19話 彫刻の代償8



最近、精霊都市全体がとても騒がしい。調べた情報によると教会が魔族と対等以上に戦えるアーティファクトという物を手に入れたらしい。

そのアーティファクトは異世界から人間を召喚する事が出来る魔導書と、何かを犠牲に莫大な力を手に入れる事が出来る彫刻と言われる物らしい。


「なるほど、東側の教会地下か」


「警備の交代時間で一番手薄なのは深夜の12時から朝6時までですね。その間は一人しかいません。」


俺は小さな鳥に形を変えている魔族と話していた。

コイツは俺の相棒であり、精霊都市に一緒に侵入して情報を集めていた仲間だ。

本来、聖霊都市の結界により魔族は入る事が出来ないが、俺やコイツの様に体の形を変える事に長けていれば侵入できる。


「分かった。ありがとう、しかし地下の警備が手薄なのは不思議だな。そんな戦況を大きく左右する物を教会の地下室になんて」


「多分、教会側は軍にアーティファクトを渡したくはないのでしょう。くだらない勢力争いでは?」


「なるほどな、まぁいい。情報収集の仕事はそれで終わりだ。あとは魔界に帰るだけだ。」


「私が出来る事はここまでです、先に帰ります。ご武運を……」


「あぁ」


そう言って鳥の姿の魔族は飛び立っていった。

部屋の窓際からベットに移動して俺は寝ころんだ。時刻は昼だった。

この時間はとても気持ちの良い風が窓から入ってくる。俺は少し眠気に襲われそうになったが、それを一瞬で吹き飛ばすように騒がしい姫が来る。


「ジャレッド、いるんでしょ? ほらいた!」


「なんだ?人が気持ちよく昼寝しようと思っている時に。入る時にはノックぐらいしたらどうだ?」


「したわよ、全然気づかないじゃない。もう!」


「悪かったって。それよりどうしたんだ?」


「酷いわ! ジャレッドったら約束忘れてるでしょ!」


今日はやけに機嫌が悪いな。頬を膨らませるように怒っているサーシャを見ながら思った。これで約束を忘れたなんて言ったら更に機嫌が悪くなるな。

俺は完全に約束を忘れていたが紳士に対応する。


「もちろん覚えてるよ、俺が忘れるわけないだろ?」


「本当かしら? ……まぁいいわ、行きましょ!」


「おいおい、そんなに焦るなって」


俺の腕を無理やり引っ張って外へ出た。俺はサーシャに連れられて、目的の場所に向かう。

コロコロと表情が変わる姫様に振り回される日々は、相変わらず変わらない。

記憶の整理をしつつ俺は思い出した。今日はサーシャとパーティー用の服を買いに行くんだった。

3日後にサーシャの誕生日パーティーが開かれるらしい、俺はそのパーティーに貴族の一人として招待されていた。


「貴族ってやつはパーティーが好きなんだな。毎週やってるような気がするが……」


「小さいのはそうね。でも今回は私の誕生日パーティーなんだから、ジャレッドには絶対に参加してもらうんだからね!」


「はあ、俺は堅苦しい場所は好きじゃないんだが」


「いいじゃない、いつも出ないんだから」


サーシャはこれでも第5王女で、人との交流の場に参加する事が多い。俺は護衛として参加する事はあるが、今回は護衛ではなく貴族として参加して欲しいらしい。

町中をこうして腕を組んで歩くのもだいぶ慣れてしまった。最初のうちは護衛が王女と仲良く腕を組んで歩くのはどうなんだ?っとサーシャに聞いてみたが、むしろ町では王女だと認識しにくい魔法をかけているから大丈夫だという。

店に着いて1時間は経過していた。


「んー、これもいいわね。」


「はい! とても似合ってますよ! まるで王女様みたいです!」


「ふふっ、そうねありがとう。」


俺は15分ぐらいで裾上げも終わりサーシャを眺めていた。

店員と楽しそうにサーシャはドレスを試着している。

俺は二度と一緒に服は買いに行かないと思い、買い物が終わったサーシャと店をでる。

その後、適当に街をぶらついていた。

すると、サーシャは宝石店の前で足を止めた。

サーシャの目線の先には、碧色の石が奇麗に加工されているネックレスがあった。

王女なのに、こんなネックレス一つ欲しそうに眺めるなんて珍しいな。俺は気になったが、そのままサーシャに近づきそろそろ日が落ちるから帰ろうと提案する。


「そろそろ帰るか、日も落ちてきたし……」


「そうね。服も買ったしクレープも食べたし。楽しかったなー」


荷物を抱えながら歩く俺の前で、クルクルと楽しそうにはしゃいでいる。俺とサーシャはよく買い物に出かけたりするが、飽きないのかいつも楽しそうだ。まあ見てる俺も飽きずに楽しいから、悪くない。


「ねえ、ジャレッド私プレゼント凄い楽しみなの!」


「そうか、誕生日パーティーだしな。貴族の奴らから色々貰えそうだな」


「違うの、私ジャレッドからのプレゼントが楽しみなの」


「王女が安月給の人間からたかろうとするな。」


「えー、いいじゃない!ジャレッドのけちー」


「うるさい。パーティーに出るだけ感謝しろ」


俺は適当にサーシャをあしらいながら、その日は城まで送り届けてから解散した。

俺は城からの帰り道に宝石店に寄り道をして、碧色のネックレスを買った。

特に理由は無いが、俺は3日後に教会の地下からアーティファクトを盗み出し魔界に帰る予定だった。

聖霊都市のお金を持っていても意味はないしな…

誰かにあげるならサーシャしかいなかったという理由もある。

俺は自分に言い聞かせた。


「アイツ、喜ぶのかな……」 


買ってから俺は、甘い物を買った方が喜びそうだと思ったがもう遅かった。

俺は家に着き、ベットに横になって少し考えた。最初は魔族だとバレてるのかわかずに警戒していたが、全く変わらない反応に最近では安心していた。

自分でも、不思議と心を許してしまっていた。元々王家は暗殺対象だったが、アーティファクトの入手が第一優先となり警戒心が緩んだのかもしれない。


「くだらない……」


俺は魔族で、アイツは王女様。何を考えてるのか。

ジャレッドは自分の本心に気づいてはいたが、任務を最優先にしなければいけないと思い気持ちに蓋をした。




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