第17話 メインヒーローはカリフォルニアロール
オラべに話しかけてきた男子生徒は、微笑みながらゆったりと歩いてきた。
その男の子は、ベージュ色の少し長めの髪で、大人っぽくて整っている目鼻立ちに、それを際立たせる眼鏡をかけ、男子の中でも頭一つ抜けて高い身長で、そして全体的に穏やかで柔らかい雰囲気を纏っていた。
「急にいなくなったからびっくりしたよ。」
「ああ、ちょっと一人で歩きたくなってな。」
その眼鏡の男の子とオラべは親しげに話していた。やがて、その男の子はこちら側に歩いてくると再びオラべに問いかけた。
「談笑中だったかな?」
「…ん?談笑とはなんだ?」
「楽しくお話するという意味だね。」
「そうか。まぁ、知っていたがな。…違ぇーよ!コイツが突っかかって来たから喧嘩してたとこだ。」
そう言ってオラべは私のことを指さした。私はそれに怒りながら反論した。
「はぁ?あんたでしょうが!非を認めずに謝ってこないのは!」
「ん?非とはどういう意味だ?」
「うるさい!」
「ハハッ、二人ともとても仲がいいね。」
眼鏡の男の子は微笑みながら言った。それに対して私達は再び同時に否定した。
「仲良くないから!」
「仲良くねぇーよ!」
「そうかい?でも、喧嘩するほど仲がいいって言うよ?それでいくと君達はとても仲が良いってことにならないかい?それに、もし仮に、本当に仲が悪いのだとしても、それはこれから仲を深められる余白がたくさんあるってことだし…いいんじゃないかな?」
私達二人から大声で否定されても、その男の子は優しく微笑んでいた。すると、そこにメリルが駆け寄ってきて彼に笑顔で言った。
「あなたもそう思う?私もそう思うよ!みーんな仲良しがいいよね!」
「ええ、もちろん。」
「私と一緒だー!嬉しいな~!私、メリルっていうの!あなたのお名前は?」
「僕はカリーフ。カリーフ・オルニアロール。よろしくね、メリルちゃん。」
「うん!よろしくね、カリーフ君!私、あなたのことカリーフ君って呼ぶね!」
メリルとその男の子はそう言って笑い合っていた。私はその光景をジト目で見ながらオラべに言った。
「…明るい人ね。」
「ああ。こいつはそういう奴だ。」
私はこの人が誰なのかわかる。そう、この人はオラベと同じ、メインヒーローの内の一人だ。彼も公爵家の子息で、性格は明るくて優しく、それに加えて頭もいい、所謂優等生キャラである。
やがて、その男の子はメリルから目を離して、私の方を見ると少し驚いたような顔をして言った。
「おや?よく見るとクリムブリュレ侯爵家のご令嬢、ヒルノ・クリムブリュレ様ではないですか?」
彼はそう言うと私のところまで歩いてきて、右足を引き、右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出し、お辞儀をした。私は急な彼の行動に困惑して、どうすればいいのかわからないでいた。
すると、その様子を見たカリーフは少し笑って私に言った。
「…なんてね。びっくりしたかい?」
彼はそう言うと、頭を上げて私の目を見て微笑みながら言った。
「久しぶり、ヒルノちゃん。子供の時、遊んで以来だね。」
彼の目は真っ直ぐ私を見つめていた。
それを聞いた私は、困惑しながら彼の顔を見て言った。
「…えっ、会ったことあったっけ?」
「!!?」
私の発言にカリーフはとても驚き、そしてショックを受けたような表情をしていた。それは宛ら、ゴム人間に雷が効かなかった時の神様みたいな驚き方だった。
「えっ…!?お、覚えてないのかい?子供の頃、一緒に遊んだじゃないか!?」
「…?」
「ほ、ほら、騎士とお姫様ごっことか、宝探しゲームとかやって…覚えてないかい?」
「…うん。」
「なっ…!!!」
私の返答を聞くとカリーフはこの世の終わりみたいな表情を浮かべ、膝から崩れ落ちた。
彼はがっくりと項垂れると小声でブツブツと喋り出した。
「…いや…まぁ…そうだよね…。…君みたいな綺麗で明るくて友達もいっぱいいるまるで太陽のような人間が僕みたいな暗くて冴えないナメクジみたいな男のことを覚えてるわけないよね…。あっ…こんなこと言うとナメクジに失礼か…。…ぼくはすべての動物より下の存在なんだから…。…ハナクソだ。…ハナクソくらいが僕にお似合いだろう…。」
「えっ…?どうしたの、急に…?」
「…いいんだ、いいんだ。…気にしないで。僕みたいなハナクソ人間が君のような高尚な人間に気を遣わせることさえあってはダメなんだ…。…せめて来世はハナクソはハナクソでも君の鼻の中のハナクソに生まれ変わりたいな…。あっ…こんなこと言うと君のハナクソに失礼か…ごめんよ…。」
「…いや、その前に私に失礼だから。さっきまで明るかったのに、なんで急に悲観的になったのよ!?」
私は、相変わらず項垂れているカリーフを見て、驚きながら言った。すると、それを隣で見ていたオラベが私に答えた。
「こいつはこういう奴だ。」
「こういう奴って…。その一言では片付けられないでしょ、これ。」
私は、地面の中に埋まりそうな勢いで沈んでいるカリーフを指差して、呆れた表情で言った。
すると、カリーフは生まれたての子鹿のように手足を震わせながらゆっくりと立ち上がった。
そして、まるでゾンビのような顔色と表情で私の方を見て言った。
「…失礼。…少々、取り乱しちゃったけど…もう大丈夫。」
「全然大丈夫なように見えないけど…。作画崩壊した時みたいな顔になってるわよ?」
私はそう言って彼の顔を呆れながら見ていた。すると、彼は徐々に元の美男子の顔つきに戻っていき、やがて少し悲しそうな表情で私を見つめてきた。
「…あっ。」
私は思わず声を出してしまった。
彼の悲しそうな顔を見て、私は思い出した。
…そうだ、私は彼と会ったことがある。いや、それだけじゃなく、彼の言う通り遊んだりもしていた。
そうか…あの時のあの子か。
「…あなたのこと、思い出したかも。」
「…えっ?本当かい?」
「…うん。…クソザコよわむしナメクジめがね君?」
私がそう言うと、彼は悲しい顔からすごく明るい笑顔になり、私の両手を掴んで嬉しそうに言った。
「そ、そうだよ!僕はクソザコよわむしナメクジめがね君だ!!」
「あー…やっぱり…。」
「そう、そうだよ!いや〜嬉しいな〜!思い出してくれて!」
「…このあだ名、思い出されて嬉しい?」
カリーフは私の両手を掴んだまま上下に動かした。
彼は一度、私の家に来たことがある。
幼き日の彼は、明るさなど全く持ち合わせていない、ほとんど笑わない子だった。そう、最初に見せた明るい彼ではなく、先程チラと見えた暗くてネガティブな彼だ。昔の彼は常時後者だった。
私が初めて見た彼は、母親と手を繋ぎ、俯きながら静かに佇んでいた。そんな彼への私の第一印象は、「弱そう」であった。
当時のまだ幼かった私の頭には、その言葉が真っ先に浮かんできた。
そしてその後、私とカリーフは二人になった。正確に言うと、私の両親とカリーフの両親が広間で話し合いをしていたので、私は彼と一緒にいるしかなかった。
子供が二人いれば、自然と何かをして遊ぶようになるのが普通なのかもしれない。
しかし、当時の私は彼に全くと言っていいほど興味がなかったので、話そうとすらしなかったのを覚えている。
私はカリーフのことをいないものとして振る舞った。すると、彼は小さな暗い声で「一緒に遊ぼう」と私を誘ってくれた。だが、私はその誘いすら無視した。
その当時の私は、性格の悪いわがままお嬢様であった。自分の気に入らないものはとことん跳ね除けていた。だから、カリーフに対しても、ずっと無視を貫き通した。
しかし、カリーフは弱々しい声ながらも私をずっと誘い続けた。私に無視されようとも、何度も何度も。そして、ついに私は折れて、しつこい彼の誘いに乗った。
「いや〜、あの時は楽しかったな〜!騎士とお姫様ごっこ、覚えてるかい?君がお姫様の役で、僕がその御付きの騎士でさ〜、君の命令で、君の部屋にケルベロスが入って来ないように扉の前で騎士の僕が見張ったりしてさ〜!」
「あ…うん…。」
たぶん、それ遊んでるんじゃなくて、カリーフが面倒だった私が、何かしらの理由をつけて、部屋から追い出しただけじゃないかな?
「あと、宝探しゲームとかやったよね〜!家のどこかにファフニールの鱗があるはずだから、手分けして探そうって言って半日くらい探してたよね〜!今考えるとそんなものあるわけないのにさ〜、アハハッ!」
「…あはは…そうだったね〜…。」
たぶん、探しに行ってないな、私は。いや、部屋から出てすらいないな、おそらく。これも面倒だった彼を遠ざける私の策だろう。
幼き日の私はやることがエグいな…。自分でもひどい奴だと思う。
「…なんか…ごめんね?」
私は、苦笑いをしながら彼から目を逸らして言った。それを聞いたカリーフはキョトンとした顔で私に言った。
「何がだい?」
「…いや、別に…。」
私は、そう言って下を向いた。
「すっごーい!ヒルノちゃんとカリーフ君はお知り合いだったんだね!」
今までの話を聞いていたメリルが、私とカリーフに向かって笑顔で言った。
「うん、そうなんだよ。ヒルノちゃんと僕は知り合いなんだ。」
カリーフもそう言ってメリルに笑いかけた。そして、彼はその後、メリルの目を真っ直ぐ見つめると、優しい声で彼女に言った。
「君はメリルちゃんだったよね?これからよろしくね。」
「うん!」
メリルはそう言って大きく頷いた。それを見たカリーフは彼女に微笑みかけてから、今度はニーナとクロワの方に向かった。
そして、彼女らにも微笑みかけて言った。
「ニーナちゃんとクロワちゃんだよね?君達もよろしくね。」
ニーナはいきなり話しかけられて慌てていた。しかし、すぐにカリーフにお辞儀をすると丁寧に言った。
「カ、カリーフ様!こ、光栄でございますわ!よ、よろしくお願い致します!」
ニーナがそうすると、クロワもそれを見て同じようにお辞儀をした。
「…よろしくお願い致します。」
そんな二人を見てカリーフは微笑んだ。そしてその後、オラベの方に向き直った。
「じゃあ、オラベ君。そろそろ戻ろうか、彼のところへ。」
「ああ。…ってか、あいつと一緒じゃなかったのか?」
「いや…それがここに来る直前まで一緒だったんだけど、いつの間にかいなくなってて…」
「ねぇ、あいつって誰?」
私は二人の会話に割って入って聞いてみた。
するとその時、二人が返答をするよりも前に知らない男の子の声が聞こえてきた。
「君達。ここにいたのか。随分と探したよ、フフッ。」
私が声の主の方を見ると、そこには大勢の女子生徒を引き連れた男子生徒がいた。その男の子は、少し笑みを浮かべながら、ドヤ顔をして言った。
「フッ…待たせたね。」
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