24話 マルファスの戦場
城内に侵入した男3人を待ち構えるようにマルファスは立っていた。
マルファスは数時間前にメフィストフェレスから連絡を受けていたが、アヤトはまだ目覚めてはいない。
この状況で戦闘になり、メアを守りながら戦っていては勝つ事は難しい事をマルファスは理解していた。
「せめてメア様を逃したかったのですが、この状況では城内が一番安全ですからね」
「そうね、アヤトが目覚めない以上やるしかないわ」
メアは魔力量が殆どなく戦力にはならないことは分かっていた。しかし部屋で隠れていた所で危険度は変わらない。
「おい、魔族。貴様らが勇者を殺したとされる者か?」
「私は殺してはいませんが、その仲間は殺しましたよ。」
「そうか、まあいい。やる事は変わるまい、行くぞ!」
男は魔力を込めた剣を上段に構え、マルファスめがけて切り込む。それと同時に両サイドに展開した仲間が一層の雷魔法を打ち込む。
「はー!」
「メア様、後ろに!」
避けることも撃ち落とす事も不可能な、息の合った同時攻撃だった。
マルファスは3人同時の攻撃に、正面からそのまま受ける。
「なにっ!?」
マルファスの体をすり抜けるように、斬撃と魔法が交差する。
すり抜けた魔法はそのまま城の壁にぶつかり傷をつけた。
驚いた隊長は後ろに後退するが、少し遅くそのまま肩に突きをくらう。
「まだですよ。」
マルファスはそのまま豪雨の様な斬撃を隊長に浴びせる。
隊長は突きのダメージで片腕の反応が鈍いが、かろうじで受けきっている。
「隊長! 避けてください!」
後ろから仲間が雷の魔法を展開しマルファスの背後めがけて打ち込む。
「邪魔くさいですね。」
「はぁ!」
マルファスは見抜いていた。一度体をすり抜けた魔法をもう一度打ち込むことを。
仲間の内、もう一人が姿を消していること、恐らく陽動して横から切り込むのだろうと。一度効かないと分かっていても、もう一度試したくなる心理を知っていた。
「終わりです。」
マルファスは、後ずさる隊長の首をめがけて一撃叩き込んだ。
隊長は絶命し、そして隠れて切りかかろうとしてきた敵も瞬殺した。
「私にその魔法は無意味ですよ。次は城内で戦わない事ですね。」
「まずい、引くぞ!」
最後の一人が、そう叫び城の壁に魔法を打ち込み穴をあける。
「ングッ……」
マルファスは痛みを感じながらも、もう一人の逃げ遅れた仲間の背中を後ろから突き刺す。
「全く……、逃げるなら出口からお願いしますよ」
「キャッ!」
突如、後ろに引いていたメアの悲鳴が聞こえマルファスは振り向いた。
そこに立っていたのはメアを抱えた一人の男だった。
マルファスは瞬時に近づこうとするが遅かった。
「どうやら囮程度にはなったようだね。それじゃ、お先に。トランプターン!」
その男は一瞬で転移魔法を発動させメアを攫った。
「やられました! (メフィー殿! メア様を攫われました。至急応援を)」
(分かりました。至急向かいます。城から北東の大岩の上ですね)
(頼みました。私は城内の敵がもう一人いるのでそちらと戦闘します。)
マルファスは魔力を込めメフィーと連絡を取ったあと、城内の敵を殺しに向かった。
「全く、この城は迷宮か?さっきから同じ場所をループしているな。城の壁に印をつけていたから間違いない……」
オルトは城内にあるはずの彫刻を探していた。
しかし、時間切れのようだった。目の前の執事の魔族が話しかけてきた。
「探し物は見つかりましたか?今ちょうど忙しくて、泥棒にかまけている時間はないのですよ。」
「幻術系の魔法でもないか。この城そのものが動いているといった方が正しいのか? まあいい、それよりも、ジョーカーは目的を果たしたらしいな」
「ジョーカー? あの男ですか。ええ、腹立たしい事に漁夫の利を得るように消えましたよ。」
「随分冷静だな。」
「そう見えますか……」
マルファスは創造した黒の剣を右手に握り歩きながら距離を縮める。
オルトは引くこと無く、魔力を込めた銀色の剣を抜いた。
「はぁ!」
「ふんっ!」
両者が走り距離を縮めた。その勢いを斬撃に乗せぶつかりあう。
10,20と激しく斬撃が互いの剣を弾く。
瞬き一つすることが許されない剣と剣のぶつかり合いにオルトの剣に亀裂がはいる。
「まずい!」
「はあ!」
マルファスの猛攻に、後ろに下がり剣で受けるがその衝撃で剣が砕けた。
オルトはそのまま体をひねり地面に転がるようにして斬撃を交わした。
「加減をしらないな! くそじじい!」
「行かせません!」
地面に魔力を全力で蹴り込み、オルトは城の窓から外へ逃げ出した。
あと少しの所でマルファスの剣は空を切り、城外へとオルトは去って行った。
「狙いは彫刻とメア様ですか。彫刻は守れましたが……」
マルファスはこれ以上オルトを追う事ができない理由があった。城の外の数百メートルまでは追えるがその先には行けないからだ。
「はぁ、はあ。死ぬところだった」
俺はマルファスとかいうジジイに殺されかけていた。
圧倒的な魔力量に剣の技術。あれは魔族の域を超えている。
「彫刻……まさかな」
洞窟で見た騎士と大差ないほどの力があるだろう。
俺は走りながらその可能性について考えていた。大岩では俺を待つようにジョーカーが戦っている。
「ジョーカー! 転移魔法を!」
「オルトか、コイツをなんとかしなきゃ、飛ぶに飛べないぞ!」
「貴様! メア様を開放しろ!」
メフィーはメイド服の魔装に、大きな鎌の武器で戦っていた。
ジョーカーは、メフィーの斬撃を受け流すようにトランプで出来た短剣で受け流す。
「こいつ、メイドの癖に中々……」
「はあ!」
「ジョーカー! 俺が相手をする。転移魔法の準備をしろ!」
オルトはジョーカーと変わるようにメフィーの斬撃を折れた剣で受ける。
「チッ! おい女いつまで寝てる!」
ジョーカーはイラつきメアを蹴り飛ばした。
メアは魔法のトランプで口を塞がれ手には魔法で出来た拘束具が付き身動きが取れないでいた。
「ンッ!」
「メア様!」
「おっと、よそ見は禁物だぜ!」
ジョーカーがメアに蹴りを入れた事でメフィーの気が一瞬それる。
オルトは折れた剣で首元を一直線に切った。
「………」
メフィーは武器ではじこうとするが間に合わなかった。
一瞬の油断が死を意識させる。
空中に武器が回転しながら舞って落ちる。
「どうやら間に合ったようだな。」
「アヤト……様?」
「あー、誰だか分からないがメアのメイドか?」
それは間一髪だった。オルトの剣がメフィーの首を捕らえる瞬間に、アヤトの金色の剣がそれを弾いていた。
「新手か……」
「ジョーカー!」
オルトの判断は早かった。剣をはじかれて、アヤトを認識した瞬間にジョーカーとメアの方向へとかけていた。
このオルトの行動にアヤトはシンプルに引いただけと勘違いをしていた。
時間にして3秒だろう、それだけあればジョーカーの転移魔法の範囲内にオルトが入り飛ぶ時間は十分だった。
「いかせるかよ! スーテッド!」
アヤトは金色の剣をジョーカーのトランプ目掛けて投げ込むが間に合わなかった。
3人が消える瞬間に涙目のメアが俺を見つめていた。
「くそっ! 逃げられた!」
アヤトは修行を終えて意識が回復した瞬間に、メアの位置が城から離れている事を察して全力で走ってきた。
しかしメアは攫われてしまった。せっかく修行したというのに一人の女の子を守れなかった俺は、悔しさのあまり地面を叩いていた。
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