第18話 メインヒーローはステーキグリル

「フッ…待たせたね。」


 その男の子は、キメ顔で堂々としながら私達に向けて言った。


「…あんたらの知り合い?」


 私はその男の子を見た後、カリーフとオラベの方を呆れた顔で見ながら言った。すると、その問いにカリーフが答えた。


「…うん、正解だ、ヒルノちゃん。」


「…やっぱり。ってか、なんであんたら一人ずつ出てくんのよ?ファッションショーみたいに。」


「僕に聞かないでくれるかい?この二人が個別に行動しだしたことが原因なんだからさ。」


「おや?知らない人達が沢山いるな〜。カリー、オラベ、君達の友達かな?」


「まぁ、そうだね。今ここで出会って話していたところだよ。」


 それを聞いたその男の子はフッと少し笑った後、ニヤリとして言った。


「…話していたじゃなくて、言い争い合っていた、だろう?」


 彼はそういうと私の方を見て、ドヤ顔で言った。


「僕が向こうにいる時、言い争っている男女の声が聞こえてきた。男子の方はオラベのような声で、女子の方は…そこの君みたいな声だった。つまり、オラベと君は喧嘩していたのだろう。違うかい?」


「えっ…まぁ、さっきしてたけど…」


「そうだろう?でも、安心したまえ。」


 彼はそういうと私達の方へとゆっくり歩いてきた。そして、私達の目の前まで来ると、決めポーズをして大声で言った。


「僕がこの場を収めてあげよう!」


 彼がそう言うと周りの女子生徒達から黄色い声援が飛び交った。


「キャー!素敵ー!!」


「さすがですー!!」


「結婚してくださーい!!」

などの言葉が彼の取り巻きから聞こえてきた。


 私はそれに呆れた顔をしながら、ジト目で彼のことを見つめて答えた。


「…お気遣いありがとうございます。でも、もうそのくだり、とっくの前に終わってるんで大丈夫ですよ…王子。」


 そう、私達の前に現れたその男の子は、入学式の前に見た、この国の第三王子”ステイ様”であった。


 彼は、前に見た通り、綺麗な金色の髪に水色の瞳、シュッとしているが少し幼さの残る顔、男の子にしてはちょっとだけ小柄な身体、そしてそれを覆うマドレーヌ魔法学校の学生服という見た目をしていた。


 私の言葉を聞いた彼は少し笑いながら言った。


「フフッ、王子だなんて…よしてくれ。確かに僕は、オマンジュウ王国の第三王子、ステイ・キグリールその人だが…そんなに畏まらなくていいよ。僕のことは気軽にステイ君と呼んでくれたまえ。あと、タメ口でいいよ。」


「わかった…じゃあ、ステイ君?」


「なんだい、愚民のお嬢さん?」


「誰が愚民だ。…あんたが言うと洒落にならないから、あんまりその言葉使わない方がいいと思うわよ?」


「…そうなのか?…すまない、じゃあ今のは忘れてくれ。王子である立場を意識し過ぎて出た言葉だ。」


「意識してたら絶対出ないと思うけど…まぁ、いいや。…ステイ君、あなたが来る前にその喧嘩の話は片付いたから。」


「そうか。君の言い分はわかった。つまり、もう片付いたということにして、この問題を揉み消したいと、そういうわけだな?」


「…はぁ?いやいや、本当にもう片付いたから。全然、分かってないじゃん。再翻訳した文章並に話がズレてるけど?」


 私は冷ややかな目で彼を見ながら言った。すると、彼はそれを受け流すかのようにフッと笑った。


「そんなに僕をジッと見つめないでくれるかな?その冷たい瞳で見つめられると、僕は石化してしまいそうだよ?」


「…。」


 私は無言で彼から目線を逸らした。すると、それを見た彼は言葉を続けた。


「サンキュー、メデューサ。」


「誰がメデューサだ。」


「話を戻そうか。君はオラベと喧嘩になって、話し合いが平行線を辿り、そのままどう折り合いを付ければいいかわからずに困っている。そういうことでいいかな?」


「いや、だから、良くないって。確かにさっきまでそうだったけど、あなたが来る前にその話は終わったから。」


「なるほど。困っているようだね。」


「おい。」


「それなら僕がこの場を収めてあげよう!」


 彼は再びそう言うと、さっきと同じ決めポーズをとった。そして、またもや同じように周りから黄色い声援が飛んだ。


「ステイ様素敵ー!」


「一生付いていきますー!」


「結婚して下されば嬉しいですが、もし難しいようならペットとしてでもいいのでそばに居させて下さーい!」などの声が彼の取り巻きから聞こえてきた。


 ステイはその声援がやむより前に私のもとに歩いてきて、いきなり両手を握ってきた。


「えっ!?ちょっ…!」


 驚いた私がそう言い切る前に、彼は私の目を真っ直ぐ見つめて言った。


「さぁ、君がなぜオラベに怒っていたかを教えてくれないかい?彼はとてもいい奴なんだ。僕の友達を、君に誤解したままでいて欲しくない。」


 ステイの瞳は真っ直ぐに私を捉えていた。彼の瞳には反射した私の顔が綺麗に写っており、私はそこに彼の純粋さを感じていた。


「…いや、まぁ、何?私の勘違いっていうか、オラベが理不尽に私の友達に怒っているように見えちゃって…、それで喧嘩になっただけで…」


「なるほど、つまり色々な誤解が招いた惨劇だったというわけだな?」


「…別に惨劇ってほどのもんじゃないでしょ。ただの口喧嘩なんだし。」


「オーケー、わかった。ここは僕に任せてくれたまえ。」


 ステイはそう言うと、私の手を離し、くるっと身体を後ろに向けた後、大声で彼の取り巻きに言った。


「聞いてくれ、下賤の民達よ!先程、僕の盟友であるオラベ・ジターリアンと今僕の目の前にいる彼女、…えっと〜…メデューサ嬢の間で少々、いざこざがあったらしい!喧嘩をするのはよくない!だけど、僕が話を聞いたところ、その喧嘩はほんの少しのすれ違いから生まれたものだとわかった!」


 ステイは身振り手振り加えながら、大声を張り上げていた。私は困惑しながら彼のことを見ていた。しかし、彼はそんな私に構わず話を続ける。

 

「僕の盟友、オラベはとてもいい奴なのだが、感情を上手く表現できないところがある!そのせいでメデューサ嬢に理不尽に突っかかってると誤解を与えてしまったようだ!オラベからの謝罪もあっただろうが、僕からも彼女に謝罪したいと思う!すまなかったメデューサ嬢!」


 ステイはそう言って私に頭を下げた。すると、周りから再び黄色い歓声が飛んだ。


「王子なのに謝れるなんて素敵ー!!」


「上に立つにふさわしいお方ー!!」

などの機械的に叫んでるかのような歓声が聞こえてきた。


 私はそんなステイと彼の取り巻きを呆れた目で見ながら言った。


「…いや、もう話済んでたんだけど…。まぁ、いいや。じゃあ、これで終わりね、この話。もう、蒸し返さないでもらえる?あと、メデューサ嬢じゃなくてヒルノって呼んでくださる?王子。」


「王子だなんて!ハハッ!よしてくれよ!さっきも言ったろ?ステイでいいよ、ヒルノ。」


 ステイは笑いながら私に言った。私は皮肉のつもりであったのだが、彼には伝わらなかったようだ。そして、彼は私から再び取り巻きの方に向き直って、大きな声で再び話し出した。


「しかし、聞いてほしい!僕は、相手が誰であろうと友人のために立ち向かう彼女の勇気を称えたい!これは誰にでもできることではない!彼女の勇気があってこそだ!みんな、彼女の勇気に称賛を!」


 彼がそう言うと私に対して称賛の言葉が飛んできた。


「素敵ですー!ヒルノ様ー!」


「さすがでございますー!」

などのもはやテンプレのような言葉が飛んできた。


「えぇ…。」


 私は戸惑いながらステイのことを見ていた。すると、彼は私の方に体を向け、私の手を取って微笑んだ。


「王子として君に敬意を表するよ、ヒルノ。」


 彼はそういうと片膝をついて、私の手に顔を近づけるとそのまま手の甲に口づけをした。


 私はびっくりして慌てて後ろを向き、カリーフとオラべの方を見た。それに対してカリーフは苦笑いを浮かべていて、オラべは真顔のまま私に向かって言った。


「そいつはそういう奴だ。」


 この学園にまともな奴はいないのか…。私は、表情を変えないまま2人の方に顔を向けながら固まってしまった。


 ステイが私の手に口づけをした後、周りの取り巻きからはまたもや黄色い歓声が上がった。


「キャー!ステイ様ー!」


「イケメンでございますわー!」


「ヒルノ様ー!後でその手の甲を舐めさせてくださーい!!」


など、お馴染みの言葉が聞こえてきた。


 私は片膝をついて上目遣いで私のことを見つめてくるステイと、歓声を上げ続ける彼の取り巻きにずっと戸惑ったままだった。


 ステイに手を掴まれたまま動くことができず、彼の取り巻きに注目を受けて…。今は一体どうするのが正解なんだろうと考えていた。


 すると、いきなり一人の女生徒の声が聞こえてきた。


「ステイ様、ヒルノ様が困ってらっしゃいますよ?」


 彼女はそう言うとステイの取り巻きを掻い潜り、私達のもとへとゆっくりと歩いてきた。


 


 




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