30話 アンリミテッド・リボルバー
ジョーカーとメアを乗せた馬車は、風を切る勢いで聖霊都市を目指し疾走する。
その後ろを追う影が一つ。白い髪をなびかせた、メイド姿の少女は加速し距離を縮める。
アヤト様、ありがとうございます。私が必ずメア様を助けます!
メフィーは誰よりもメアの事が心配だった。
「異常な速さだ、追いつかれる!」
ジョーカーの分身は馬車の後方からトランプの小剣を投げる。
左右に動くまでもなく、メフィーは黒い大鎌で瞬時に撃ち落とす。
メフィーの走る速度は落ちることなく加速し、ジョーカーの分身を捕らえていた。
「追いつきました! 消えなさいっ!」
ジョーカーは分身が、攻撃を受けきる事が不可能だと分かっていた。だからこそ、出来る動きに徹している。
メフィーの大鎌がジョーカーの首元を攫う瞬間、分身はメフィーの体を掴んだ。
「トランプ・フルカード!」
「なっ!」
ジョーカーの分身の首が宙に飛ぶと同時に、白い光がメフィーを照らす。
ドカンッツ! と物凄い爆発で、馬車の後ろ半分が消し飛んだ。
凄まじい衝撃で、馬車に乗っていたメアは外に吹き飛ばされた。
ジョーカーは受け身を取りつつ、爆風で舞った砂煙が晴れるのを待っていた。
「……やったか」
トランプの分身を使った自爆。爆発のタイミングは完璧だった。
ジョーカーは警戒をしつつも、手ごたえに勝利を確信していた。
地面に落ちた粉々になった大鎌が、魔力の霧になり消えていく。
「…………」
砂煙が徐々に晴れていく。
そこには全身の魔装がビリビリに破け、しゃがみ込むメフィーがいた。
正面から爆発を受けたせいでメイド服のエプロンとスカートの半分が消し飛んでいた。
はだけた胸元を隠すように、右手で魔力を展開し魔装を構築し直している。
「頑丈な魔装だね。半身吹き飛んで致命傷とまでも行かないか…」
「くっ……」
メフィーは、苦虫を噛みしめたような表情でジョーカーを睨む。
あの男侮れない……大岩の上で戦っていた時とは、違う気がします。
馬車後方に立っていたのが分身という事は把握していましたが、自爆とは……
爆発の威力から、馬車に何かを仕込んでいたのでしょう。
とにかく今は、回復よりも魔装と武器を優先に……
メフィーは、最低限の魔装をし一瞬で大鎌を創造する。
この戦闘で予想以上に魔力を消費したメフィーは、かなりピンチだった。
「まだ戦いますか、魔族の忠誠心とは恐ろしい…」
「はあ!」
ジョーカーはメフィーの攻撃をトランプの剣で弾き受け流す。互いに魔力量は底を付きかけているのを感じていた。
メフィーは大鎌を振り回しジョーカーの命を狙う。
左腕の反応は爆発の衝撃で鈍いですが……1対1ならギリギリ私が有利!
このまま押せば、行ける!
「これだから、魔族は! アンリミテッド・リボルバー!」
ジョーカーは覚悟を決めていた。後退しながら、メフィーに向かってトランプを投げて1層の魔法を発動させる。
メフィーがトランプを鎌で切るが、切られたカードが爆発し煙幕の魔法が発動した。
「目くらましのつもりですか!」
私はそのままジョーカーの気配を追うように煙幕を抜けた。
一瞬の隙にジョーカーは、腰に装備していた銀色のリボルバーを抜き自分の頭に打ち込んだ。
カチッ……
リボルバーから、空を打つような音が響く。
何か魔法を発動? それなら、その前に切るだけ!
「捕らえた!」
「トランプターン!」
ジョーカーの首元に鎌が触れる瞬間、メフィーは消えた。
「はあ、はあ……」
「こんなリスクしかないギャンブル、したくはなかったよ。窮鼠猫を噛むだったかな、オルトがそんな事を教えてくれたっけ……」
ジョーカーは転移魔法をギリギリで発動させていた。
アンリミテッドリボルバー、この銃は自分に打ち込むと、6分の1の確率で死ぬ。しかし確率を引かなければ魔力の全回復と6分間だけ3倍の魔力量になる。
こんなリスクを払ってまで、あえてメフィーを殺さない選択をしたのには理由があった。
あの爆発でメフィーの破けたメイド服の胸元から、一瞬だけ彫刻のネックレスの様なものが見えたのをジョーカーは見逃さなかった。
魔族というのは目的の為なら、命すら賭ける事をためらわない。奴が戦闘で不利になったら間違いなく彫刻を使うだろうと読んでいたのだ。
全身から溢れる魔力を纏いながらジョーカーはメアを担ぎ聖霊都市に向かった。
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