5話 俺の最強魔法




「ここは……」


俺は辺りを見渡した。

城の地下から真っすぐ歩き、俺が連れてこられた場所は城の裏にそびえたつ山の洞窟の中だった。


洞窟内は鉱石による光の影響かかなり明るい、広さは縦にも横にも広く何故か空気もこもってる感じではなく、自然の中にいるような心地よさを感じる。


「メア様、お待ちしておりました。」


木造の家から、黒い服をきた執事のような恰好のデカいおっさんが出てきた。


「マルファス、よかった先に紹介するわ。彼が魔導書の召喚に応じた魔の者アヤトよ」


メアは俺を紹介する。


「随分とデカいおっさんだな。俺はアヤト。よろしく。異世界に勝手に召喚されて今はメアのペットだ。わんわん鳴いてやろう!」


「ほっつほほ!私の名前はマルファスと申します。」


俺は見上げるようにマルファスを見た。マルファスは髭をなでながら俺の冗談に笑った。


「メア様、アヤト様は服従者の刻印が気に入らないようですね。」


「そりゃ心臓握られるしな、うっごっ!!」


メアは可愛い赤い瞳を光らせ、右手で空間をひねるように俺の心臓を撫でる。

俺は背筋が凍った感覚がした。


「そうね。説明してなかったけど、この服従者の刻印は敵と味方の判別、そして仲間が暴走した時に無意識状態でも暴走を抑えられるの。それに、位置情報の共有と把握に思考伝達、命令の絶対服従と…まぁ、幹部には必ずこの刻印が刻まれてあるわ。色々あるけど、アヤトには何も言ってなかったわね。」


合理的で便利な魔法じゃないか。最初っからちゃんと説明しろよと俺は思った。


「しかし、俺の承諾を得て契約してないぞ! 絶対服従とかペットよりひどいぞ! この詐欺師め!」


「……」


「まぁいい、とにかく三層魔法とかが必要なんだろ?」


俺はまた無意識に文句を言ったが、メアが赤い目を光らせ無言の圧力をかけた為、急いで話題をそらす。


「そうね、まずは魔法の基礎的な事を教えるわ。マルファス、メフィーは?」


「メフィー様は時空間結晶を取りに行って、そろそろ戻るかと…」


「そうだったわね。じゃあ先に魔力と魔法ついて簡単に教えるわ。」


「魔力はこの世界で基本的に皆が持ってる力で、シンプルに力と考えて欲しいわ。」


メアは説明を続ける。


「魔法の基本は魔力の創造、変化、構築 この3つからなるの。ようは力の変換ね。この発展形が魔法陣による展開で1層~4層魔法まであるわ」


「なるほど、魔力を変換したのが魔法で、魔法の強さは魔法陣の層により威力や難易度が変わるってことか。」


「詳しくは少し違うのだけど、魔力を効率よく変換する事を目的にし、創造を助け、本来魔力量で劣る人間がそれを補うために作ったものよ」


メアは続けて説明をする。


「単純に戦いの優劣を決めるのは魔力量なのだけど、その量だけで戦おうとすると人間と魔族だと魔族の方が魔力量が多いの。だから今までは魔族が人間に後れを取る事は無かったわ」


「問題はその人間たちの間で魔法陣という概念が生まれた事でその差が無くなったの、魔法陣によって効率化された力で対等に戦う敵はとても強いわ」


俺はメアの説明を黙って聞き続けた。

どうやら魔法の凄さの本質は効率化らしい、シンプルに魔力で火を出そうとすると、脳内で火をイメージして魔力を込めて創造する。

このプロセスを魔法陣をイメージして構築することで脳内でイメージする事を省くことができるらしい。

火という文字で燃える炎を想像することができるように、魔法陣を展開する事でそれができる。

そして火を変化させて武器の形にする事も出来る。構築は複数の魔法を組み合わせたりする事で威力を増したり、複雑な魔法を素早く出せたりする難易度が高い魔法らしい。


「勇者が使ったのが2層の魔法陣だったか。それであの威力か、3層4層は想像できないな。」


恐らく勇者ファイムが放ったのは、火の魔法と風の魔法を使った2層魔法だろう。


「安心していいわ、3層からの魔法を使える者は限られてるわ。恐らく勇者で3層使える者はいないはず。だけどアヤト、あなたのその目は私と同じ真紅の瞳。三層魔法を使える魔力と才能があるわ。」


メアは自分の瞳を俺に良く見せる為顔を近づけた。

俺はそんな少し可愛い動きに少し照れてしまった。


「そっか、つまり習得できれば敵なしって事か。」


「そういう事よ。じゃあさっそく基礎から見せるわ。」


メアは右手に3つの魔法を同時に空中で停滞させた。

俺は驚いた。水と雷と炎が小さな球になり、浮いている。


「おぉ、凄いな!」


「これは基礎の0層魔法、創造するだけよ。炎でも雷でも水でも一つ創造してみなさい。」


「創造するだけか、なら、俺も!」


右手に魔力を集中させて炎をイメージする。右手に濃い黒い魔力のオーラが集まるが、火が出る気配がない。


「おい、メア……イメージしても出てこないんだが。」


「はぁ? 真面目にやりなさいよ! 魔力を魔法にイメージして変換するだけよ? ほら。」


メアは少し怒りながら言って、さらに魔法を手のひらで出したりしてみせた。


「いや、真面目にやってるんだが」


俺はさらにイメージするが何も変わらない。

必死で一人で叫びながら頑張るが何も変化は起きない。

創造、つまり想像であり妄想である。アダルトな妄想を日々続けてた俺からしたら、火の妄想なんて朝飯前だと思ったのになんて難しいのだろう。

何も変わらない右手に浮く魔力に悲しくなってきた。


「おかしいわ! 普通、真紅の目の保有者なら誰でも出来るはずよ!」


そんな俺を横にマルファスはメアに話しかけていた。


「メア様。恐らく本来の勇者を召喚する魔導書を、魔族として召喚した事で何らかの影響があったのでは?」


少し機嫌が悪くなったメアにマルファスは言った。


「もー! 魔法が使えないなんて、それじゃただの魔族じゃない!」


「しかし、あの勇者を消し飛ばすほどの魔力量、魔王様以上のものかと思います。」


「はぁ、まあ仕方ないわね。予定変更よ、魔剣を使うわ。30日よ、それまでに最強の魔物になってもらうわ」


メアは何か考え込むような姿勢で言った。


「メア様、しかしあの剣は……」


「大丈夫よ。マルファス。あとはあなたに任せるわ。」


「承知いたしました。」


メアはそのまま行ってしまった。

よくわからないが30日間レベルアップの修行か。

やるしかないよな。



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