26話 マルファスの真実
日が少し傾き夕暮れが近づく。
城内の一室でアヤト、マルファス、メフィーの3人は紅茶を飲みながら落ち着いて話し合っていた。
「つまり、調査団は元々5人いたのか。」
「はい、実力的にはそれなりの強さでしたがオルトとジョーカー、二人は少し抜けて強いと感じました。」
3人で敵の情報を整理し、マルファスから城内で起きた話を聞いていた。
俺は二人が転移魔法で飛ぶ少し前しか知らないが、あの一瞬の判断をしたオルトを強敵と感じざるを得なかった。
どうやら二人は三人を囮に使って、城内の彫刻の奪還。そしてメアを攫う事を目的とし行動していたらしい。
「そういえば、彫刻ってなんだ?」
「そうでしたね、それも説明しましょう。メフィー殿、少しお願いしても……」
「分かりました。」
二人は席から立ち上がり、マルファスはメフィーに何かを頼んだ。メフィーは察したように大きな鎌の武器を創造する。
「はあ!」
メフィーはマルファスの体を一瞬で10回ほど切りつけるが、何も起こらない。
俺は不思議に思っていた。普通なら切られた箇所から魔力が霧状に散るはずだが、まるで幽霊を切ったようにすり抜けていた。
「ありがとうございますメフィー殿。そしてアヤト様、私の手のひらを少し見てください。」
マルファスは黒い剣を創造し、城壁の表面をなぞるように一線の傷をつける。
そして、もう一度手のひらを俺に見せてくれた。
「魔力が霧状に……そうか! これがマルファスの魔法か!」
「私の魔法ではないですが、これは彫刻の代償です。何かを手に入れるには何かを失わなければならない。私に付けられた枷、呪いそういったものでしょうか」
二人は席に座りマルファスが説明してくれた。
どうやら彫刻を使うと大きな力を手に入れられる代わりに、何かしらの呪いを受けたり体の一部を失ったりするらしい。
マルファスはこの城内で戦う限り無限の魔力を得るが、この城の外は洞窟までの距離しか移動できないらしい。
そして城とほぼ同化してるらしく、徹底的に破壊されればマルファスは死んでしまうらしい。
「リスクはそれぞれだが、莫大な力が手に入る彫刻か……もしかして、メアの部屋にあったチェスの駒の事か?」
「チェス? 正式な名称は私は知りませんが、皆そういった異物をアーティファクトと呼びます。」
マルファスは何もない空間を手で撫でるようにスライドする。すると空間が割け、メアの部屋が見えた。
「おお、凄いな。あ、あれだ!」
俺はマルファスの能力に感動しつつ、テーブルにあるチェスを指さした。
「なるほど、私たちが言う彫刻と一致しますね。チェスの駒というのですか、面白いですね。それはアヤト様のいた世界では有名なのですか?」
「俺のいた世界ではボードゲームの一つで、お互いに駒を交互に動かして取り合い王様を取ったら勝利みたいなシンプルなゲームなんだ。まさかそんな物が、この世界では特殊な力を与える物なんて思わなかったよ。」
「私たちの世界では、異国の物が突如アーティファクトとして力を持つ事があったりします。アヤト様の金色の剣もその一つと噂されていますが…」
「そうなのか、そういえばスーテッド。この剣については何も知らないな。マルファス何か知っているだろ?」
俺はメフィーの言葉でスーテッドの事を思い出した。
マルファスは少し考えながら答えた。
「正直に言いますと、私も詳しくはないのですよ。その金色の剣は私が魔王様に仕える前からこの城に存在します。」
「随分と古い剣なんだな」
「噂では過去の勇者の剣だとか、不死の者を殺せるなどと言われてましたが、結局は誰もその魔剣を扱えずに死んでしまいました。」
「なるほどそれで魔剣か、一応は俺も魔導書で呼び出されたわけだし、その可能性に掛けたのか。」
「そういう事ですね。完全に運試しですな。ほっほほ」
「酷い話だ。メアにも文句を言ってやる!」
マルファスとメアは俺の命でギャンブルをしていたらしい。少し許せないがスーテッドは間違いなく強いのは俺が知っているから、これ以上は何も言わなかった。
とりあえず話を戻そうと、俺は今後の行動予定について話し出した。
「とりあえずメアの救出を最優先に行動したいが、どうやって追いつけばいい?」
「それは私に考えがあります。この地図を見てください。」
俺はメフィーがテーブルに広げた地図を見つめた。
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