34話 記憶の道筋
聖霊都市の中層を俺は歩いていた。
行きかう人々は忙しそうに働いている。
俺は記憶は無いが、偽の記憶が補完するようにこの聖霊都市という町を知っている。
どうやら今は魔王が勇者によって殺された後で、とても平和らしい。
本当かどうか分からないが、今は真実を求めただ歩く。
「ここは……酒場か……」
体の赴くままにしばらく歩くと、噴水広場の近くで酒場を見つけた。
昼間だというのに酒場は営業をしている。俺はポケットに金がある事を思い出した。
そういえば騎士団としての活動費として貰っていたな。
丁度のどが渇いた所だし寄って行こう。
込み合う酒場の中で、俺は隙間を縫うように進みカウンターに座った。
「いらっしゃい……ってオルトじゃない! 生きていたのね?」
「ん? ああ何とかな……」
誰だコイツは、見た目は筋肉が凄いスキンヘッドの男だが、ピアスに、つけまつげと……それに口紅が濃いな。
多分、酒場のマスターだろう、女ぽい口調だが男だろうし……
俺はオカマの店が好きだったのか? 少し自分に幻滅しつつマスターの話を聞いた。
「もう! 1週間も顔を見せないなんて、アタシの事忘れちゃったのかと思ったわ~」
「あぁ、仕事が少し立て込んでてな。」
マスターは俺と話しながら、木でできたジョッキにビールを並々と注ぎ俺の前に置いてくれる。
俺はお礼を言いつつ半分ほど飲んだ。
「仕事ってオルト、あなた傭兵って言ってたけどほぼ無職でしょ~。新しい職場でも見つかったの?」
「ああ、今は教会の騎士団で働くことになった。」
「えぇ、あんなに教会を嫌っていたのに? 珍しい事もあるのね~ 何、ついに頭がおかしくなったのかしら?」
酒場のマスターは驚きつつ言ってきた。
どうやら俺は教会を嫌っていたらしい。とにかく今は俺の家に帰る為の情報がいる。
適当に冗談を言って疑われないように情報を引き出したい。
俺は真実と嘘を混ぜて話した。
「教会で監禁されて、実は記憶が曖昧なんだ。帰る家の場所も分からずに1週間彷徨っているんだ。俺の家がどこか教えてくれ」
「アハハハッ、やっぱりオルトね。記憶を無くして帰る家を忘れていたのね~。相変わらず意味の分からない冗談が好きね~」
「ああ、確か上層の城辺りが俺の家だったような気がするが、さっき門番に追い払われたんだ。」
「それはそうよ、だってあなたの家は下層のボロ屋じゃない。方向が真逆よ~ふふふっ」
俺の話をいつもの冗談と思っているマスターは笑っていた。
しかし、俺みたいな上層が似合いそうな人間がまさか下層に住んでるとは、ちょっとショックだ。
とにかく得られた情報は大きい。
こんなカマ野郎とこれ以上話していても、頭がおかしくなるだろうし早く外に出るか。
俺は残りのビールを飲みほしてから金をテーブルに置いた。
「あら、もう行っちゃうの? せっかく締りのいい肉が仕入れられたのに……」
「すまない。ちょっと急用があったのを思い出した! また今度な!」
「もう、次はフィオナちゃんも連れてきてよ~」
急ぐ俺の背中にマスターの声が聞こえたが、俺は振り向くこと無くそのまま店の外へでた。
俺は、中層の石畳で出来た道を歩く。しかし少し中層を歩くように遠回りをする。
さっきから付けられている。
酒場を入る前から既に視線を感じていたが、恐らくノインだろう。
神父から俺を監視するように言われているのか……
まあ、このまま下層に行ったら怪しまれるだろうし。
街を散策する様にして下層に行くしかないな。
「あ、オルトだ……。おーい、ねえ……オルトってば!!!」
人ごみの中から声が聞こえるが、とにかく今はノインを一時的に巻きたい。
そう思っていたが、誰かに手を掴まれた。
振り向くとそこには、軍の騎士団の服を着た奇麗な顔立ちをした女の子が立っていた。
「もう、待ってってば!」
「すまない、人違いだろう。俺にこんな美人の知り合いはいない。」
「えっ/// オルト? ちょっと急に何を言って……1週間あってなかったからって……」
「美人は歓迎だが。悪いな、今急いでるんだ。今度デートしよう!」
「えっ! あ、待ちなさいって!」
女の子はあたふたとし、顔を赤くしていた。
俺の知り合いかただの人違いか分からないが、記憶を探る時間はない。
人ごみに隠れるように俺は女の子を置いて進む。
どこかの店の裏口から外に出れれば、多分巻けるだろう。
気配がバレバレな事から、ノインは尾行の能力に長けてはいないだろうし。
俺は人ごみを抜けて、宝石店に入った。
「いらっしゃいませ。」
「すまない、裏口を借りる。追われているんだ。」
俺は少し金を置いて、裏口にそのまま進む。
店員は察したのか裏口を教えてくれた。
「ええ、分かりました。あちらです」
「すまない、助かる」
俺はそのまま裏口から外にでて、人ごみにまぎれながら下層を目指した。
俺とすれ違うように、一人の女騎士が店に入っていった。
店員は何食わぬ顔で対応する。
「いらっしゃいませ。」
「あの、さっき一人の男がこの店に入って行くのを見たのですが……いない?ですね……」
「はい……気のせいでは?」
「見失った! 久しぶりに見つけたのに!」
店の中を見渡すが、追っていた男の姿は見当たらなかった。
直ぐに宝石店を出て、女騎士は走り出していった。
女騎士とすれ違うように、ノインは店の外でオルトが出てくるのを待っていた。
「はぁ、何で私が尾行なんてしなくちゃ行けないのよ。あの神父、私の魔法信用してないのかしら……」
ノインは愚痴をポツリと呟きながら、既にオルトがいない宝石店の前で張り込んで待っていた。
太陽が少しづつ傾き、夕方になっていた。
俺は下層に足を踏み入れていた。中層の石畳の街並みとは違い、整備されていない凸凹な道を進む。
崩れかけた家に、テントなど貧困な人たちが目立つ地域だ。
「恐らくここが下層だろうな。」
辺りから不穏な気配を感じる、少しでも隙を見せてはいけないと本能が俺に訴えかける。
俺はジメジメした空気を懐かしく思いながら、足が導く方向に進んでいる。
「なるほどな、記憶が無くても体が覚えているか……」
あの角を曲がって突き当りだ。
俺は角を曲がり真っすぐ進んだところに、ぼろい木で出来た家が建っていた。
違和感は全くない、俺が扉に手をかけるとすんなりと開いた。
「これか、間違いないだろう……」
部屋に入り回りを見渡すと気になる1冊の本を見つけた。
俺は本に手をかけた瞬間に本が光り出し2層の魔法陣が展開された。
「ハッハハハ。随分と昔の記憶までも……やはり俺は、アヤトを倒さなければ。しかし神父を先に……」
頭の内側からハンマーで殴られるようなズキズキとした痛みが響く。
脳内にみるみる内に今まで生きてきた記憶が蘇っていた。
俺は立っているのが辛くなりベットで横になり目を閉じた。
「少し眠るか。」
俺は倒れるように眠った。
脳は情報過多になり記憶を再度焼き付ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます