俺が1体倒す頃には二人は既に4体づつ倒し最後にスパードが5体目の首を撥ねた。

モザン教官はそれを見て手を叩きながら呟いた。


「うん、まあいいね。悪くない、特にスパードの雷撃魔法にフィオナのレイピア、オルトは……まあ1体倒せば十分強い」


「少し加減するべきだったかな」


「まあまあね」


スパードとフィオナはモザン教官に褒められて気分がよさそうだった。

こんな玩具を相手に準備体操ね……


「次は模擬戦だ。フィオナとスパード、これを」


モザン教官は小さな魔力結晶を二人に渡した。


「ルールは簡単だ。その魔法結晶が砕けた方が負けだ。その結晶は二人の防御壁となり防ぎきれなかった攻撃を受け、耐久値を超えたら砕ける仕組みだ。」


「俺は?」


何故か俺だけ渡されなかった為聞いてみた。


「オルト、お前はこっちだ。」


どうやら俺の対戦相手はさっきの魔法騎士2体だった。


「せめて3体がノルマだ。ヤバかったら助ける。」


「……了解」


面倒そうに剣を握る俺をよそに、フィオナとスパードは真剣に戦っていた。

俺はサボりながら2体に時間をかけて戦う。

モザン教官は二人の戦いを見ながらたまに俺の方に視線を向けていた。

俺は戦いながら少し考えていた。

このまま自分の実力を証明してこいつらと前線に送られるのは面倒だろう、かと言ってあまっりにも評価が低ければクビになる。

正直、異世界に来て命を賭けてまで魔族と戦うほど俺は勇敢じゃない。

それに俺たちは余り物と言っていたし、他の5人編成の部隊は精鋭揃いだろう。

異世界に召喚された強い奴がこの戦争を終わらせる日も近いだろうな。


「勝負あり、そこまでだ。」


「はあ……はあ……」


「クッ、接近戦は僕が不利だったか。」


勝負はフィオナの勝ちだった。スパードは準備体操で雷撃魔法を無駄打ちし過ぎたのが敗因だろうな。

魔力量が少なくなって、勝負を焦ったんだろう。

終盤はフィオナの冷静なレイピアの斬撃が奇麗に決まっていた。

俺も二人の戦いが終わる前に魔法騎士の首を軽く飛ばした。


「はい、集合。3人ともお疲れさん。とりあえずお前たちの実力は分かった。明日、戦術構成を話す。今日は解散だゆっくり休めよ」


「「はい! ありがとうございました。」」


俺たち3人は敬礼して解散する。

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