7話 金色の髪の少女


「はぁ……はぁ……どうだこれで、いいか?」


息切れするほど苦しいのを耐えながらマルファスに俺は尋ねる。


「ほぅ、これはアヤト様の飲み込みの早さには驚きを隠せません。この短期間で……合格です。」


「そっ、そうか! やったぁ……」


疲れと達成感から全身に纏った魔装を解く。


「これで基礎は終わりです。ここからは自らの意思と想像を力に変える修行ですね。」


「基礎? これが基礎なのか、もう終わりかと思ったが……」


俺は驚きを隠しきれない。この2週間ずっと魔装や剣や盾、魔力の圧縮。基礎体力向上に死ぬ気でやってここまで完成されてきた。


「これはお世辞抜きで、アヤト様の魔力量とセンスはかなりの物で少し粗削りですが、勇者と対等に戦えるほどに成長したと思います。」


「これで対等か、確かに体はよく動けるかな」


俺は全身の魔力を感じつつ簡単に魔力で剣を作り軽く振った。


「次の修行はどうすればいい?」


俺の質問にマルファスは少し笑みを浮かべながら答える。


「また質問ですが、面倒で少し時間と痛みが伴いますが確実に力を手に入れる方法と

激痛で最悪死んでしまう可能性が高いですが、最強の能力と戦闘力を最短で手に入れる方法。どちらがお好みですか?」


「そんなもの後者だ。俺には時間がない。それに最初っから一つしかないんだろ?」


「おや、気づかれてしまいましたか。でしたら今すぐにでも始めましょう。」


マルファスは笑って持ってきた金色の剣を俺に向け振った。


「ふんっ!」


瞬きすら許す間もなく、加速した剣は俺の心臓に一直線に貫きに来る。

俺は瞬時に全身魔装を展開させ、右手に握った剣でマルファスの剣を受けた。


「なっ、なんだと?」


金色の剣は俺の魔力で作った剣と鎧を空間ごとすり抜け、そのまま心臓へ突き刺さる。


「では行ってらっしゃいませ。アヤト様」


マルファスは剣を手放し、お辞儀をしている。

そのまま俺は深い眠りに着くように倒れ意識が消えた。

3時間は眠っただろうか、意識が少しづつ覚醒していく。

目を開けるとそこは白い世界、そして木製のシンプルな椅子とチーズのように溶けかけた時計が木から垂れ下がっている。

それ以外は何もなく無限に広がっているような、箱の中に閉じ込められたような不思議な感覚がする。

まるで、絵画の中にいるような不思議な世界だった。


「ここは?不思議な空間だ。俺は確か修行をしていて……」


辺りを見渡すと先ほどまで誰も座っていなかった椅子に、金色の髪をした少女が座っていた。

目が合うと少女は驚いた表情をし姿を消した。


「だっ、誰ですか!」


先ほどまで椅子に座っていた少女が一瞬で消え、背後から俺の首に金色の剣を突きつけながら質問をしてきた。


「泥棒さんですか? 怖いので切っていいですか?」


「アヤト! アヤトです! 魔力の修行をしていて、第二段階でなんか来ちゃいました!」


いきなり生殺与奪を握られ、俺は焦りながら答えた。

少女は俺の反応を確かめ、少し考える素振りをし頷いた。


「修行? 第二段階? あー、君が私の……まぁいいや、何となくわかった。取り合えずムカついたから切り殺しの刑!」


「えっ……」


少女が金色の剣を横に一振した。その瞬間、地面と空がルーレットのように回転する不思議な事が起きた。

いや、違う、回転してるのはこの空間じゃなくて俺の頭だ!

空中で回転する俺の頭は、切られたと認識するのに少し時間がかかっただけだった。


「……」


「隙だらけ、魔装も展開できてない……0点です。私が敵なら死んでますよ?」


少女はがっかりした表情をしながら剣を鞘に納める。

そして飛んだ俺の頭を拾って胴体とくっつけた。

切り口から魔力があふれ出る訳でも血がでる訳でもなく、粘土を切って再びくっつける様な感じで自然と結合した。


「何故っ……」


俺は訳が分からず呟こうとするが、途中で遮られ少女は話し出した。


「何故切られたはずの首がくっつき痛みも感じない。魔力放出も出血も無い。この空間がおかしいのか? 何かの魔法の幻覚か? っとまあ色々思考するのは結構だけど、私には全てお見通しーなのだ~! やっはっは!」


少女はクルクル回転して、少し悪戯っぽい笑みを向けた。


「気持ち悪いでしょ? 他人に思考を読み取られるのってさ。お返しだよ、急に私の中に入ってくるんだもん!」


こんな可愛らしい見た目で、自分の身長とあまり変わらない金色の剣を良く振るうなと俺は感心していた。


「お前の中……、そうかあの剣がお前なのか! この空間は夢に近い世界で俺は剣に貫かれた時に意識が……」


「気付くのが遅いけどまぁ、君の力量とこれまでの経緯は全部分かったよ。強制契約とは納得いかないけどね。」


「強制契約ってなんだ? っと言うかお前は誰なんだ?」


俺はとにかく訳わからないこの状況を整理したく聞いてみる。


「あー、ごめんごめん。私はスーテッド! 君の剣であり、相棒であり、君自身でもある。強制契約っていうのは、僕の事を使える者は生涯君だけって事、そして今の君。アヤトと僕は魂が一つに結びついてる状態って事かな」


「魂が結びついてる? つまり俺が死んだらスーテッドも死ぬのか?」


「そうだね。逆も同じで僕が折れたら君も悲惨な事になるだろうね。まぁ君の心が折れなければ僕は折れないんだけど。」


剣の契約は強制で契約者が死んだら剣も使えなくなるのか、物というより相棒に近いのかな。

とにかく俺には時間がない、限られた時間で勇者と対等に戦える、いや勝てる力を手に入れなければならない。


「さーて、自己紹介も終わり。これからは一連托生って奴だからさ、さっそく修行を始めよう。修行その1妄想をしてみよう!」


「は? 妄想?」


「うん、強さとは何か? 魔力量? 技量? センスに運? 色々あるけど、この空間では妄想が重要なんだ」


「おっと、なんで重要とか大切な事はあえて教えないからね。」


俺の思考がまた読まれ、聞く前に口止めされた。


(全く、コイツは俺の思考が全て読めているのか。脳内でファモチキ下さいって言ったらくれるのか……)


「よくわからない事考えてないでさっそく実践あるのみ。行くよ~」


スーテッドは剣で俺を叩き切るように向かってきた。

俺は後ろに飛び躱した。さっきまで俺がいた場所の地面が凄まじい爆発音とともに吹き飛ばされる。


「ったく、習うより慣れろ……って事か、まあ悪くない!」


俺はどちらかというと頭で理解するよりも体で理解する脳筋タイプだ。そういった点で小難しい事を一々説明するよりも戦闘で教えようとするスーテッドとは気が合いそうだ。





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