41話 師弟対決
時間の流れは早いもので、あと数ヵ月でオルトが来てから3年がたつ。
今日はいつものようにトレーニングをするわけではなく、1対1の本気の戦いをオルトとする。
もちろん最悪を想定してミホに待機して貰っている。
私は剣を軽く握った。
「オルト、今日は最後までやる。私を殺す気できな!」
「俺はいつも本気だけど、まあ全力で行くよ」
二人は剣先を軽くぶつけ、キンッと音が響く。私達の戦いが始まる合図だ。
始まった瞬間オルトとユキは魔力を乗せた重い斬撃を全力でぶつけ合う。
上段から下段、横に一線と基本的で単調だが、速さが凄まじい。
地面を蹴る音と、剣と剣が激しくぶつかり合う音が響く。
「……っ……」
「………」
オルトとユキは命を懸けた殺し合いをしている。
互いに魔装はしない、移動と武器に魔力を込める、技に特化したユキ流で戦う。
互いに憎しみも無ければ得られる物も無い。ただ、師匠と弟子の研鑽の日々を送った集大成をぶつけ合っているのだ。
「はあ!」
「ふんっ……」
オルトとユキの打ち合いでオルトがユキに負ける事はほとんどなくなった。
魔力の込め方、バランスの取り方それらを剣にしっかりと伝えられればシンプルな剣の速さと斬撃の重さのぶつかり合いである。
ユキはオルトが自分よりも魔力量が多く、長期戦になれば不利だという事を知っている。
しかし、魔力量の差が勝敗を決める決定的な要素ではない。ユキはいつも細かい技を駆使してオルトに勝っていた。
しかし、オルトの成長速度も凄まじく、最近だと危うい勝負が多い。
ユキは少し笑いながら姿勢を低くし剣を下から横に振り、足を狙う。
オルトは飛ぶことはせずにしっかりと剣を流し上から剣を叩き込む。
日々の負けるパターンからオルトは学習しユキと同じ様な剣裁きをする。
「まるでユキが二人いるみたい。」
遠くで二人の真剣勝負を見ていたミホは呟いた。
ミホはここ数ヵ月、オルトが軍の医療室に来ない事を不思議に思っていた。
しかし、二人の戦いを見て気づいてしまったのだ。
オルトが少しユキに剣で押し勝っている事を。
「………」
「チッ……」
私は冷静だった。呼吸一つ乱してはいない。しかし、悔しい事に私はオルトに押されている。
全ての技、全ての策をオルトに叩き込むが打ちのめす事が出来ない。
互いの魔力量は徐々に減っていく。
本気の剣のぶつけ合いで、そろそろ武器の方にも限界が来ている。
私は斬撃の中、オルトに見せた事の無い方法を試す事にした。
「はあ!」
「なっ……」
回転する一瞬にオルトの視界から片腕を隠し魔装する。
そのまま回転した力を剣に乗せて叩き込む。
大きな魔力を乗せた一撃に見えるが、魔力は一切乗せない。
私は、受けに回ってるオルトの剣をそらせばそれでいい。
剣と剣がぶつかり、私の剣は折れるがオルトの剣は反対にそれる。
オルトの斬撃が私の体を少し撫でるように切り込むが致命傷ではない。
私は魔装した腕で顔面に一撃を叩き込む。
「んぐっ……」
ユキの近接攻撃を剣で捌くことは出来ない。
オルトはユキの打撃を瞬間的に後ろに飛ぶことで緩和する。
下がらなければ一撃で終わる力だ。私は更に一撃叩き込んで終わらせるべくオルトに向かう。
「りゃあ!」
ユキの一撃がオルトの顔面にヒットしオルトは吹き飛んだ。
オルトは後ろに飛んで一撃を叩き込まれると分かっていた。
剣で受けても間に合わない程距離が近い。
出来る事は一つ。
魔装だ。
「はあ!」
吹っ飛ばされたオルトは反転しそのままユキに切りかかる。
「何ッ!」
私はオルトの斬撃を受ける剣も魔装する時間もない。
その瞬間戦いは終わった。
オルトの剣が私の魔装した腕を貫き胸に剣が触れるところで停止する。
「私の……負けだね……」
「やっぱユキ姉は強いな……」
オルトは地面から首元までを、氷の様な結晶で完全に固定されていた。
私は、使うつもりはなかった王家の紋章の力を初めてオルトに使ってしまった。
決着が付き私はオルトに放った魔法を解き、腕に刺さった剣を引き抜いた。
すると、ミホが私のもとに駆け寄り回復魔法を使い止血してくれる。
「ユキ動かないで!」
「ああ、すまない。」
傷口が少しずつ塞がり回復する。
オルトはそんな様子を見ながら呟いた。
「やっぱりユキ姉は強いよ、初めて見たよユキ姉の魔法……」
「見せるつもりはなかったんだけど、私も本気だったから……」
私は完全に敗北を認めていた。剣の技術、戦闘時の判断。全て私を上回っていったことを。
悔しさよりも、嬉しさが大きい。私が打撃を1撃叩き込む時に顔に魔装する事を考えていたのだろう。
私の魔力残量と狙う場所を予想していなければ間に合わない。
「こういう時はなんて言うんだろう? 免許皆伝? 」
「さあ? 俺は勝った期はしないけど……その魔法に包まれた瞬間、魔力が一切動かせないというか使えなくなったし」
「私も誰にも見せるつもりは無かったからね。ちょうどいい家で話そう」
私達は家に入った。
話し合う前にミホとオルトが紅茶を用意してくれた。
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