第16話 喧嘩と仲直り
オラベはキョトンとした顔で聞いてきた。
私は少し戸惑いながらもその問いに答えた。
「えっ、いや…。マドレーヌ魔法学校は、私達が今日から通い始めるこの学校の名前だけど…?このオマンジュウ王国の中で一番の貴族学校の…。」
「…ああ、そうか。…ん?オマンジュウ王国ってのはなんだ?」
「…オマンジュウ王国は今私達が暮らしてるこの国の名前でしょ?」
「…。」
「…まさか、知らないの?」
「…あぁん?知ってるに決まってんだろ!ちょっと忘れちまってただけだ。」
「自国の名前をど忘れするなんてことある?」
私は懐疑的な目で彼のことを見つめた。私にジッと見つめられたオラべは、それに気づくと顔の前で腕を払い、私から目を逸らした。
「うるせーんだよ!おめぇは!…とにかく、俺が言いたいことはよそ見してっとケガすっかもしれねーから前見て歩けってことだよ、バカ!」
「バカとはなによ!あんた、さっきのくだりがあったのによく人のことバカって言えたわね!このブーメラン野郎が!」
「なんだとてめぇー!!…ブーメランってなんだ?」
「いちいち聞いてくんな!好奇心旺盛な子供か!」
「ん?好奇心旺盛とはなんだ?」
「うるさい!」
と、突然、言い争う私達の間にある人物が割り込んできた。
「ねぇねぇ、二人とも!」
そう言って私達二人を見つめていたのはメリルだった。
遠くの方に駆けていったはずの彼女は、私達が言い争っている間に、いつの間にか戻ってきていた。明るい笑顔で私達に呼びかけるメリルに対して、私とオラべは怒りの矛先を彼女に向けるかのように強い口調で言った。
「あぁん?なんだ、てめぇーは?」
「なによ、メリル?」
私達に凄まれてもメリルは変わらず笑顔で対応した。
「そんなに大きな声出したらお腹すいちゃうよ?」
「…いや、どうでもいいでしょ、今はそんなこと。」
「確かに、それは困るな。」
「おい。」
メリルに賛同したオラべに私は突っ込みを入れた。メリルは不思議そうな顔をしながら私に問いかけてきた。
「えーっ!どうして!?ヒルノちゃんもお腹が減ると困るでしょ?」
「いや、だから関係ないでしょ、今。それに大声出したからって別にお腹減らないし。」
「俺はそこの女に賛成だ。腹が減るのは確かに困る。」
「いや…。」
私が反応に困っているとメリルが思い出したかのようにオラべに言った。
「あっ!そういえば忘れてた!はじめまして!私、メリルっていうの!あなたのお名前は?」
笑顔でオラべに問いかけるメリルに彼は強い口調で答えた。
「あっ?なんだ、お前?急に話に入り込んできやがって。関係ねぇー奴は黙ってろ。」
「…あんた、さっきメリルに賛同してたでしょうが。」
「うるせーんだよ、てめぇはいちいち!…とにかく、関係ねぇー奴は話に入ってくるな。」
鋭く睨みながらそう言ったオラべに、メリルはより一層輝かしい笑顔で彼に言った。
「関係なくないよ!ヒルノちゃんは私のお友達で、そのヒルノちゃんとお話しているあなたも私のお友達だよ?」
「…友達だと?」
「そう!お友達!だから、あなたのお名前を私に教えて!」
「だから、言わねぇーって言ってるだろ。」
「オラべよ。オラべ・ジターリアンって言うんだって、そいつ。…フッ。」
「おい!言うんじゃねぇーよ!そして、笑うな!」
私は睨んできたオラべのことを無視してそっぽを向いた。
「オラべ君って言うんだ!じゃあ、私はオラべ君って呼ぶね!オラべ君はヒルノちゃんと何のお話をしてたの?」
メリルはオラべに急接近して、輝かしい笑顔で尋ねた。オラべはそんなメリルに気圧され、慌てて顔を彼女から背けていた。私にはその時、彼が一瞬、顔を赤らめているように見えた。オラべは態度とは裏腹に強い口調でその質問に答えた。
「い、言わねぇよ!」
「ニーナが前方不注意でそいつとぶつかって、ニーナはすぐ謝ったんだけど、そいつが突っかかって来たから、私が逆ギレしてたのよ。」
「おい!」
私はまたしても睨んできた彼から目を逸らし、知らぬ顔をした。
「メリル、あんたはどう思う?オラべの行動に正当性はあると思う?」
「…おい、正当性ってのはなんだ?」
「…。」
私はオラべの問いを無視してメリルを見つめていた。私に問われたメリルは口をポカーンと開けたまま、斜め上を向いてしばらく考えていた。そして、少し経った後、笑顔で私の方を見て言った。
「ヒルノちゃん!正当性ってどういう意味?」
「…えぇ…。」
私はメリルを見ながら困惑した表情になった。…ダメだこいつら会話にならない。私の頭に浮かんだのはその言葉だった。
「…お前もわからないのか?」
オラべはメリルの方を見て言った。すると、メリルも彼の方を見て明るい笑顔で言った。
「うん!わからないよ!オラべ君も?」
「…いや、お、俺はわかるぞ。」
「えーっ!すっごーい!オラべ君って頭いいんだね!」
「…ま、まぁな。」
オラべはそう言ってメリルから目を逸らした。しかし、彼の表情はどこか喜んでいるように見えた。
「正当性があるかっていうのは、正しいかどうかって意味よ。」
私は呆れた顔をしながら2人に向かって言った。
「あ~なんだ!そういう意味か!」
「ふん。まぁ俺は知っていたがな。」
メリルは私の方を向いて言った。
「正しいかどうかはわからないけど、オラべ君にも何か伝えたいことがあったんじゃないかな?」
「…伝えたいこと?」
「そうだよ!ニーナちゃんとオラべ君がぶつかっちゃったんだよね?だから、オラべ君とニーナちゃんでもう一回ごめんなさいしよ?」
そう言うとメリルはニーナの方に駆けていき、彼女の手を掴んでオラべの方に引っ張った。ニーナは突然手を引っ張ってきたメリルに困惑しながら言った。
「ちょ、ちょっと!」
「なっかよーし、なっかよーし♪」
メリルはそんなニーナを他所に、彼女のことを引っ張り、オラべの前に移動させた。無理矢理彼の前に引っ張り出されたニーナは、どうすればいいかわからず戸惑っていた。そして、オラべもどう対応すればいいかわからず、同じく戸惑っていた。
そんな彼らに一切構わず、メリルは笑顔で二人に話した。
「はい!ニーナちゃん!オラべ君!ごめんなさいしよ?」
メリルにそう言われたニーナは、彼女に反抗したい気持ちはあれど、オラべには謝らなければいけないという気持ちがあるようで、一瞬メリルを睨んだ後、すぐにオラべに向き直って深々と頭を下げていった。
「本当に申し訳ございませんでした、オラべ様。」
深々と頭を下げたニーナにオラべは顔を逸らしながら言った。
「…ああ、構わねぇーよ、別に。…とにかく、俺が言いたいことは、前を見て歩かねぇーと危ねぇーから注意しろってことだ。…それと…悪かったな、ぶつかって。…ケガないか?」
「…は、はい!お、お気遣いいただきありがとうございます。」
ニーナはオラべの顔を戸惑いの表情で見ながら言った。オラべは相変わらず顔を逸らしたままであった。そんな二人を見たメリルは嬉しそうに大きな声で言った。
「はい!これで二人とも仲直りね!もう、お友達だよ!」
私はその様子をしばらく静かに見ていた。そして、私はメリルの様子を見ていて少し情けなさを感じていた。
確かにオラべの態度は気に食わず、理不尽に突っかかってきたように見えた。それに対して感情的に反論して、話を混ぜ返すことしか私はしなかったが、メリルは明るく振舞うことでこの場を収めた。
それに私はオラべが一方的に悪いと決めつけて、彼の主張を聞き入れようとしなかった。しかし、メリルにはそれができた。
さすが、正ヒロインといったところだろうか。
「…あんたは結局、前見てなきゃ危ないよってことを伝えたかっただけなのね。」
私はオラべの方を見て言った。彼は、私の方に顔を向け、しばらく無言で私を見つめていた。私は見つめてきた彼をジッと見つめた後、ゆっくりと口を開いて言った。
「…私も悪かったわ。あなたの言いたかったことを聞き流したこと、反省する。」
私がそう言うと、彼は目を閉じてゆっくりと頷いた。そして、再び目を開いた後、一呼吸おいてから言った。
「…ああ、反省しろよ。」
「おい。」
「…なんだよ?」
「…いや、ここはあんたも『俺も悪かったよ』って謝るとこでしょーが、常識的に考えて。」
「…ん?常識的とはなんだ?」
「だから、いちいち聞いてくるな!」
「ヒルノちゃんとオラべ君はとっても仲良しだね!」
メリルは私達の様子を見ながら笑顔で言った。
「仲良くないから!」
「仲良くねぇーよ!」
私達は同時に同じような反応をした。メリルは私達に迫られても相変わらず笑っていた。そんなメリルに私達二人はギャーギャーと文句を言っていた。
すると、突然オラべの後ろの方から男の人の声が聞こえてきた。
「オラべ君、ここにいたんだね。随分と探したよ。」
「…おお、やっと来たか。」
「…?」
私が声のした方向を見ると、一人の眼鏡を掛けた男子生徒が立っていた。
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