第6話 学生寮と友達

 都市に入ってから暫くして、荷馬車が止まった。どうやら目的地に着いたみたいだ。


「お嬢様、着きました。」


「…着いてしまったか。…立ち上がるのだるぅ…。」


 長い時間荷馬車に乗っていると異様に外に出たくなくなる。先行するエクレアに私は渋々ついて降りる。


 荷馬車を降りると、そこには大きな建物が聳え立っていた。


「これが私の住む寮…ラテマキアート学生寮。」


 私の目の前にある建物はマドレーヌ魔法学校に通う生徒達が暮らす寮、ラテマキアート学生寮。


 マドレーヌ魔法学校の隣に位置しているこの建物で、私はこれから三年もの間暮らしていくこととなる。


「…よし。エクレア!それからキャンディ!グミ!」


 私がメイド達の名前を呼ぶと、荷馬車から降りた三人のメイド達が集まってきた。私は、その三人に向かってラテマキアート学生寮を指差しながら言った。


「さっさと荷物運び込んじゃうわよ!行きなさい、あなた達!」


「え~!ちょっと休みましょうよ~!今着いたばかりですよ~?」


「そうですよ~!取り敢えず、休みましょうよ~!明日とかでいいんじゃないですか?荷物運ぶの。」


「ダメに決まってるでしょうが!誰が明日にまで持ち越すのよ、荷物運びを!泣き言言ってないでさっさと運び込みなさい!」


 私はごねている二人のメイド、キャンディとグミに向かって呆れた目を向けた。すると、その様子を見ていたエクレアがキャンディとグミに向かって言った。


「荷物を運びこんだ後、休息を取りましょう。さっさと終わらせてしまった方が賢明です。」


「お!流石、エクレアね。働き者だわ~。じゃあ、頼んだわよ、三人とも。」


 私はそう言って、得意げな顔をした。すると、エクレアが私のことを横目で見ながら言った。


「何を言っているのですか?お嬢様もお手伝いください。」


「…はぁ!?なんで?私、お嬢様よ?するわけないでしょ?」


 すると、それを聞いたエクレアがポケットから一枚の紙を取り出し、それを見ながら私に言った。


「アサーニャ様からの伝言です。『あなたはこれから一人で生活するのだから、メイドの子達に頼り切るんじゃなくて、あなたができることは自分でしなさい。もし、サボったりしたら、次帰って来た時に、私の晩酌に一晩中付き合わせます。』だそうです。」


「…っ!あの酒癖の悪いおばさんの滅茶苦茶つまらない話を一晩中聞かされるの?嫌に決まってるじゃない!」


「お嬢様が私達と一緒に荷物を運んでくださればそれは避けれます。どうなさいますか?」


「…。」


 私は渋い顔をしながら、顎に手を当てて考えた。そして、ある程度考えた後、メイドの三人を見ながら言った。


「…荷物運びは明日にしましょうか。」


 私の提案を聞いて、エクレアが呆れた顔をしながら言った。


「誰が明日に持ち越すんですか、荷物運びを。」




「ぐぎぎ…!」


 私は重たい荷物を両手で持ちながら、学生寮の廊下を歩いていた。


 ラテマキアート学生寮の廊下は、まるで王宮の廊下のようで、広々とした空間に、私の右には大きな窓、そしてその反対側には生徒達が暮らす部屋に繋がる扉が並んでいる。 


 私は自分の部屋の前まで来ると、荷物を降ろして扉を開けようとした。


 すると、私が開くよりも前に、キャンディーとグミが中から扉を開けて、部屋の外に出てきた。


「あっ!お嬢様!荷物はそれで最後ですか?」


 キャンディーが明るい笑顔で私に問いかけてきた。


「…いいえ。まだ、二つほど残っているわ。」


「…お嬢様が取りに行かれます?」


 グミがニヤニヤした表情でそう聞いてきたので、私は彼女を睨みながら言った。


「…行くわけないでしょ?あなた達で取ってきてちょうだい!」


「フフッ、わかりましたよ。じゃあ、私達が取りに行ってきますね!お嬢様はお部屋でお休みください!」


「…悪いわね。」


 キャンディーとグミは二人で談笑しながら、廊下を歩いて行った。


 私は再び荷物を持つと、部屋の中に入った。


 部屋の中はとても広くて、大きくてふかふかそうなベットが二つと、大きな暖炉が一つ。部屋の壁は鮮やかなピンク色で、天井からは大きなシャンデリアが吊るされている。そして、奥には窓があり、そこを出るとバルコニーに繋がっていて、そこから街と学校が眺められるようになっていた。


「…家の部屋の方が広いわね。」


 私は愚痴を溢しながら、荷物を床に静かに置いた。


 そして、部屋の中を歩いて回ってみた。私がこれから三年間ほど暮らしていく部屋。家の部屋よりは小さいけど、悪くないなと思った。


 ふと、バルコニーに目をやると、そこから街を眺めているエクレアを見つけた。


 私は少し迷ったが、細かいことは考えず、話しかけることにした。


「ねぇ?…街、行ってみる?」


 私は後ろから彼女に近づき、左側から彼女の顔を覗き込むようにして言った。エクレアはそんな私をチラッと見て、少し微笑んだ。


「いえ、疲れたので休みたいですね。…でも、お嬢様が行きたいと仰るのなら、私は付いて行きますよ?」


「せっかく誘ってあげたのに、その曖昧な返事は何だね、君?まぁ、いいや。じゃあ、街に繰り出すわよ!私についてきなさい!あんた、はしゃぎ過ぎて街に流れてる川とかに落っこちちゃダメだからね!」


「…はしゃぎませんよ。その言葉、そっくりそのままお嬢様に返します。」


「よーし!そうと決まれば準備するわよ!できるだけラフな格好したいから、荷物からできるだけ軽い服を出しなさい!後、この重ってぇー服を脱ぐの手伝ってちょうだい!」


「はいはい、わかりましたから。落ち着いてください。」


「それと、キャンディーとグミも誘いましょ!女四人で街を荒らすわよ!」


「…荒らしませんよ。バーバリアンじゃないんですから。」


 エクレアは呆れて溜息を吐いていた。


 私はそんな彼女を無視してルンルン気分でバルコニーから部屋の中に戻った。


 


 私は重たいドレスを脱ぎ、軽い服に着替えていた。


 すると、私が着替え終わるのと丁度同じくらいのタイミングで、荷物を持ったキャンディーとグミが部屋へと入ってきた。


 私は、彼女らが一息つく間もないくらい早く、彼女らに話しかけた。


「ねぇ、二人共!私とエクレア、これから街に繰り出して破壊の限りを尽くそうと思ってるんだけど、あんたらも行かない?」


「えぇ!?お嬢様、街を破壊なさるんですか!?お止めになられた方が…。」


「…キャンディー、冗談だよ。素行の悪いお嬢様でも、流石に街をお壊しなさるわけないよ。」


「おい。一言余計よ、グミ。」


 私は、グミのことを睨んだ。グミの言葉を聞いたキャンディーは、ホッと胸を撫で下ろした後、私に向かって言った。


「私、疲れたので部屋で休みたいんですが…。」


 すると、示し合わせたかのようにグミも言った。


「私もですね。ヒルノ様とエクレアさんで行ってきてはどうです?」


「なによ、あんたら~。折角、誘ってあげたのに~。」


 私が頬を膨らましながら二人のことを睨んだ。すると、後ろからエクレアの声が聞こえてきた。


「お嬢様、行くのならさっさと行きましょう。日が暮れてしまいます。夜になると私達がバーバリアンに襲われることになりますよ?」


 私は振り向いて、笑顔で彼女に言った。


「わかってるわよ。じゃあ、行きましょうか。」

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