第14話 学校探索と中庭

「ヒルノちゃーん!!一緒に学校見て回ろー!!」


「…いや、いいや。」


「えーっ!!」


 私はテンションが異常に高いメリルに気圧されながらも彼女の誘いを断った。


 ホームルームが終わって、とりあえず解散となった。今日の学校行事は夜からの新入生歓迎パーティーを残すのみである。その時間になるまで生徒達には自由時間が与えられた。


 私は、疲れていた。だから、この時間は寮で休もうと思っていた。前世の私なら友達やら喋れる人を増やすために奔走していたかもしれないが、今の私は違う。

 我がまま言ったって許されるはず。なんたって悪役令嬢なんだから。


「一緒に学校の中、見て回ろうよー!」


 メリルは私が断ったにもかかわらず、めげずにもう一度誘ってきた。


「私はパスするわ。」


「ヒルノちゃーん!おねがーい!」


 すると、そこにニーナとクロワがやって来た。


「ちょっと、あなた!迷惑ですわよ!何度も何度も!」


 ニーナはメリルに向かって言った。


「あっ!こんにちは!はじめまして!私、メリルだよ!よろしくね!あなたのお名前は?」


 眩しい笑顔でメリルはニーナの手を握って言った。しかし、ニーナはメリルの手を振り払って、彼女を睨みながら厳しめの口調で言った。


「あなたみたいな無礼な人に名乗る名前はないわ。」


「…『ないわ』ちゃん?『ないわ』ちゃんっていうのね!じゃあ、これから『ないわ』ちゃんて呼ぶね!」


「違うわよ!『ないわ』は名前じゃないわ!」


「…?『ちがうわ』ちゃん?」


「違うわ!」


「わかった!『ちがうわ』ちゃんね!」


「ちがーう!!」


 ニーナは右手の人差し指を上に向け、大声でツッコんだ。


 たぶん、これをコテコテなやり取りだと思うのは、私に前世の記憶が戻ったからだろう。私はニーナのツッコミを見て、懐かしさと恥ずかしさを同時に感じた。


「…ニギリーナよ!話が進まないから特別に名乗ってあげるわ。」


「そうなんだ!よろしくね、ニギリーナちゃん!ニギリーナちゃんも一緒に学校見て回る?」


「結構よ。あなた一人で行きなさい。」


「えーっ!私とヒルノちゃんと一緒に学校回ろーよ?」


「ヒルノ様は行かないと仰られているでしょ?それにあなた、無礼よ?ヒルノ様に馴れ馴れしくして!そもそも、あなたみたいな平民の家の子が、ヒルノ様と軽々しく話すこと自体…」


「こら。やめなさい、ニーナ。」


 私はニーナの頭に右手をポンと置いて、彼女の発言を遮った。


 悪役令嬢になったとはいえ、今の発言はあまり気持ちのいいものではない。私を慕ってくれている子が言うなら尚更だ。


 私はニーナの頭に手を乗せたまま、めんどくさそうな表情で彼女を見ていた。いきなり、頭に手を乗せられた彼女は慌ててこちらを向いた。そして、私の表情から何かを読み取ったのか、彼女は少し下を向きながら言った。


「…申し訳ありません、ヒルノ様。」


 ニーナは、唇を少し強く閉じ、目線を左下にやった。彼女の表情からは申し訳なく思っている様子が感じられたが、同時に納得のいってない様子も感じられた。


 私は少し険悪になってしまった空気を変えるために、ニーナを見つめていた時の表情のままメリルに目線を向けた。


「…しょうがない。付き合ってあげるわ。みんなで一緒に学校を見て回りましょ。」


 私の言葉を聞いた瞬間、メリルは再び明るい笑顔になった。


「やったー!ありがとー、ヒルノちゃん!ニーナちゃんも一緒に回ろうね!」


 メリルはそう言ってニーナの肩に両手を乗せた。ニーナはそれを振り払う素振りを見せながら強めの口調で言った。


「ちょっと、あなた!初対面なのに馴れ馴れしいわよ!それにあなたがわたくしのことニーナって呼ぶの、まだ許可してないんだけど!」


「えへへ!もう今日から初対面じゃないよ、ニーナちゃん!」


 私はわちゃわちゃと戯れている二人を呆れた顔で見た後、今まで後ろに下がって前に出てこなかったパンナの方を向いて言った。


「クロワもついて来てね。こいつらの面倒は私ひとりじゃ見切れないから。」


「…はい、ヒルノ様…。」


 クロワは私と一瞬目を合わせた後、すぐに逸らしてから言った。




 私達は教室を出て、学校の中をいろいろと見て回った。私達のクラス以外の教室、大広間や食堂、理科室やら美術室やらの授業で使う教室、職員室、保健室、トイレなどなど。


 ある程度学校を見回った私は、あることに気が付いた。


 なんか、前世で通っていた学校に似てない…?


 普通、この世界観の学校に食堂やら理科室やらがそのままの名前で存在するものなのだろうか?


 そんな疑問を頭に浮かべながら歩いていると、いつの間にか中庭についていた。

 

 中庭は、生徒達の憩いの場である。


「わー!!すっごく大きな中庭ー!!」


「あんた、いちいちうるさいわよ!」


 はしゃいで遠くに駆けていくメリルに、ニーナが怒りの表情を浮かべながら言った。私はそのやり取りを呆れた顔で見ながら気怠そうに言った。


「へい、2人とも。ここらで休憩にしない?いろいろと歩き回っておばさん疲れたわ。」


 私がそう言うと、さっきまでメリルにプンプンと怒っていたニーナが、明るい笑顔をこちらに向けてお淑やかに言った。


「ええ、もちろんですわ、ヒルノ様。あちらにゆっくりできそうな…」


 ニーナは後ろを歩いている私に喋りかけながら歩いていた。


 と、その時、前から歩いてきた男の人と、後ろを見ながら歩いていたニーナがぶつかってしまった。


「あっ…。」


 私はその光景を見て、声を漏らしてしまった。


 ニーナはぶつかった反動で少しよろめいた。彼女はその後、ぶつかった相手のことを一瞬睨んだが、相手の顔を確認した瞬間、驚いた様子を見せ、慌てだした。


 ニーナとぶつかった相手は、彼女のことを睨みながら言った。


「お前、どこに目つけてんだ?」

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