8話 聖霊都市での噂

勇者が魔王を討伐してから1週間が経過した精霊都市では、人々が多く行き交い町は賑わいを見せていた。


「宴だ~! 全ての勇者様に~! 乾杯!」


「カンパーイ」


昼間だというのに、町の中央広場では酒に酔った市民から兵士に商人。色々な人間

で盛り上がりを見せる。楽器を弾いたり、酒樽に突っ込み寝るもの。色々な屋台も

並び客で溢れていた。


「たくっ、何度目の乾杯だよ。」


俺はポツリと呟いた。

酒を片手に木の椅子に座り同じ席に対面する相手は言った。


「そういうなよ。あいつらも嬉しいんだろ。魔王が死んで国は平和になった訳だし。」


「平和ね。これから国王は間違いなく他国に戦争を吹っ掛ける。その一時を平和と言うなら、そうなんだろうな。」


俺は誰に言うのでもなく、皮肉めいたことを呟いて立ち上がる。

別にどこの国が戦争しようが俺にとってはたいした事ではないのだ。


「おい、どこ行くんだ?」


酔っぱらった兵士が聞いてきた。


「飲みつかれたから昼寝する。」


俺は歩きながら手を上げて返事をし。街はずれの方向へ歩く。


「いい天気だ。」


太陽の光が心地よく俺を照らしてくれる。

俺は街はずれの、森に近い木陰で横になって目を閉じた。

何もない平穏な日常が今の俺の全てで、この世界が俺は好きだ。

たまに吹く風が、森の奇麗な空気を運んでくる。

俺はそのまま2時間近く眠っていた。


「ね、ト……オル……ト!」


誰かが俺の体を揺する。


「オルト、起きなさいよ!」


「あー、気持ちよく寝てた人間を起こすな~。」


俺は体を起こすとそこには騎士団長のフィオナがいた。

フィオナは髪は緑色でショートだ。三つ編みに青いリボンが特徴だ。

肩と足には鎧を装備し、白い服装でスカートから太ももが見える胸のサイズはそこそこでエッチな騎士だが、これでも団長であり聖霊都市で最強のレイピア使いだ。

安易に手を出そうものなら命は無いだろう。


「オルト、大変なのよ。ファイムが帰ってこないの。」


「ファイムって魔王倒した奴だろ? 3日前だったかな、見たぞ。国王から爵位と金貰って嬉しそうに酒場で自慢してたぞ」


「違うの! 魔王の娘が生きているのかも知れない、と言って出て行ったきり帰ってこないの。」


「なぁフィオナ……、ファイムは魔王を倒したほどの実力者だろ。ならあいつがやられる可能性は魔界じゃあり得ない。つまり、逃がした娘を探すのに手間取ってるんだろうよ。それに、魔王を討伐しに行った時も1週間以上帰ってこなかったしな。」


「そうだといいのだけど、風の噂で、魔王の娘が聖霊都市に侵入し勇者3人を殺して教会から魔導書を盗んだらしいの。」


なるほど、勇者を3人も殺す魔王の娘か。フィオナが心配するのも無理はない。


「勇者3人と言っても召喚したばかりだろ、それに魔法を使えないハズレもいる。魔王の娘の実力を判断するには材料不足だろ。」


「それもそうね……心配し過ぎたわ、ありがとオルト」


騎士団長なのに心配性なのは相変わらずか、コイツとは兵団の同期で腐れ縁なのか良く絡んでくる。駆け出しの頃はよく一緒に魔物狩りした関係だ。


「それと、魔力結晶と神父の件でつながりがあったわ。オルトの予想通りあの神父は只者ではなさそうね。」


「そうなると、一度魔界に行く必要があるか……」


「あと、オルト……その、時間が空いてたらでいいのだけれど、この後空いてる?」


何故かフィオナは顔を赤くしながら恥ずかしそうに聞いてきた。

俺は基本的に暇だし断る理由もない。


「あぁ、特に予定はないが。」


「やった! それじゃあ、その、夜7時に噴水広場の前で待ってるわ」


フィオナは嬉しそうに手を振りながら走って去っていく。

どこに行くのかは教えてくれないのか……

多分飯でも食いに行くのだが、まぁいいか。

俺はまた眠りにつく。いつ消えるか分からない世界ではない。

多少の危険はあっても、この世界で俺は平和に暮らしている。

この世界はとても暖かい。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る