第24話 同居人と昼寝

「…なんで、あんたと部屋が一緒なわけ…?」


「わーい!嬉しいなーっ!ヒルノちゃんと一緒の部屋だーっ!」


 私が愚痴を溢してるにも関わらず、メリルは自分のベッドの上でピョンピョン跳ねながら嬉しそうに言った。


 アサリノと別れた後、私達四人はラテマキアート学生寮へと戻った。そして、そこでニーナとクロワと別れ、私は寮の自室へと戻った。


 しかし、どういうわけか、私の部屋はメリルの部屋でもあった。そう、メリルは私と同じ部屋を共有するルームメイトでもあったのだ。


「これで私とヒルノちゃんとはいつでもお話できるね!あっ!せっかくだから何かお話ししようよ!なんのお話がいいかな〜…じゃあ、今食べたいものを順番に言っていこっか!」


「…やらないわよ?そんな、話題がない奴等の末期状態みたい会話。あ〜あ、自室ではゆっくり休めると思ったのにな〜…。」


「ヒルノちゃん!ゆっくりしたい時は言ってね!私がヒルノちゃんにお歌を歌ってあげるから!たぶん、天国にいるような気持ちになるよ!」


「…地獄だわ。」


 そう言って私はベッドにうつ伏せになって、枕に顔を埋めた。


 私はメリルの声を遮りながら、頭の中で今日起きたことを整理した。


 今日は色んな人達に出会った。


 とてもキャラの濃い人達だった。


 一人一人の情報量が多すぎて頭がパンクしそうになる。


 キザでナルシストなメインヒーロー。


 明るいと思ったら、実は超絶ネガティブだったメインヒーロー2。


 強面で気性が荒くて、頭がとっても悪いメインヒーロー3。


 表と裏の顔の差が激し過ぎる友人キャラ。


 身分の差をやたら気にする取り巻き。


 全然喋らない、とても大人しいもう一人の取り巻き。

 

 …全員、容姿やステータスなんかは乙女ゲーム『空の彼方のユートピア』のキャラクター達に酷似している。


 しかし、彼らの性格と名前はそのゲームの中のキャラとは全く別のものである。


 ニギリーナ・オムスビス?アサリノ・オミーソシル?…ふざけているようにしか思えない。


 やっぱり、『空の彼方のユートピア』とは全く関係が無い世界なのだろうか?


 いや、しかし、私は入学式で校長のカツラが風魔法で飛ばされるのを見ている。


『空の彼方のユートピア』でも同様のイベントがあったはずだ。


 馬鹿馬鹿しいように思えるが、こんな偶然があり得るのか?


 入学式で校長のカツラが吹っ飛ぶイベントが一致するという偶然が…。


 あるとしたらなかなかの奇跡だろう。


 だったら、やっぱりここは乙女ゲームの中の世界なんじゃないのか?


 前の世界で命を落とした私は、この世界に悪役令嬢として転生した…。そして、今日、学校で正ヒロインやメインヒーロー達と、ゲームのシナリオ通りに邂逅することとなった…。


 メインヒーロー達と正ヒロインが出会うイベントってあんなんだっけ?


 いや、もっとしっかりとしたイベントだったはずだ。


 あんな馬鹿げたイベントじゃなかった。そもそもヒーロー達の性格がおかしいし。

 

 あいつらほんとにメインヒーローか?てか、私は本当に悪役令嬢か?


 そもそも乙女ゲームの世界に転生なんてことが現実で起こるのかどうかさえ疑わしい…。そんなの創作物でしか聞いたことない。


 普通に考えて、別の独自の世界に生まれ変わっただけなんじゃ?


 いや、そもそも別の世界に生まれ変わるなんてことが非科学的じゃない?


 …これ、私が見ている夢だったりして…。


 そうか。それが一番しっくりくるかも。私はまだマドレーヌ魔法学校に着いていなくて、荷馬車に揺られながら夢を見てるのでは?


 いや、なんならまだ出発すらしてなくて家で馬鹿みたいに寝てる時の夢かも。


 っていうか、そもそもヒルノ自体が今井紗季が見ている夢の中の人物なのかも…。


 このよくわからない世界も、『空の彼方のユートピア』に影響を受け過ぎた私が作り出した幻なのかもしれない…!


「そうか…。そうだったのか…!」


 私は枕に顔を埋めながらそう言った。


 すると、後ろからメリルが楽しそうな声で聞いてきた。


「ヒルノちゃん!何考えてるの?」


「…この世界の仕組みについて考えてた。」


「そうなんだー!なにかわかった?」


「…全部、幻かもしれない。」


「へー!なんかすごいね!」


「…。」


「…?」


「…はぁ…疲れた。」


 私は顔を上げてメリルをジーッと見た後、また枕に顔を埋めた。


 メリルは終始、ポワーンとした表情をしていた。


「ねぇ…メリル。」


 私はくぐもった声で言った。


「なーに?」


「もし、あんたが…例えば…そう、童話の中の登場人物に生まれ変わったとしたらさ…どう思う?」


 私は再び顔を上げて、チラッと横目でメリルのことを見た。


「えー!なにそれ!おもしろそー!!」


 メリルは輝かしい笑顔で私が寝転んでいるベッドに乗ってきた。


「私がお話の中のお姫様に生まれ変わるってことでしょ?」


「まぁ…そうね。」


「すっごくワクワクする!」


 メリルは嬉しそうに言った。


 私はそんな彼女を煩わしそうな目で見ながら質問を続けた。


「まぁ…そうか。…じゃあ、その世界がすっごく…こう…ヘンテコだったら?」


「ヘンテコ?」


「そう、ヘンテコ。」


 私は起き上がって三角座りをした。


「あんたはそのお話のお姫様にそっくりなんだけど、あなた以外の他の登場人物が…例えば、意地悪な魔女なんかが…んー…私とかだったら…どう思う?」


「…?…ヒルノちゃんが意地悪な魔女だったら?」


「…そう。」


 私にそう問われたメリルはポカーンとした顔をした後、再び笑顔に戻った。


「ヒルノちゃんは意地悪な魔女になりたいの?」


「えっ…?」


 メリルの問いに私は腕を組んで考え込んだ。


「いや…んー…まぁ…そうかも。」


 私はジト目でメリルに言った。


 私の問いを聞いたメリルは、ニッコリと笑って私に言った。


「ヒルノちゃんが意地悪な魔女でも関係ないよ!だって、私とヒルノちゃんはもうお友達でしょ?」


 メリルはそう言った後、私の隣に来て座った。


「自分がお姫様で、相手が意地悪な魔女でも関係ないよ!私はお友達とお話がしたい!いつでも、どんなところででも!」


「…フフッ、そっか。」


 私はメリルの返答を聞いて、笑ってしまった。


「まぁ、なんかあんたならそう答える気がしてたわ。まったく、面白くもなんともない答えね。それじゃ、あんたは楽しいかもしれないけど、お話を読んでる側は全く面白くないでしょうね。」


「えー、そうかなー?仲良しな人達を見てるとこっちまで楽しくなってこない?」


「…あんまりかな。私は、萌えアニメより鬱アニメの方が好みだしね。」


「…ヒルノちゃん!アニメってなぁーに?」


「アニメっていうのは…内緒。」


「えーっ!なんで!?教えてよーっ!」


「フフッ…嫌だ。」


 心底驚いたような顔で、私に迫ってきたメリルを私は軽く笑ってあしらった。メリルは頭空っぽのフワフワ少女だが、今の私にはとても頼もしい存在に思えた。彼女にとっては相手が誰であろうと関係ないのだ。


 私は今日の朝のことを思い出した。この世界がどこであろうと関係ない。出会った人達が誰であろうと関係ない。私がいて、周りの人達がいて、そして世界がある。今はそれだけで十分だ。


 この世界が何なのか知る必要なんてない。


「ぶはー!」


 私は、大の字になってバタンとベッドに倒れた。


「メリル、私ちょっと寝るわ。待ち合わせの時間になっても起きてなかったら起こしてくれる?」


「うん!いいよ!ヒルノちゃんが起きてなかったら、私が王子様の代わりにチューで起こしてあげるねっ!」


「そんなことしたらあんたを永遠の眠りにつかせるからね?…魔法で。」


 私は両手を後頭部の後ろに回して、ゆっくりと目を閉じた。

 


 


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