6話 最強になる為にはやっぱり修行でしょ
マルファスは右手に魔力を展開し一瞬で剣を作り構えた。どうやったのか分からないが、魔力を変化させて作った剣だろう。
「それではさっそく始めましょうか。アヤト様、これから30日で魔族最強のレベルまで鍛える事に協力させていただきます。」
マルファスは胸に手を当てて頭を下げる。
「うん、久々に何か頑張るのも悪くない。よろしく頼むよ」
まあ魔法が使えなくても修行すれば強くなれるなら、やってやろうじゃないか。
「ところでアヤト様は手っ取り早く習得する方法と知識とし理解しながら習得する方法、どちらが好みでしょうか?」
「もちろん楽で手っ取り早くかな。」
「分かりました。では最速で基礎である魔装をマスターして貰います……フンッ!」
マルファスは軽く踏み込み、右手を縦に素早く振り上げる。
スパッと風を切る音が遅れてやってくる。
「あぁあああああ!」
一瞬で俺の腕は、空中に飛んだ。
激痛のあまり地面にしゃがみ、左手で傷口を押さえた。
痛すぎる! 知識からゆっくり教えてくれる方を選ぶべきだった!このクソジジイ!
「冷静になってください。切られた痛みは腕を切り裂かれた時と同じですが、血は出ていないでしょう。」
マルファスは俺の傷口を指差していった。
「でも熱いし痛いぞ! ……しかし、何で腕から霧が?」
俺は地面に落ちた右腕の切断面から血ではなく黒い魔力が霧状になって出てるのを見た。
「その腕を肩に接触させて、縫い合わせるイメージ、または再生、治るイメージを構築してください。」
マルファスは俺の腕を拾ってから、切断目に繋げながら続けて言った。
俺は言われた通りに腕をくっつけて、イメージしてみる。
「魔族の体は魔力で出来ているのです。人間と違って出血による死は無く、魔力を失い魂を留めておくことが出来ない状況になると人間でいう、死、っという状態になるのです。」
「頭や心臓とかも大丈夫なのか?」
「もちろん腕以外も欠損した場合も魔力さえあれば再生可能です。ただし、魔力量が無ければ自己再生は不可能でしょう。それにそこまで致命傷ですと切断面から魔力が霧状になって散っていく方が早いかと思います。」
「おぉ、治った」
俺は先ほどの痛みが嘘のように消えて腕も何事もなかったかのように動くことに驚いていた。
「凄いな、でもおかしいぞ。俺は勇者に刺された時は血が溢れたが何故だ。」
「勇者はこの世界では特異な存在。勇者の扱う武器は魔族の実態。魂を肉体に拘束し人体に変換し切ることができるのです。」
俺はマルファスの説明に納得した。魔族は魔力量が多く簡単に回復するから、人間と同じ様に肉体へダメージを与える事が出来る勇者が強いんだな。
「確かに普通に切られても簡単に回復するならダメージにならないか。つまり、勇者は対魔族戦に特化してるって事か。」
「しかし、アヤト様は先日勇者に切られてからの回復の速さ。勇者に取って天敵ともいえるかもしれません。」
「そうだといいな。しかし魔族が壊滅するほどやられたとは信じがたいな。」
「はい……本来魔族が人間相手に遅れを取るなどあり得ないのですが……」
マルファスは少し悔しそうに言った。
俺は戦争を知らないし、総力戦と個人戦は違うのだろう。
「さて、話が少しそれてしまいましたが、先ほどの腕から出た魔力を全身から出すイメージで体に包み込むようにしてみてください。」
「こう……か?」
俺は全身から出血するようなイメージで魔力の霧を体にまとわりつかせる。
「流石です! アヤト様、次にその霧をまとめて洋服や防具、甲冑などをイメージしてください。」
「おぉおお!」
俺は勇者が装備していた強そうな甲冑をイメージしてみた。
すると霧状の魔力が俺のイメージ通りの形となった。
「それが、魔装です。しかし驚きました。まさかこうも簡単に習得するとは、凄い才能をお持ちですぞ! アヤト様」
マルファスはこの魔装ができるとは思っていなかったようで、驚いた顔をしている。
「もしかして、メアやマルファスの服とかって魔装なのか?」
「はい。この魔装を纏う事で、勇者の攻撃を受けても物理攻撃や魔法などをある程度防ぐことが可能です。」
「ある程度か、だったら全身に鎧みたいな魔装を纏えばいいのに。」
全身に纏えば、炎の二層魔法も防げそうな気がするが。
「魔装は防御力を最大に高めようとすると、それだけ魔力を圧縮しなければなりません。そうなると必然的に体内の魔力総量の大部分を振り分ける事となり、攻撃や移動に使う魔力へ割けなくなってしまうのです。」
マルファスは分かりやすいように説明してくれた。
「なるほど、バランス良く魔力総量を振り分けて戦うって事か。」
戦闘では互いの魔力を削りあい、魔力を上手く使って殺し合い勝敗が決まる。
つまり魔力量が多いことが有利に戦闘を進められる。
「あとは魔力をコントロールした基礎戦闘能力と精神力の強化です。アヤト様は魔力操作の才能は相当な物と感じます。」
「魔法は使えないが魔力は使えるのか。ただ、対等に戦えるのか不安だな。」
「安心してください。そもそも魔法とは創造による産物。魔力を効率よく変換し複数の魔法を組み合わせたりする事で大きな力を発揮します。しかし、その元は魔力。力のぶつけ合いです。」
マルファスは説明を続ける。
「人間たちは少ない魔力量を補い、魔族と戦う為に開発したのが魔法です。我々魔族は魔力量が多い為、今までは魔法を習得する必要はなかったのです。しかし、勇者は魔族に近い量の魔力に二層魔法を使い、魔族を圧倒し油断していた我々は敗北しました。」
マルファスは少し遠くを見るように言った。
戦いの勝敗を決するのは、基本的には魔力量。総量が同じなら消費量が少ない勇者が勝つのは必然か。
「その感じだと、魔族で魔法が使えるのは相当珍しいんだな。俺は使えないが……」
俺を召喚した時メにアがはしゃいでいたのを思い出した。
「まあ、魔法が使えなくてもこの魔力量で勇者を全員倒せばいいんだろ。マルファス、戦闘訓練を頼むよ。」
俺は少し体を伸ばした。
「ほほっ、アヤト様の魔力量ならば不可能ではなさそうですね。このマルファス、全力で鍛え上げて差し上げます。」
こうしてマルファスによる、最強の魔族になる為の修行が始まった。
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