31話 この世界の主人公


風が強くなり、雲が太陽を少しづつ隠しだす。

オルトとアヤトは、激しい戦いをずっと繰り返している。

互いの斬撃は、メフィーが去ってからも止むことは無かった。

俺は最速でオルトを倒す為に、魔力の消費は考えずに連撃を叩き込む。

オルトは攻撃を受けつつも話す事をやめない。


「いいよな、この世界は。まるでゲームみたいだ! マサ兄ちゃんの家でよくやったよな! そうだろアヤト!!!」


「さっきから、誰の話をしていやがる!」


(アヤト! あいつ只者じゃないよ! さっきから私たちの攻撃と同じ力をぶつけて相殺してる!)


(分かっている!)


戦闘中、スーテッドが俺に話掛ける。

俺も同じ事を考えていた。剣の技量では奴の方が少し上かもしれない。

それに、奴は時間稼ぎをすればいいと考えているのだろうし、中々隙が出ない。

俺とオルトの斬撃速度は互角だった。

オルトが防御に徹すればいい分、こっちは攻め手にかけていた。しかし攻めすぎて隙を与えれば、付け込まれ一瞬で勝負がついてしまう。

そんな一瞬たりとも気が抜けないという時、精霊都市の方向で爆発が起きる。


「ほら、よそ見はするなよ!」


「チッ……」



オルトは俺の隙を見逃さなかった。一瞬、脳裏にメフィーとメアの安否が気になってしまった。

俺の肩にオルトの剣がかすめた。俺は瞬時に弾きつつ後退する。

しかし、オルトは足を止め追撃はしてこなかった。


「浅井昌義……隣の家に住んでいた。凄く優しい兄ちゃん。よく家にあるゲームをやらせてもらったよな。」


「だから、知らないし。そんな記憶はない……」


「また逃げるのか。弟の言う事ぐらい聞いてやっても、バチは当たらないぜ?」


「弟? 俺は一人っ子だ! それにさっきから俺を知っているような口ぶりにゲームだの何か言っているが、お前まさか勇者か?」


「一人っ子か……。まあいい、俺はハズレの勇者だ……別に隠してはいないが。」


オルトはあっさりと勇者である事を認めていた。薄々感じてはいたが、俺の斬撃を対等に受けきれる魔力量に技量。勇者以外ありえないレベルだ。

しかし、勇者の癖に魔法を使ってくる訳じゃないのか。

俺に負けないという絶対的な自信か、それとも舐めているのか……

俺は再び剣を構える。もうこれ以上時間は無駄にできない。


「もう十分だ。お前を倒し俺はメアを助ける、それだけだ!!!」


「自分の記憶すら疑わない者に、言葉は不要か……」


俺は、地面に魔力を強く蹴り込み加速する。スーテッドを体の後ろに隠すように構え、低い姿勢のままオルトの剣を狙う。

オルトは少し不意打ち気味に剣を受けた。


「はあっ!」


「何ッ!!」


剣がぶつかる衝撃で、オルトの剣は空中に舞った。

俺は、がら空きになったオルトの正面に一撃を叩き込む!


「これでえええええええええええ」


「んぐっつ!」


正面から一刀両断するべく、斜めに心臓を狙い切り込む。

斬撃が肩から食い込む。

オルトは後退と同時に、一瞬で剣を創造し鎖骨を絶たれる前に受け流した。


「創造したか! しかし、魔力量ならこちらが上だ!」


「戯言を言ってんじゃねえ!」


両者は互いに引かず、再び激しく打ち合う。

力と力のぶつかり合い。瞬きする瞬間さえ命とりだった。

致命傷は互いに避けるが、軽い斬撃は受けてでも相手の致命傷を狙う。

オルトの体からは血が流れ、アヤトの体からは霧状に魔力が放出する。

オルトとアヤトの魔力量は次第に底をつきかけていた。


「アヤトォオオオオオオオオオオ!!!」


「オルトォオオオオオオオオオオ!!!」


二人の魔力の衝突は凄まじかった。

アヤトの剣はオルトの顔から腕を撫でるように傷をつけ、オルトの剣はアヤトの片腕を切り飛ばしていた。

二人の勝敗を決めるように、太陽は完全に雲に覆われていた。

魔力を乗せた力押しの勝負は、オルトの勝ちだった。


「この世界の主人公はアヤト、お前じゃない……この俺だ!!!」


「くそっ……俺は……」


スーテッドは霧状になりアヤトの体に戻る。

切断された腕からは、魔力が霧状に散りだす。

もうスーテッドを出す魔力量さえも残ってはいない。

このまま、魂を留めておくことが出来なければ俺は死ぬだろう。

この世界に召喚されて運よく勇者を倒せたあの日から、修行をして実力もついたはず。

しかし俺は今、地面に片膝をついている。

視界はぼやけ、立っている事さえも……もう出来そうにない。

俺は……メアを助けれずにこのまま死ぬのか……

それなら、全てを捨ててでも……

メアを助け……


「お前……まさか!」


「……」


俺はポケットに、お守りの様にしまっていた彫刻を空中に投げた。

空中で回転するチェスの駒。コイツが地面に落ちて、割れたら全てが終わる。

この世界に来て本当に短かったが、ありきたりな日常を忘れられた日々。

最高だったぜ……

だけど、たった一人の女の子を助けられずに消えるのは……俺には出来ない。


「馬鹿野郎!!!」


「………」


時間がまるで止まったかのように、彫刻は地面に着く瞬間……凍り付いた。

ギリギリの所で彫刻は発動しなかった。

既にアヤトは倒れ、気絶していた。片腕からは魔力が放出し徐々に命が消えかかっている。


「こんな所でこの技を使うつもりはなかったが、アヤト……お前がここまで本気だったとは……」


オルトは左手から氷の様な魔法を発動させていた。

そして地面に落ちる前に凍らせた彫刻を回収し、アヤトの頭にそっと手を触れた。


「ゲームってのはゲームオーバーになれば、タイトルに戻る。アヤト、お前はこの世界の主人公じゃない。」


「………」


オルトはそう言って去って行った。

暗く重い雲で覆われた空から、雨がポツリ……ポツリ……と降り出す。

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