20話 彫刻の代償9



パーティー当日の夜サーシャ姫は城内のパーティールームで多くの人が見守る中、挨拶をしていた。


「皆様、本日はわたくしのためにお集まりいただきありがとうございます。これからも第5王女として国の為に貢献できるよう日々頑張って参ります。」


サーシャは当たり障りのない挨拶をしてから個人個人に忙しく挨拶回りをしている。こういった挨拶は支持基盤を維持する為に、建前でも大切らしい。

ここぞとばかりに貴族の男たちはサーシャにダンスの誘いや、結婚の話などをしている。サーシャは嫌そうな顔一つせずにしっかりと対応していた。

俺は遠くから眺めるように見ていた。少しサーシャに話しかけようとも思ったが、自分の中の何かが足を止めさせる。

時間を潰すべく、適当に食事をしていると一人の男に話しかけられた。


「やあ、久しぶりだねジャレッド殿」


「ん?」


俺は急に話しかけられて、食べ物を飲み込みながら振り向いた。

すると、そこにはミルホンが立っていた。

流石に記憶力が悪い俺でも覚えている。勘違いから嫉妬して決闘を申し込まれ、返り討ちにした相手だ。


「こんな所で会うなんて奇遇だね。っとは変な話か……」


「お前まだサーシャの事を諦めてなかったのか?というか、このパーティーは上層の貴族しか参加できないはずだが……」


「まるで僕がストーカー見たいな言い方をするね。僕はもう貴族に戻ったし、今は結婚を前提に付き合っている人もいる」


「おお、それは良かったと言っていいのか分からないが、おめでとう」


「ありがとう、素直に君にお礼を言いたかったんだけど、なんか馬鹿らしくなってきたからやめるよ。隣いいかい?」


「ああ」


俺は一人で暇を持て余していたので、ミルホンの話相手になっていた。

ミルホンは俺に負けた後、中層で1から魔法を勉強し直したらしい、その時に女の子と運命的な出会いをしたらしい。その後、魔法の塾を立ち上げて塾が人気になり成功して貴族に戻ったらしい。

普通に優秀な人間はどこでも成功するのだろうか、俺は感心する様に話を聞いていた。


その後パーティーは夜9時で解散となった。

結局俺はサーシャと話す暇もなく、そのまま家に帰ろうと城の外へ出た。

しかし、ポケットに入れたままのネックレスに気づいた。


「あー、忘れていた。明日渡せば……」


そう思ったが俺にはサーシャの護衛としての明日はない。

それに、誕生日の品を無駄にするのは良くないと思いサーシャの部屋に置いていく事に決めた。

城内の一室、月明かりが差し込む窓際のテーブルに、俺はネックレスをそっと置いた。

俺はそのまま部屋を立ち去ろうと扉に近づく。

すると、俺の方に向かって扉がゆっくりと開いた。


「あっ」


俺は少し気まずそうにしながら、サーシャの顔を見た。

するとサーシャは複雑な表情をし俺に話しかけた。


「ねえ、なんでパーティーの時に、話掛けてくれなかったの? なんで先に帰っちゃうの?私急いで探したんだから!」


月明かりでハッキリとは見えなかったが少し目元が赤く、涙の後が残っているのが分かった。

サーシャの少し弱弱しくも悲しそうな声に、俺は言い訳をする。


「いや、すまない。忙しそうだったし、毎日あってるしさ……」


「わたし、ジャレッドと話したかったの、近くにいて欲しかったの。一緒に買ったドレスとか見て欲しかったし、それなのに……」


そう言ってサーシャは、急に泣き出してしまった。

ほんの30秒ぐらいの時間だった。俺の体は無意識に動き、サーシャの小さな肩を包み込むように抱きしめていた。

どうでもいい人間にならこんなことはしないだろう。

俺は少し怖かったのかもしれない。

もう二度と会う事もない、このまま教会の地下からアーティファクトを入手し魔界に帰ればそれまでの関係で終わっただろう。

しかし、俺はサーシャが好きになっていた。

感情を抑える事をやめた俺の口から、自然と言葉がでる。


「サーシャ、好きだ。」


「ひぐっ、……えっ?」


サーシャは涙を拭いながら、俺の口から初めて出た言葉に驚いていた。

俺は勢い任せの本心を勝手にぶつけて、大切な事を言うのを忘れていた。


「いや、それよりも先に言わなければいけない事があった。俺は魔族だ。今まで黙っていたが、精霊都市で情報収集をしていた。つまりお前たちが恐れる敵でもあるな……」


サーシャは無言のまま頷き、話し出した。


「そんなことは、どうでもいいの。ねえ、もう一度言って……」


「え?」


「わたしのこと、好きだって……」


「いや、だから俺は魔族で……わかった。」


俺が魔族だという事はどうでもいいらしい。俺の事を真っすぐと一直線に見る瞳が全てを語っていた。

俺は呼吸を整え今度は目を見てしっかりと言った。


「サーシャ、好きだ。」


俺が言い切ると同時にサーシャの唇がぶつかった。目を閉じてサーシャの柔らかい唇の感触を確かめた。


「私も好き、初めて会った時から、私を助けてくれた日からずっと好き」


「随分と長いな、半年もか……」


「ジャレッドが振り向くのが遅いの! それに、これからもずっと好きなんだから!」


そう言ってまたサーシャと俺はキスをする。まるでこうなる運命だったように、自然とキスをした。

その後ネックレスを直接首にかけてあげた後は言うまでもないだろう。

俺は任務に忠実だが、初めて全てを放り出してしまった。






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